hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

ハンナ・ティンティ『父を撃った12の銃弾』を読む

2022年05月11日 | 読書2

 

ハンナ・ティンティ著、松本剛史訳『父を撃った12の銃弾』(2021年2月25日文藝春秋発行)を読んだ。

 

表紙裏にはこうある。

父の身体には、たくさんの銃弾が刻んだ傷跡がある――。

エドガー賞最優秀長編賞 最終候補。

みずみずしい感動を呼ぶ傑作ミステリー。

 

12歳の少女ルーは、父とともに亡き母の故郷に移り住んだ。それまでは父とふたり、各地を転々としながら暮らしてきたが、娘に真っ当な暮らしをさせようと、父サミュエルは漁師として働くことを決めたのだ。しかし母方の祖母は父娘に会おうとしない。母はなぜ死んだのか。自分が生まれる前、両親はどんなふうに生きてきたのか。父の身体に刻まれた弾傷はどうしてできたのか。真相は彼女が考える以上に重く、その因縁が父娘に忍び寄りつつあった……。

 

ティーンとしていじめや恋愛を経験して成長してゆくルーの物語と、サミュエルを撃った弾丸にまつわる過去の断章を交互に語り、緊迫のクライム・サスペンスと雄大なロード・ノヴェル、鮮烈な青春小説と美しい自然の物語を完璧に融合させ、全米各紙誌の絶賛を浴びた傑作。

 

原題は、"The Twelve Lives Of Samuel Hawley"。

 

犯罪者である父親・ホーリー、まだ中学生の娘・ルーと、直接は登場しない母親・リリーの物語。

娘・ルーと父親・ホーリーの現在と、かってのホーリーの身体に跡が残って「12発の銃弾」の過去の話が交互に進む。その底には母親・リリーの死にまつわる謎が流れている。

 

十代の頃から犯罪に手を染め、取立人として裏社会に生きるサミュエル・ホーリー。アリゾナ、アラスカ、ワイオミング、圧倒的な自然の中を、それぞれの場所で計12発の銃弾を浴びながら、銃と最小限の荷物を持って次の土地に移動する。ルーと二人になってからも半年か一年で、身一つで移動するという生活は変わらなかった。

 

もう一つ交互に語られる話は、ニューイングランドの落ち着いた港町オリンパスでの現在の出来事。ホーリーは12歳になったルーに落ち着いた暮らしをさせようと、母親リリーが生まれ村で定住しようとする。

ルーは、いじめ、初恋、閉鎖的な田舎町で様々な軋轢、衝突を経験しながら成長していく。父・ホーリーは娘に、妻・リリーはどんな女性だったのか、なぜ湖で溺れ死んだのか語ろうとしない。父と娘は仲が良いのだが、母の死の秘密が地雷のように底に横たわる。

 

ホーリーをけして許そうとしないリリーの母、ルーの祖母・メイベル・リッジ、面倒見よいハイスクールの校長でレストラン<ノコギリの歯>のオーナーでもあるグンダーソン、熱狂的環境保護活動家のメアリー・ヒックスと、その息子のときめきの同級生マーシャルなどなど。

そして、サミュエル・ホーリーのかっての相棒・ジョーヴ、二人が襲った屋敷の主・ナン、拳銃使いのタルボット、元ボクサーで犯罪組織のボス・キングなどが登場する。

 

 

私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで、最大は五つ星)

 

二つの流れが交互に登場する構成は成功している。各々の途中で流れが逆走することもなく、わかりやすい。

 

母の死の謎が底流にあるのだが、意外な驚きがあるわけでもなく、ミステリー性は強くはない。各地で犯罪を重ね、移動し、青年から父となるホーリーと、父を100%信頼できない闇がある成長過程の娘ルーの物語だ。ルーの淡い恋は、私には響くところがほとんどなかった。

 

小さな活字の367頁、1頁2段組、けっこう読みでがあり、私は休み休みでないと読めなかった。

 

「まるで交響楽のような驚嘆すべき一冊」とのニューヨーク・タイムズの賛辞は、色々な要素が流れていくという点では、私は賛成だが、感動の交響曲とは思えなかった。

 

 

ハンナ・ティンティHannah Tinti

米国の小説家。

マサチューセッツ州セーラムに育つ。書店、出版社、文芸エージェントなどに勤務。2002年に文芸誌「One Story」創刊し14年にわたり編集長。ニューヨーク大学などでライティング講師。

2005年短編集『ANIMAL CRACKERS』で作家デビュー。PEN/ヘミングウェイ賞次点

2009年長編第1作『THE GOOD THIEF』(未邦訳)で全米図書館協会のアレックス賞。

本書は第2長編でエドガー賞最優秀長編賞の候補、映画化検討中。

 

松本剛史(まつもと・つよし)

1959年和歌山県生れ。東京大学文学部卒。英米文学翻訳家。

訳書、チャイナ・ミエヴィル『オクトーバー』、ディーン・クーンツ『これほど昏い場所に』など多数。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする