hiyamizu's blog

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スチュアートダイベック『シカゴ育ち』を読む

2011年12月18日 | 読書2
スチュアートダイベック著、柴田元幸訳『シカゴ育ち』白水uブックス143、2003年6月白水社発行、を読んだ。

1950年代のシカゴの下町を舞台に叙情と乾いたノスタルジーを織りまぜて描かれた短編と1ページほどの掌篇よりなる14編の連作短篇集。
とくに強いストーリーがあるわけでもなく、綿密にシカゴの街を描くわけでもないのに、荒廃したシカゴの下町が愛情を持って描きあげられる。訳者の柴田元幸さんが後書きで「いままで訳した本のなかでいちばん好きな本を選ぶとしたら、この『シカゴ育ち』だと思う」と書いている。

本書収録の「荒廃地域」「熱い氷」「ペット・ミルク」はO・ヘンリー賞受賞作品

初出:1992年単行本として白水社から発行。



スチュアートダイベック Stuart Dybek
1942年シカゴ生まれ。
1980年、第1短篇集 Childhood and Other Neighborhoods
1990年、第2短篇集 The Coast of Chicago 『シカゴ育ち』
現在ミシガン州カラマズーに住み、ウェスタン・ミシガン大学で文学を教える。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

味わい深い作品で、落ち着いて読みたい本だ。私は行き帰りの電車の中で読んだのでその良さを充分実感できなかった。おそらく少数だが熱烈なファンがいる小説なのだろう。
細切れの連作短編を読み進めると、荒廃し、さまざまな国からの移民の町、シカゴの下町が全体としてイメージできてくる。そして、今はバラバラになってしまった仲間と、いらついてバカなことばかりしていたあの頃を懐かしく思い出すのだ。




以下、私のメモ

「ファーウェル」Farwell
ロシア文学のゼミの先生のバボの家の招待された時を思いだす話。
「今夜、小雨がたえまなく降りつづけ、街灯の光も霧に煙り、雨を集める光の漏斗のように見える。ここはファーウェル。アパートに並んだバルコニーの窓が、濡れたテニスコートに映っている。」こんな風に始まる。

「冬のショパン」Chopin in Winter
少年の部屋では放浪癖のある祖父のジャ=ジャが戻ってきて、凍傷の足をお湯で温めてる。上の部屋では、音楽で奨学金をもらって大学に行っていた娘マーシーが妊娠して戻ってきて、ピアノを弾いている。マーシーの母親は、午後になると家に降りてきて、少年の母親に娘は父親の名をあかさないと泣きながら話す。何も話さなかった祖父は突然、聴こえてくるピアノの曲がショパンの『華麗なるワルツ』だと少年に教える。少年は僕は絶対マーシーの味方だと決心しながら、必死で苦手なスペリングの練習をする。少年の娘マーシーに対する淡い憧れや、ダメ人間の祖父への親しみが甘酸っぱい。

「荒廃地域」Blight
バンドを組む4人の少年が住んでいた町は「公認荒廃地域」に指定される。少年達はバカをやってその日を過ごすが、そのうちに一人、二人と町を出てゆく。「スタンド・バイ・ミー」を思い出す4人組がシカゴの下町を遊び歩く。

「熱い氷」Hot Ice
エディとマニーと、マニーの兄パンチョの5連作短編
「聖人たち」氷漬けになっている娘が冷凍庫の中にいるとの伝説を信じるパンチョと信じないマニー。
「失われた記憶」二人は刑務所にいるパンチョに会いに行くが、彼はどんどん様子がおかしくなる。
「哀しみ」あっちへ行っちまったパンチョを思い、マニーは荒れる。
「郷愁」エディとマニーは昨日と同じだと思いながら町を歩く。
「伝説」アル中のアンテクと二人は冷凍庫へ氷漬けの娘を探しに行く。

「ペット・ミルク」Pet Milk
祖母は必ずコーヒーにペット・ミルクを入れていた。祖母のラジオには、ヨーロッパじゅうの、相容れないいくつもの国家が、雑音の多いダイアル右端のあたりに一緒くたに詰め込まれていた。(遅れてやってきた移民たちの町)
僕が大学を出た翌年、仲のいいガールフレンドのケイトとレストランに入る。いずれそれぞれの道に進み別れることになるだろうケイトとは、すでに別れているような気になる。しかし、その時、改めてケイトの美しさに気づく。


コメント
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