hiyamizu's blog

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中川恵一『知っておきたい「がん講座」』を読む

2020年06月22日 | 読書2

中川恵一著『知っておきたい「がん講座」 リスクを減らす行動学』(2019年12月16日日経サイエンス社発行)を読んだ。

 

本書はわかりやすく、かつ詳細に「がん」の最新知識を紹介する本だが、内容は、お暇を作って最後の「メモ」を見ていただくか、この本を買っていただくとして、巻末にある著者の「知っておくべき7か条」(p202)を引用する。

  • 症状を出しにくい病気
  • リスクを減らせる病気
  • 運の要素もある病気
  • 早期なら95%が治る病気
  • 生活習慣+早期発見が大事
  • 早期発見のカギはがん検診
  • 治療法も選べる病気

 

 

私の評価としては、★★★★★(五つ星:読むべき)(最大は五つ星)

 

「がん」はもはやただ恐れている病気ではない。男性なら2/3がかかる病気で、突然の告知に呆然となる前に、知識を得ておくべき病気だ。

 

この本は、わかりやすく、丁寧に、最新の知識を、詳細な点まで、解説している。なにより、その情報が信頼でき、心根のやさしい(お会いしたことないので多分)、その著書から私が信頼する中川恵一氏の著書なのだ。

 

 

中川恵一(なかがわ・けいいち)

東京大学医学部附属病院放射線治療部門長
1960年東京生れ、1985年東京大学医学部医学科卒。放射線医学教室入局。

2003年~2014年東京大学医学部付属病院緩和ケア治療部長兼務

日本経済新聞で「がん社会を診る」を連載中。

『がんの練習帳』、『がんのひみつ』、『がんの正体』、『がんと患者の物語

中川恵一、養老孟司、和田秀樹著『命と向き合う - 老いと日本人とがんの壁

 

 

以下、メモ

 

序章 がんに人生を邪魔されないために

  • がんは年間38万人と日本人の死因のトップで、死因の3割弱。男性の3人に2人、女性の半数が生涯でがんにかかる。
  • 男性死因のうちのがんのピークは65歳~69歳で、女性は55歳~59歳がピーク。男性は70代以降、女性は65歳以降でがんで死亡する割合は低下し、がん以外で死亡する割合が高くなっていく。
  • 発がんの最大の要因は「がんに関連する遺伝子に起こる偶発的な損傷」。その2/3は偶然起きたDNAの複製エラー。
  • 喫煙者のがん死亡リスクは、男性で2倍、女性で6倍
  • 赤くなって3合以上飲むと食道がんが30~100倍増えるというデータがある。
  • 遺伝の影響は環境因子よりずっと少なく、原因全体の5%にすぎない。
  • 胃がんはステージ1の5年生存率は約95%、ステージ4は1割以下。
  • 焦げは避けるは都市伝説で、毎日焦げをトン単位で食べない限り、がんが増えることはない。

 

第1章 がんを知ろう

  • 私たちの体は37兆個の細胞からできていて、毎日1兆個が死んでいる。DNAの情報量は5GB(2万個の遺伝子)
  • 遺伝子複製のコピーミスでできたがん細胞は増殖が速く、ブドウ糖を大量消費する。
  • がん関連遺伝子は140個程度。発症するには2~10個のがん関連遺伝子に変異が蓄積する必要があり、通常10~30年かかる。がん関連遺伝子には、変異によってスイッチが入ると正常な細胞のガン化が進む「がん遺伝子」と、機能しなくなるとがん化を抑えられなくなる「がん抑制遺伝子」がある。
  • がんによる死亡のほとんどは遠隔転移だが、がん転移の仕組みはまだ分かっていない。
  • 子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)は、オーラルセックスで中咽頭がんを発症しやすい。とくに男性に。

 

第2章 リスクを減らす生活習慣を身につけよう

  • 自然の食べ物は安全で、残留農薬や添加物だけが危険ではない。天然の食材にも発がん性物質はある。米やヒジキに多く含まれる無機ヒ素は天然物質の中でもっとも発がんリスクが高い。米、とくに玄米はEUの基準値を超える。毎日玄米を食べるのは勧められない。
  • 大豆製品は乳がん予防効果がある。ただし、一日、納豆2パック、豆腐なら1丁程度にすべき。
  • コーヒーを一日5杯以上飲む人は肝臓がんの発症率が1/4になる。
  • 1日に2回以上歯を磨く人は、1回の人と比べて口の中や食道がんにかかるリスクが3割も低くなる。
  • 毎日15分程度の運動でも心血管疾患やがんの予防に役立ち、死亡率が14%減少、余命が3年延長される。
  • 夫が喫煙者だと妻のリスクは2倍、非喫煙者の妻の肺腺がんの原因の37%は夫からの受動喫煙。
  • お酒のエタノールは肝臓で「アセトアルデヒド」に分解され、「2型アセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)が酢酸に分解して解毒する。ALDH2の遺伝子には分解力の強い正常型と乏しい欠損型がある。両親からともに欠損型を受け継いだ、酒がまったく飲めない完全欠損型は日本人の約5%。問題は一方の親が欠損型である部分欠損型で、量を飲むと顔が赤くなり、大量飲酒を続けると食道がんのリスクは95倍になる。

 

第3章 早期発見の重要性と診断法を知ろう

  • 免疫細胞の攻撃をかわした一つのがん細胞が、細胞分裂により、10μmから約10億個の1センチ大になるには10年~30年かかる。しかし、1センチのがんの病巣は2年たらずで2センチになる。
  • 2センチ以下であればどの臓器のがんでもほとんど完治させることができる。
  • 細胞は「エクソソーム」という直径100ナノm前後の顆粒状物質を分泌して細胞間で情報伝達している。エクソソームが含む「マイクロRNA(リボ核酸)」は、がんの早期発見のマーカーとして期待されている。
  • 米国で交通事故で亡くなった人の60代の全員に甲状腺がん細胞が見つかった。ほとんどの場合、亡くなることはない甲状腺がんの全摘手術を受ければ、一生甲状腺ホルモンの薬を飲むことになる。甲状腺がんの検診はしない方がよい。
  • 前立腺がんのステージ1からステージ3まで、いずれお5年生存率は100%で、「不死の病」だ。治療の弊害の方が大きく、経過観察のみが良い。

 

第4章 治療法を理解しよう

  • 「免疫チェックポイント機構」は免疫が働き過ぎないように自ら抑制する仕組み。がん細胞はPD-L1という物質を作り、免疫細胞のPD-1(本庶佑教授が発見)と結合させ、免疫細胞の攻撃にブレーキをかける。オポジーボなどの「免疫チェックポイント阻害薬」はPD-1と結合しPDL-1でかけられたブレーキを解除する。副作用としてアレルギー反応や自己免疫疾患のリスクが高くなる。
  • がんはある臓器に発生したたった一つの不死細胞が免疫の監視網をかいくぐって増殖したもの。転移したすべてのがん細胞は最初に発生した細胞のクローンだ。たとえば、乳がんが肺に転移しても、肺から発生する肺がんとはまったく性質が違う。抗がん剤が転移先にも効くのはクローン増殖だからだ。
  • がん細胞は細胞分裂の際のコピー機能が破綻しているため、遺伝子変異が積み重なって種々の性質をもつ混成部隊に変貌していく。このため、当初は効いていた抗がん剤や分子標的薬などもだんだん効かなくなる。
  • 放射線治療では、数週にわたって連日放射線を照射する。正常細胞は放射による遺伝子の損傷はそのつど修復されるが、がん細胞ではダメージが積み重なり、アポトーシス(細胞の自死)や、自己細胞と異なってきて免疫が攻撃することで消えていく。

 

第5章 がんと生きる知恵を学ぼう

  • 「治癒」という言葉は、「治す」と「癒す(いやす)」とで成るように、がん治療と緩和ケアは同時に必要。
  • 希林さんは薬物療法を拒否し、転移した病巣へピンポイントで放射線照射を続けて、仕事していた。小林麻央さんは母親が絞ったオレンジジュースを飲んで、「朝から笑顔になれます。皆様にも、今日笑顔になれることがありますように」と亡くなる数日前にブログを投稿した。緩和ケアをしっかり行い、痛みをとれば、がんは最後まで自分らしく生きることができる病気なのです。

 

第6章 社会の中でがんと向き合う

  • 現在、すべての病院と指定された診療所のがん患者のデータは国(国立がん研究センター)が管理し、「全国がん登録」と呼ばれている。これは本人の同意なしで行われる。
  • 世界に誇るコンビニでタバコを売っている。たとえ1/4の売上を失ってもやめるべき。
  • 中国は「がん大国」。がん診断者、死亡者ともに世界の1/3。世界の肺がん死亡者の4割弱。成人男子の喫煙率約50%。

 

 

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