hiyamizu's blog

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太田愛『幻夏』を読む

2020年12月05日 | 読書2

太田愛著『幻夏』(角川文庫お75-3、2017年8月25日KADOKAWA発行)

 

裏表紙にはこうある。

毎日が黄金に輝いていた12歳の夏、少年は川辺の流木に奇妙な印を残して忽然と姿を消した。23年後、刑事となった相馬は、少女失踪事件の現場で同じ印を発見する。相馬の胸に消えた親友の言葉が蘇る。「俺の父親、ヒトゴロシなんだ」あの夏、本当は何が起こっていたのか。今、何が起ころうとしているのか。人が犯した罪は、正しく裁かれ、正しく償われるのか? 司法の信を問う傑作ミステリ。日本推理作家協会賞候補作。

 

人気TVドラマ「相棒」の脚本を書いた太田愛の二作目の小説。本作品『幻夏』は、前作『犯罪者』の前日譚を含む続篇。

 

3つの踊り場を持つ急な石段坂で、登校前に12歳の僕は尚と、尚の弟の拓と楽しく遊んでいた。尚は忘れ物をしたといって戻って行ったきり帰らなかった。川べりには尚のランドセルが残っていたが、中には翌日の時間割が入っていた。

 

興信所を始めた鑓水は修司をアシスタントに使っていた。「子供がいあんくなったんです」と電話が入り、鑓水が水沢香苗の家を訪ねると、「尚ががいなくなったのは23年前の9月2日です」という。見つからないことは確実で断ろうとすると、香苗は300万円入りの封筒を出し、鑓水の指は封筒から離れなくなった。香苗は家を出て行った。

 

相馬は駆り出された少女理沙の失踪事件の現場で、23年前に尚がいなくなった現場で見かけた印、スラッシュ、スラッシュ、イコール、バーティカルバーと同じものを発見する。鑓水の調査と、相馬の捜査は重なり合う。

 

捜査機関には証拠を全面開示する義務はない。検察は調書には被告に有利なことをまず記載せず、膨大な事件を抱えて多忙を極める裁判官は、検察に対するチェック機能を十分果たせない。その結果が有罪率99%で、冤罪が生まれる。司法構造が問題だと鑓水は主張する。
刑事裁判の原則は「十人の真犯人を逃すとも一人の無辜を罰するなかれ」だが、「世間が本当にそんなことを望んでいるか?」と常盤は反論する。

 

本書は2013年KADOKAWA刊行の単行本を加筆訂正したもの

 

太田愛(おおた・あい)
香川県高松市出身。大学在学中より始めた演劇活動を経て、1997年テレビシリーズ「ウルトラマンティガ」で脚本家デビュー。「相棒」

2012年、『犯罪者クリミナル上・下』(文庫化時『犯罪者』と改題)で小説家としてデビュー
2014年、本書『幻夏』で日本推理作家賞候補
2017年『天上の葦(上・下)』
2020年『彼らは世界にはなればなれに立っている』

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

ちょっと甘めの評価だが、3人の少年達の遊びぶりが生き生きと楽し気に描かれていたので、ついついワンランクアップしてしまった。

 

尚の行方不明という謎を最後まで引っ張って話を進めていくところはさすが有能な脚本家だ。中盤以降の復讐劇は、悪人側が偉そうなばかりで、無策なので、ちょっと無理筋が目立つ。

 

相馬のキャラが目立たないので、鑓水を主人公にしたほうが面白そうなのだが。次回作『天上の葦』が楽しみだ。

 

 

相馬亮介:深大署交通課の刑事。前作で裏金づくりの領収書にサインすることを拒んだことで、組織から交通課に飛ばされた。父は巡査で亮介が8歳のとき殉職。

鑓水(やりみず)七雄:零細興信所所長。相馬の大学時代の友人。元TV局員で、前作ではその後のフリーライター。

繁藤修司:前作でただ一人生き残った被害者。鑓水のただ一人の部下としてアルバイトの調査員。恋人は亜蓮。

 

水沢尚(なお)23年前に失踪。相馬の親友。は弟。

水沢香苗:尚と拓の母親。美人。前夫は柴谷哲雄で、殺人で刑務所へ。

 

常盤正信:元最高検察庁次長検事。TV解説者。孫娘で12歳の常盤理沙が誘拐された。

岡村武彦:警視庁刑事部参事官。一巡査からの叩き上げで、ノンキャリアの星。

寺石憲一郎:元東京高裁部総括判事。息子の孝之は盗撮の前歴あり。

倉石望:科学警察研究所検査官。捜査本部へ捜査協力。

鳥山浩:鑓水の友人。元TVカメラマン。

松井慎一:報道番組「ニュースプライム」のメインディレクター

 

漢字のお勉強

霙:みぞれ

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