hiyamizu's blog

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河野多恵子『秘事・半所有者』を読む

2015年10月18日 | 読書2

 

河野多恵子著『秘事・半所有者』(新潮文庫こ-9-4、2003年3月新潮社発行)を読んだ。

 

裏表紙にはこうある。

「幸福な結婚」に隠された秘密とは。三村清太郎と麻子は、大学で知り合った、昭和11年生まれの同級生カップル。夫は一流の商社で順調に出世し、妻は聡明で社交的な、周囲も羨む睦まじい夫婦だ。だが、この結婚にはある事故が介在していた。周到に紡がれた夫婦の日常の結晶(『秘事』)。亡くなった妻への夫の究極の愛を描き、川端康成文学賞を受賞した傑作短編『半所有者』を併録。

 

「秘事」

ただ淡々と三村清太郎と妻・麻子の半生が語られ、何か起こるのか、過去の事件が大きく展開するのかと思うと、そのまま終わる。

関西の国立大学生の清太郎と女子大の木田麻子は付き合っていた。偶然二人とも同じ会社に就職を決めていたが、清太郎は彼女と同じ職場になることがいやで、入社を見合わせてほしいと頼むかどうか思い悩み、プロポーズにためらっていた。そんなとき、麻子が清太郎のいる方へ来ようと車道に飛び出して車にはねられて顔に傷を作る。事故のために麻子は内定した会社への入社を辞退した。

清太郎は麻子と結婚するが、清太郎は自分のせいで麻子を事故に遭わせてしまい、会社も辞退させたことに負い目を負う。しかし、残った傷跡への負い目から結婚したのではなく、本当に愛しているから結婚したのだ、ということを麻子に最期まで言わずに幸せな生活を送る。

 

清太郎は何度かの海外赴任を経て総合商社で常務に出世する。二人の長男は太郎、嫁は斗久子(とくこ)で、次男は次郎、妻は百子。4人の孫に恵まれる。

 

 

「半所有者」

妻に先立たれた夫が妻の身体をもう一度所有しようとする。19ページの短い、猟奇的な話。

「遺体は己のものだぞ」と胸の中で言い放つ。

 

 

河野多恵子(こうの・たえこ)
1926(大正15)年、大阪生れ。大阪府女専(大阪女子大学)卒。

丹羽文雄主宰の「文学者」同人になり、1952年、上京。

1961年「幼児狩り」で新潮社同人雑誌賞

1963年「蟹」で芥川賞を受賞。

他、『不意の声』『谷崎文学と肯定の欲望』(共に読売文学賞)、『みいら採り猟奇譚』(野間文芸賞)、『後日の話』(毎日芸術賞、伊藤整賞)など。

日本芸術院会員。コロンビア大学客員研究員

私は、河野多恵子さんは初めて読んだが、ウィキペディアによれば、「谷崎潤一郎の衣鉢を継ぎ、マゾヒズム、異常性愛などを主題とする。」とあった。

 

 

 

私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

 

事は、幸福すぎる結婚生活をとつとつと語るだけで、いつまでも秘事らしい事実が現れないうちに終わってしまう。夫が負い目を抱えつつ、それを否定するために妻を愛し続け、妻は夫の気持ちに応えつつ「気持ちの良いやつ」であり続ける。底流に秘事とも言えない秘事が流れているとはいえ、平凡とも思える幸福小説なのに不思議と小説になっている。

 

しかし、結婚式に絞っても70人招待するとか、会社主催の運動会が壮大に行われるとか、背景が一時代前であり、さすがに日常生活を描いた小説としては時代を感じてしまう。

 

コメント
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