hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

小川哲『嘘と正典』を読む

2020年02月01日 | 読書2

 

小川哲著『嘘と正典』(2019年9月20日早川書房発行)を読んだ。

 

零落した稀代のマジシャンがタイムトラベルに挑む「魔術師」
名馬・スペシャルウィークの血統に我が身を重ねる「ひとすじの光」
東フランクの王を永遠に呪縛する「時の扉」
音楽を通貨とする小さな島の伝説を探る「ムジカ・ムンダーナ」
ファッションとカルチャーが絶え果てた未来に残された「最後の不良」
CIA工作員が共産主義の消滅を企む「嘘と正典」(書き下ろし)     

以上全6篇を収録

 

第162回直木賞候補作品

舞台はばらばらだが、いずれも時の流れを逆流するタイムトラベル技術にからむ話。

 

「魔術師」

マジシャン・竹村理道はテレビ出演をきっかけに売れっ子になるが、自分の魔術団を作り、映画制作に失敗し、姿を消す。しかし、10年以上経過後、突如カムバック公演を開き、舞台上では信じがたいことが起きる。

語り手は長男で、マジシャンになっており、父のトリックを見破ろうとしている姉とこの公演を見ている。

 

「ひとすじの光」

書けなくなった作家の、疎遠になっていた父親が亡くなる。彼は完璧に遺産整理を終えていたが、何故かただ一つ、競走馬・テンペストだけが遺されていた。テンペストは地方競馬で12回出走して未勝利。父はなぜこの馬を持ち、遺したのか。主人公は一度だけ、父と競馬を観にいった。京都大賞典でスペシャルウィークが惨敗した日だった。
彼は名馬・スペシャルウィークの血統をたどり、歴史を遡っていく。そして、怖いだけだった父のこと、自分との関係を知ることになる。

 

「嘘と正典」

CIA工作員が共産主義がもともとなかったようにするための工作を企てる。

ストークスはうなずいた。

四年前から準備はできていた。《アンカー》として《正典》を守るために、そして世界の《計算量》を減らすための準備だ。あの日、《正典の守護者》の《中継者》からメッセージを受取って以来、‥‥この日をもって、六百年にわたって活動してきた《正典の守護者》が、ついに《歴史戦争》を終結させるのだ。

エンゲルスは金を渡してマルクスを支えてきた。そのエンゲルスはある事件で有罪になりオーストラリアに流されるはずだったが、ある男の証言で無罪になった。証言がなかったら、共産主義は生まれなかった。

表紙の写真はマルクスだと思う。

 

 

初出:「魔術師」「ひとすじの光」「時の扉」「ムジカ・ムンダーナ」:SFマガジン2018年4月号~2019年6月号、「最後の不良」:Pen2017年11月1日号、「嘘と正典」:書き下ろし

 

 

私の評価としては、★★★★☆(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

 

切れ味があって、新しいSFの匂いがする。著者の才気も感じられる。しかし、タイムトラベルものは、話がややこしく、パラパラと読み返さないと混乱しがちだ。

 

「魔術師」は頭が混乱するが、それが楽しくもある。

夢がある競馬ものの「ひとすじの光」と、スリルあるスパイもの「嘘と正典」は楽しく読めた。

音楽が取引材料になる話は面白いが、音楽のことは無知な私には「ムジカ・ムンダーナ」は今一つ乗り切れなかった。

ややこしく、しつこく、おもろない「時の扉」には閉口し、飛ばし読みした。

 

タイトルの「噓」と言う字は環境依存で「?」に化ける場合がある。表紙などはデザイン上の都合もあるかもしれないが、書名登録などには普通の「嘘」を使用して欲しかった。

 

 

小川哲の略歴と既読本リスト

コメント
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