hiyamizu's blog

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スティーブン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』を読む

2011年12月06日 | 読書2
スティーブン・ミルハウザー著、柴田元幸訳『エドウィン・マルハウス あるアメリカ作家の生と死』 2003年8月白水社発行、を読んだ。ミルハウザーのデビュー作。

子供によって書かれた子供の伝記という形式をとった変わった形の小説だ。アメリカ文学史に残る傑作「まんが」を10歳で書いて11歳で死んだ作家エドウィン・マルハウスの伝記という形になっている。そして、この伝記作家は幼なじみで同年齢のジェフリー・カートライトで、11歳のときに書いたということになっている。なお、「まんが」の内容ははっきり書かれていない。

「復刻版によせて」で、カートライトと同級生で文学者のホワイト氏は、コロンビア大学近くの古本屋で、『エドウィン・マルハウス ―あるアメリカ作家の生と死(1943―1954) ジェフリー・カーライト著』という本を見つけ、復刻版の出版に貢献したことになっている。そして、1972年現在、カーライトは所在不明と書いている。やたら複雑な構成だ。

第一部が幼年期で1943年に生れ6歳まで。第二部は壮年期、といっても8歳までで、第三部は晩年期、11歳、と三部構成だ。

幼年期も、語り手は6ヶ月年長のジェフリーが子供の視点でエドウィンを観察し記録している。エドウィンは絵本や玩具への強い執着をみせ、未知の世界に驚き、たちまち影響され、熱中する。大人びた子供の口から語られる生き生きとした子供の世界、子供のいやらしさも含め、がここにある。
ミルハウザーは目に入るものすべてを精細に描き、子供からみた「子供自身の世界」を読むものに感じさせる。

壮年期では、小学校に入るエドウィンが恋の病にかかる。エドウィンも、相手の女の子も、そして乱暴者の男の子もやたらエキセントリックで、伝記の著者のジェフリーだけが冷静だ。
ここでもエドウィンが書いたどんな意味があるのか不明な家族新聞の内容が延々と紹介される。

晩年期でエドウィンは小説を書き始め、終局へ突っ走っていく。



スティーブン・ミルハウザー Steven Millhauser
1943年ニューヨーク生れ。コロンビア大学卒。
1972年本書「エドウィン・マルハウス」でデビュー、フランスのメディシス賞(外国文学部門)受賞
1998年「ナイフ投げ師」でOヘンリー賞受賞
1996年『マーティン・ドレスラーの夢』でピューリッツァー賞受賞。

岸本佐知子
1960年生まれ。上智大学文学部英文科卒。アメリカ文学専攻。翻訳者。
訳書は、T・レオポルド、J・ウィンターソン、N・ベイカーなど。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

子供からみた世界のことが精細に語られていて、本書のメインの部分になっている。しかし、私にとっては60年以上昔の忘却の彼方にあり、本当にこんなだったかなと思ってしまう。言葉も喋れない頃からの記述には驚かされ、デタラメにしてもこんなこと書けるのは凄いと思う。

伝記作家のジェフリーの冷静な観察、記憶、記述を見ると、彼こそ天才で、エドウィンはエキセントリックではあっても凡庸な少年だと思えてくる。あるいは、実はこのふたりは同一の人間なのではないかとも思える。

それにしても、本当に意味あるのか疑問が残る長々とした記述が多い。指摘するときりがないが、例えば、幼児のエドウィンが読んだ絵本の内容が2ページにも渡って記述される。
ミルハウザーのしつこさには参る。まあ、そこが魅力の源泉なのだろうが。


コメント
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