hiyamizu's blog

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宮地尚子『ははがうまれる』を読む

2021年11月26日 | 読書2

 

宮地尚子『ははがうまれる』(2016年2月15日福音館書店発行)を読んだ。

 

福音館書店の内容紹介は以下。

多くの人のトラウマと向き合ってきた精神科医が、自身の経験や専門知識も交え、子育てのこと、母親を取り巻く様々な問題について、やさしく語りかけるエッセイ集。赤ちゃんの泣き声にイライラしてしまう、ママ友付き合いで自分一人がはずれているように感じる…。日常の小さな悩みや違和感、言葉にならない気持ちを丁寧にすくい取り、そこから抜け出すヒントを提示してくれます。月刊誌「母の友」連載時に多くの共感を呼びました。

 

「アウェイ感」、「身ごもる」、「ほどく」、「身体の記憶」、「3・11」の5テーマでまとめられたエッセイ集。

月刊誌『母の友』に掲載されたエッセイをまとめたもので、主に小さな子を育てている母親、父親などに向けて書いてある。著者は精神科医師で大学教授であるが、専門知識よりも、著者自身の子育ての経験をもとにわかりやすく語っている。

 

 

身ごもっていた友人が出産し、母になった。……なんだか不思議な気がしてくる。そして、「ああ、子どもが生まれただけではなくて、母もうまれたのだ」と思う。…子どもに赤ちゃん言葉で話しかけたりする彼女は、これまでの彼女でありつつも、新しく母として生まれたのだ。…

ただし、新しく生まれた子ども同様、新しく生まれた母も、育てられる必要がある。(p12~13)

 

最初は安心感を与えてくれる(自転車の)補助輪。いつの間にか必要がなくなっている補助輪。必要がなくなったら、邪魔っけにさえなる補助輪。親の役割もそんなものかもしれない、と思ったりする。必要がなくなるほうが、子どもは遠くまで行ける。(p39)

 

日本では、毎年2万5千人を超える人が自殺している。…それでも、子どもたちにこれだけは言っておきたいと思うことはある。それは、「本当に死のうとする前にSOSを出し続けてほしい」ということ。そして、「どうしてもつらいなら逃げてもいいんだよ」ということである。……逃げることも一緒だ。おかれた状況から離れ、外から距離をおいてみるだけで、せっぱつまった思考がほどけていく。(p102~104)  (まさに「逃げ恥」(逃げるは恥だが役に立つ)だ)

 

こどもの視点から見ると、大人とは全然違うところの旅のおもしろみがある。(p111)

(夏休みの海外旅行の後で、子どもに何が楽しかったと聞いたら、「プールで泳いだこと」と答えた。がっくり来て、次の年の夏休みは、プールのある会社の保養所で安くあげた。)

 

 

初出:「母の友」2010年~2015年

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め、 最大は五つ星)

 

母親の立場からの日常生活に密着したわかりやすい話で、書いていることはいちいち納得する。あるある感で共感するし、やっぱそれしかないよな、と思う。

 

しかし、贅沢を言えば、日常生活の中のわかりやすい語り口だけでなく、精神科医師、大学教授で、文化精神医学・医療人類学が専門の立場からの視点も匂わせてくれたほうが良かったと思う。

 

 

宮地尚子(みやじ・なおこ)

兵庫県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科地球社会研究専攻・教授。精神科医師。医学博士。専門は文化精神医学、医療人類学、トラウマとジェンダー。1986年、京都府立医科大学卒業。1993年同大学院修了。1989~92年、ハーバード大学医学部社会医学教室、および法学部人権講座に客員研究員として留学。近畿大学医学部衛生学教室勤務を経て、2001一年より、現職。

著書に、『トラウマの医療人類学』『環状島=トラウマの地政学』(共に、みすず書房刊)、『傷を愛せるか』(大月書店刊)、『震災トラウマと復興ストレス』(岩波ブックレット)、『トラウマ』(岩波新書)などがある。

 

 

呉夏枝(お・はじ)表紙の絵を担当

1976年、大阪府生まれ。美術作家。2012年、京都市立芸術大学美術研究科博士課程修了。主に、染織、刺繍、編む、結ぶなどの技法を使って作品を制作。織物を記憶が織り込まれたメタファーとしてとらえ、ほどくことで記憶を想起しようとするインスタレーションや、音声や写真を使った作品なども展開している。オーストラリア在住。

 

 

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