hiyamizu's blog

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角田光代『彼女のこんだて帖』を読む

2011年12月10日 | 読書2
角田光代著『彼女のこんだて帖』講談社文庫、2011年9月講談社発行、を読んだ。

総勢15編の手作り料理をめぐる連作短編。巻末には作中の15の献立がカラー写真付きのレシピ(ベターホーム協会協力)として収録されている。
生きることは食べることで当たり前の日常だが、食べることは、どんなものを、どんなときに、誰と食べたかという、暮らしにつながる。さまざまな人生の節目に、そっと寄り添ってくれた素朴な料理が暖かな思い出につながる。
出てくる料理はとくに豪華なものではないが、日常のハレ料理といったところだ。うどんやピザも生地から作っているのが驚きだ。

「泣きたい夜はラム」
4年交際した彼と別れて迎えた一人の週末。協子の記念の晩餐は、肉汁たっぷりのラムのハーブ焼きとポテト。空豆のポタージュとサラダを添えて。
協子は思う。彼と過ごした4年は、ラム肉と同様に、失われたのではなく、彼女の栄養に、エネルギーになって、今も彼女の内にあり、あり続けるのだと。

その他、
交際期間が5ヶ月になり、情熱も冷めてきたはずなのに、姉の作る中華ちまきを食べながら、彼にも食べさせたいと思う。
専業主婦が「今日からストライキに入る」と夫にメールする。あわてて帰って来た夫が作ったミートボールシチュウ。
母子家庭で手作りの料理を作れなかった母が1つだけ作ったのがかぼちゃの宝蒸し。
長年連れ添った妻と死別した無骨な男が、料理教室に通って作る妻の味の豚柳川。
など

解説井上荒野

レシピがキッチンでも使えるようにと、濡れなどにも強い上質紙製。 

初出:『月刊ベターホーム』2005年4月号~2006年3月号。さらに、レシピなどを追加した単行本を再編集したものだ。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

それぞれは10ページほどの短い話だが、心温まる懐かしい味がする。どこにでもあるエピソードだが、失恋した女性、毎日の家事のストライキを宣言する女性、母親の味を知らない息子に申し訳ないと思う母子家庭で働き詰めだった母の気持ち、いずれも理解でき、そして料理と共に暖かくなる。

食べることは生活そのものだから、そのときの家族関係や、いろいろな思いと共に身体に染み付いている。料理しない私は、作る立場からの思いに至らないのが残念だ。(とは言いながら、「やってみれば!」という誘いには絶対に乗らないのだ)

前の話にちらっと出てきた人が次の主役となる構成で、いわば料理を巡るfacebookだ。

「あとがきにかえて」で、角田さんの亡くなったお母さんの話が良い。店をやりながら朝昼晩と毎日一からごはんを作っていた母親は、店をやめると料理教室(ベターホーム横浜)へ通い、熱心に試作を繰り返す。そして、26歳までまともな料理ができなかった角田さんに熱心に伝授し、料理好きにしてしまう。



角田光代
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。
90年「幸福な遊戯」で「海燕」新人文学賞を受賞しデビュー。
96年「まどろむ夜のUFO」で野間文芸新人賞、
98年「ぼくはきみのおにいさん」で坪田譲治文学賞、
「キッドナップ・ツアー」で99年産経児童出版文化賞フジテレビ賞、
2000年路傍の石文学賞を受賞。
2003年「空中庭園」で婦人公論文芸賞を受賞。
2005年『対岸の彼女』で第132回直木賞。
2006年「ロック母」で川端康成文学賞を受賞。
2007年「八日目の蝉」で中央公論文芸賞をいずれも受賞
2009年ミュージシャン河野丈洋と再婚。習い事は英会話とボクシング。趣味は旅行で30ヶ国以上に行った。
その他、
水曜日の神さま」「森に眠る魚」「何も持たず存在するということ」「マザコン」「予定日はジミーペイジ」「恋をしよう。夢をみよう。旅にでよう。 」「『私たちには物語がある』 」「 『愛がなんだ』 」「 『ひそやかな花園』 」「 『よなかの散歩園』 」「 『さがしもの』


コメント
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