小川糸著『ライオンのおやつ』(2019年10月7日ポプラ社発行)を読んだ。
ものがたり。
男手ひとつで育ててくれた父のもとを離れ、ひとりで暮らしていた雫は病と闘っていたが、ある日医師から余命を告げられる。最後の日々を過ごす場所として、瀬戸内の島にあるホスピスを選んだ雫は、穏やかな島の景色の中で本当にしたかったことを考える。ホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫は選べずにいた。
著者からのメッセージ
母に癌が見つかったことで、わたしは数年ぶりに母と電話で話しました。電話口で、「死ぬのが怖い」と怯える母に、わたしはこう言い放ちました。「誰でも死ぬんだよ」けれど、世の中には、母のように、死を得体の知れない恐怖と感じている人の方が、圧倒的に多いのかもしれません。母の死には間に合いませんでしたが、読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、と思い『ライオンのおやつ』を執筆しました。 おなかにも心にもとびきり優しい、お粥みたいな物語になっていたら嬉しいです。
雫さんはライオンの家に入って思う。(p36)
なんでも受け入れて、好きになる必要なんてない。
もっとわがままになっていいのだと、梅が、風が、私にそう囁きかける。
……
最後くらい、心の枷(かせ)を外しなさいと、神さまは私に優しく口づけしながら、そうおっしゃっている。
このホスピスの名前は「ライオンの家」
ライオンは? 動物界の百獣の王。(p136)
「そうです、その通りです。つまり、ライオンはもう、敵に襲われる心配がないのです。安心して、食べたり、寝たり、すればいいってことです」
「そっか、だからここはライオンの家なんですね」
おいしいコーヒーをいれるマスター、おやつに豆花をリクエストしたタケオさん、なれなれしいオヤジの粟鳥洲さん、人気作詞家のでエバリンボの先生たちはお先に失礼する。そして、…。
あの世の先生が言う。(p212)
「この間、女房に言われた。人の幸せっていうのは、どれだけ周りの人を笑顔にできたかだと思う、と」
生きることは。誰かの光になること。
自分自身の命をすり減らすことで、他の誰かの光になる。そうやって、互いにお互いを照らしあっているのですね。(p249)
海野雫(うみのしずく):幼い頃に両親を亡くし、叔父に引き取られて育った。33歳でステージⅣの癌を宣告され、レモン島と呼ばれる瀬戸内の島(大三島?)のホスピスで残された人生を過ごす。12月末入所で桜開花前までの命。
マドンナ:「ライオンの家」の代表。メイドの服装をして髪をおさげにし、真っ赤なエナメルのストラップシューズ、二つに分けて編んだお下げの7割は白髪の老婦人。
六花:(雪の異称)。雫の友。だいぶ前に先立った鈴木夏子が飼ってした犬。
狩野姉妹:シマ(姉)はご飯、舞(妹)はおやつ担当。「かのう」でなくて「かの」姉妹。シマ、マイで姉妹。
田陽地(タヒチ):葡萄畑でワインを作る
カモメちゃん:音楽セラピーのボランティア・スタッフ
私の評価としては、★★★☆☆(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
ホスピスで次々を亡くなっていき、主人公も徐々に弱っていき、やがて……、という話を暗くならず、静かに、まったりと、明るささえ感じられるように描く。著者の醸し出す雰囲気、筆力には感心する。
死んだ人が戻ってくる話は、私ははっきり妄想風に語った方が良かったと思う。雫さん死後の家族の団らんの項もカットした方が良かったと思う。
最近、評価が自分でも厳しめだと思う。正直、3日に一冊は、本の読み過ぎで、読書に飽きている。読み始めは、どれどれと興味が湧き読む進めるのだが、途中からいつもの話だなと、ハイハイハイと批判的に斜め読みする。この本でも、感動することはないのは、私の方に問題がありそうだ。
小川糸(おがわ・いと)
1973年生れ。山形市出身。
2008年、『 食堂かたつむり』イタリアのバンカレッラ賞、フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞受賞
2009年『喋々喃々(ちょうちょうなんなん)』
2009年『ファミリーツリー』
2010年『つるかめ助産院』
2016年『ツバキ文具店』
その他、『あつあるを召し上がれ』『さよなら、私』、『にじいろガーデン』『サーカスの夜に』
エッセイ『ペンギンと暮らす』『こんな夜は』『たそがれビール』『今日の空の色』『これだけで、幸せ 小川糸の少なく暮らす29か条』
絵本『ちょうちょう』
fairlifeという音楽集団で、作詞を担当。編曲はご主人のミュージシャン水谷公生。
ホームページは「糸通信」。
メモ
お姫様座り、女の子座り:膝から下を左右に少し広げてお尻を床につける座り方
「牛より乳を出し、乳より酪を出し、酪より生蘇(しょうそ)を出し、生蘇より塾蘇を出し、塾蘇より醍醐を出す、醍醐は最上なり」
酪はヨーグルト、生蘇は生クリーム、塾蘇はバター。醍醐は乳から得られる最上級のおいしいもの。醍醐味。