hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

佐藤多佳子『神様がくれた指』を読む

2013年11月13日 | 読書2


佐藤多佳子著『神様がくれた指』(2000年9月新潮社発行)を読んだ。

スリの現行犯で逮捕され、1年2ヵ月の刑務所暮らしを終えて出所した辻牧夫、マッキィーは、出迎えに来た育ての親の早田(そうだ)のお母ちゃんと早田家へ帰るため西武線に乗る。車内で、男女4人組の若者スリ集団に早田のお母ちゃんが財布をすられる。辻は、財布を受け取った若い男を追うが、投げ飛ばされ、利き腕の肩を脱臼してしまう。

タロット占い師「赤坂の姫」マルチュラこと昼間薫(ひるま・かおる)は、商売上、女装しているが実は小柄な男性。美人で優秀な弁護士の姉がいて、かつては自分も司法試験の最後の口頭試験まで行ったが、道を踏み外して占い師となった。滞納した宿代を払うため、心を折って姉に50万円借りたが、その金をギャンブルですってしまう。帰り道、肩を脱臼して倒れている辻を昼間が助け、ツイてないアウトローな二人は都会の片隅で出会い、昼間の赤坂の借家壊れそうな洋館で奇妙な共同生活を始める。

辻牧夫は、ギャンブル狂いの父親が亡くなってからは父の友人だった早田一家に、実の子どものように育てられた。ところが、名人スリの早田のおじいちゃんに幼い頃からスリの腕を鍛え上げられ、電車内専門の箱師となる。
そして、辻は自分に怪我をさせた少年少女のスリグループを探し回るが、次々と危険が襲い掛かる。
不器用なまでに古風な考え方の持ち主で、自分の仕事にプライドと美意識を持ち、ボヘミアン的自由にこだわるマッキー(辻)とマルチュラ(昼間)は、互いにひきつけあうようになる。マッキーには、いざという時に助けてくれる友、仲間や、命をかけてくれる彼女もいて、何度も陥る危機を逃れることができる。

一方、マッキーが追いかけている若いスリグループは、リーダーであるハルをはじめ、ゲーム感覚でスリルを楽しみ、暴力を振るうことも躊躇しない。そんな彼らだから、絶対的リーダーのハルでも「マジでヤバくなった時に頼れる奴なんていないんだよ」と言う。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

面白いエンタテイメント小説だ。登場人物のキャラクターが立っていて魅力的だし、タロット占い、スリの詳細なシーンもきっちり描かれている。
佐藤多佳子という作家を私は知らなかったが、筆力十分な作家であることがわかる。なるべく幅広く、多くの本を読むように心がけているが、世の中には書ける作家はあまりにも多い。

私に、馴染みの地名が頻発し、ちょっと嬉しくなる。赤坂、吉祥寺、中目黒・・・。



佐藤多佳子(さとう・たかこ)
1962(昭和37)年、東京生れ。青山学院大学文学部史学科卒業。
1年間の会社勤め後、
1989年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞受賞しデビュー。
1994年『ハンサム・ガール』で産経児童出版文化賞・ニッポン放送賞受賞
1998年『しゃべれどもしゃべれども』吉川英治文学新人賞候補・山本周五郎賞候補
1999年『イグアナくんのおじゃまな毎日』で日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を受賞。
2002年『黄色い目の魚』 で第16回山本周五郎賞候補。
2006年『一瞬の風になれ』が本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞。直木賞候補。
2011年、『聖夜』で小学館児童出版文化賞受賞。
他に、『夏から夏へ』、本書『神様がくれた指』など。



現実に直面するのが苦手と姉に言われた昼間は、辻に「ピストルを頭に突きつけられても、そろそろ雨が降りますよ、とか言いそうだな」と言われる。

早田咲は美しく喘息もちの女性。

昼間「君、わかってますか? もし、咲さんを失ったら、どれほど後悔するか」・・・
辻「なんで、ほかの、もっとマトモな男じゃいけないの?」・・・「俺はあいつを殺してしまうよ」「心配させて、心配させて、きっと、ひどい発作で殺しちまう」
・・・
咲の手には出刃包丁が握られていた。いや、両手で包丁の柄に必死でしがみついていると言った方がいいかもしれない。咲の肩は波打ち、咳を懸命にこらえている様子だった。





コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする