藤石波矢・辻堂ゆめ著『昨夜は殺(や)れたかも』(講談社タイガ、フB06、2019年9月18日講談社発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
平凡なサラリーマン・藤堂(ふじどう)光弘。夫を愛する専業主婦・藤堂咲奈(さきな)。二人は誰もが羨む幸せな夫婦……のはずだった。あの日までは。
光弘は気付いてしまった。妻の不貞に。咲奈は気付いてしまった。夫の裏の顔に。彼らは表面上は仲のいい夫婦の仮面を被ったまま、互いの殺害計画を練りはじめる。気鋭の著者二人が夫と妻の視点を競作する、愛と笑いとトリックに満ちた "殺し愛" の幕が開く!
光弘パートを藤石氏が担当執筆し、咲奈パートを辻堂氏が担当執筆し、自分のパートで殺害トリックを仕掛けて相手にパスし、相手は危機を回避して仕掛けをし返してまたパスという風に書き進めていった。(あとがきp347)
ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが初共演した映画『Mr.&Mrs. スミス』と同じ設定だ。映画では、スゴ腕の暗殺者2人が相手の正体を知らずに結婚するが、数年たったある日、互いの正体に気がつき、銃での撃ち合いになる。
しかし、この小説の二人は本職の殺し屋ではないので、互いの正体に気づかないふりを装いながら、逮捕されないように工夫したさまざまな方法を互いに仕掛け、互いに防ぎ、しかも相手を愛しているかのふりを続けるところが壺だ。そして、二人共、表面の顔とはまったく違う裏の顔を持っているのだ。
というわけで、全体にミステリーなのだがコミックタッチだ。
藤堂(ふじどう)光弘:小さな人材派遣会社「株式会社ランカージョブ」の4年目で最古参の社員。秘宗拳の使い手。
藤堂咲奈(さきな):主婦業ばっちりの専業主婦。光弘には秘密で週2回「シェルブルー」でアルバイト。
梶谷:ランカージョブの社長。28歳。新庄一家の組長と愛人の子。
野中:ランカージョブの女性社員。33歳。入社数か月。「奥様が男性と歩いていました」と光弘に告げ口。
黒澤瑞希:エステティックサロン「シェルブルー」店長。咲奈の友人。
明石:公認会計士。一般企業の経理部勤務の傍ら「シェルブルー」の経理担当。イケメン。
若宮葵:派遣として「シェルブルー」で働く。
田之倉哲哉:廃業した元暴力団・若宮興業の若手。
私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)
途中からバカバカしくなるが、面白くて読み進めてしまう。著者たちが楽しく、乗って書いているので、読む方もそれに乗っかって一気読みした。野暮な事言わないで、それでいいんじゃないという本。
藤石波矢(ふじいし・なみや)
1988年栃木県生まれ。
『初恋は坂道の先へ』で第1回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞を受賞し、デビュー。代表作となった「今からあなたを脅迫します」シリーズは、連続ドラマ化され、奈院ゆりえにより、漫画化(KCデラックス なかよし)もされている。
他の著作に、『昨日の君は、僕だけの君だった』(幻冬舎)、『救ってみろと放課後は言う』(KADOKAWA)、『撮影現場は止まらせない! 制作部女子・万理の謎解き』(角川文庫)、『時は止まったふりをして』『流星の下で、君は二度死ぬ』(新潮文庫nex)などがある。
メモ
旅行に絶対必要なものは? 帰る場所。
「毒をお皿に塗るトリックはね、推理小説を読んで学んだんだよ。他にも、包丁の片側に塗っておいてお肉を切るとか、…」「推理小説を実用書として使うんじゃない! ミステリー作家が悲しむぞ!」