hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

岸本佐知子『ねにもつタイプ』を読む

2013年11月23日 | 読書2

岸本佐知子著『ねにもつタイプ』(ちくま文庫2010年1月筑摩書房発行)を読んだ。

講談社エッセイ賞を受賞した48編のエッセイ。岸本さんは翻訳家だが、翻訳の仕事に関するエッセイは書きたくないらしい。反骨心を核として、創作短編じみたものから妄想爆発ものを、ユーモアでくるんで、摩訶不思議な世界を作り出している

「星人」
ものごとの隠された意味が読めない人が、なんとなく人生というものにしっくりこない感じを抱いているとすれば、その人は「気がつかない星人」だという(もちろん岸本さんも)。
私は、いつか自分の星に帰る日を夢見ている。そこでは誰もが「気がつかない」ばかりか、気がつかなければ気がつかないほど愛されるのだ。言葉はつねに額面どおりだから、裏の意味をあれこれ詮索する必要もない。皮肉もレトリックも存在しない。気働きなんかする奴は、変人扱いだ。
そこはきっと、緑したたる美しい星に違いない。


「脳の小部屋」
脳の迷路をいくつも抜けたうんと奥のほうに、薄暗い小部屋があって、そこに各種道具が立てかけてある。たとえば棒の先にイガイガの生えた大きな鉄の球がついているやつとか、鎖の先に鎌がついているのとか、・・・そんなものだ。ふだん、この部屋に行くことはめったにない。道具を使うのはよくよくのことなので、それも使う相手と状況は限られている。

道ですれ違ったおしゃれな自転車の嫌な男。脳の奥で小部屋の扉が開く音がする。鋼鉄をも断つ斬鉄剣が一閃。内臓は捨て、黄色の自転車は料理する。そして、道具は十分な手入れをして小部屋へしまう。

「かわいいベイビー」
よく考えると不気味な言葉を拾い出す。
「赤ん坊」:全身が真っ赤で凶暴? 「刺身」:全身をめった刺しにされて血まみれ? 「美人局」:地球防衛軍の制服の美人が働く? 「腕っ節」:腕に節ができる奇病?

初出:雑誌「筑摩」に同名で連載し、2007年1月刊行の単行本に4編を追加。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

ひねくれ者の私には共感できる点も多く、面白かったが、一般的には突飛過ぎてどうだろうか。妄想を読み流して笑える人には四つ星のお勧めだ。

「ねにもつタイプ」の岸本さんは、粘着質で気になったことをとことん突き詰めていき、特異な世界を描き出している。ちょっとこの人、おかしいんじゃないと思うほど変態的な視点で、思わず笑ってしまう。



岸本佐知子
1960年横浜市生まれ。女子学院高等学校から上智大学文学部英文科卒。アメリカ文学専攻。
サントリー宣伝部勤務を経て翻訳者。
訳書は、N・ベイカー『中二階』『フェルマータ』、L・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』、S・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』、J・アーヴィング『サーカスの息子』、T・ジョーンズ『拳闘士の休息』、J・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』など。
編訳「恋愛小説集
エッセイは、2000年『気になる部分』に続く2冊目の本書『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞を受賞。



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