島本理生著『生まれる森』(角川文庫し36-8、2018年7月25日KADOKAWA発行)を読んだ。
裏表紙にはこうある。
あの人に出会ってから深い森に落とされたようになり、すべてはガラスごしにながめている風景のようだった――。失恋で心に深い傷を負った「わたし」。夏休みの間だけ大学の友人から部屋を借りて一人暮らしをはじめるが、心の穴は埋められない。そんなときに再会した高校時代の同級生キクちゃんと、彼女の父、兄弟と触れ合いながら、わたしの心は次第に癒されていく。恋に悩み迷う少女時代の終りを瑞々しい感性で描く名作。
主人公は大学生の女の子で野田(下の名前は不明)。高校生のとき予備校の講師で、離婚したばかりのサイトウさんと出会い、恋に落ちた。親子ほど年が違い、サイトウさんとは結ばれなかった。反動で、幾人もの男性と関係を持ち、妊娠した野田は、中絶し、より深い森の落込む。
傷心のまま大学生になり、同じ学科の加世ちゃんから夏休みの期間、一人暮らしの部屋を借りることになる。高校の同級生で、キャパクラ勤めで停学になったキクちゃんからキャンプに誘われる。地方公務員という兄・雪生と、15歳の弟・夏生と知り合う。
雪生が野田について言った。
「一緒に話して笑っていても、いつもなにかべつのことに気を取られているように見えたよ。キクコが、野田ちゃんと一緒にいると片思いしているときの気分になるって」
野田は「子供をおろしちゃったんです」と少し打ち明ける。
立教大学在学中の2004年、講談社より刊行され、2007年に講談社文庫。2018年角川文庫より新装版発行。
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
変な恋愛をして深い森に囚われてしまった少女が再生へ向かうという物語。いいんじゃない。
当時大学生だった著者は、まだ少女といってよい若い女性の未熟で傷つきやすい心を鋭く理性的な文章で描いた。しかし、もっとも遠い所に位置するおじいさんの心を揺さぶることはできなかった。
弱冠21歳で。第130回芥川賞の候補にあがったが、受賞したのは綿矢りささん・金原ひとみさん。受賞作には負ける。しかし、著者の才能は万人の認めるところで、2018年に直木賞を受賞した。
物足りないのは、サイトウさんがあまりに漠然としか描かれていないから、野田の気持ちも納得しにくい点。
加世はストーカーになった元カレについていう。
「だめなんだよ。あの人、私が文句を言うと、それならぜんぶ直すなんて言うし。なにも考えずにぜんぶ直すなんて、そういうところが嫌いだったなんてこと、わからないんだよね」
自分をしっかり持って、女性の言うことに反論しても嫌われるし、受け入れてもだめだし。トホホ。
島本理生の略歴と既読本リスト