hiyamizu's blog

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西村賢太『瘡瘢旅行』を読む

2011年04月17日 | 読書2
西村賢太著『瘡瘢旅行』2009年8月、講談社発行、を読んだ。

著者の今年の芥川賞受賞作『苦役列車』を図書館で予約したが、待ち行列があまりにも長い。現代の破滅型作家という著者に興味があったので、この本を読んでみることにした。

中卒、フリーターで前科者、友達ゼロという著者が、短気、小心、乱暴、好色、酒乱で猜疑心が強い主人公の破滅的生活を私小説として描く。

「疾病かかえて」は、ようやく出来た人の良い彼女、秋恵を貫多は大切に思ってはいるのだが、学生時代の女友達にたびたび金を貸しているのを知り、短気、嫉妬、乱暴心が湧き出す話。

「瘡瘢旅行」は、岐阜の古本屋に彼女と古書を求める旅に行く話。主人公は、そして著者自身も、藤澤清造というあまり有名でない私小説作家に入れ込んでいて、その全集を出版することを夢見ている。今まで知られていなかった彼の作品が載った雑誌がオークションに出品されるのを知り、何とか確実に手に入れようと、あの手この手を労する話で、これに妙にやさしい彼女がからむ。

「膿汁の流れ」は、秋恵の祖母が入院し、見舞いに行きたい彼女に貫多はまったく思いやりをみせない。結局、実家に帰ることになるが、彼はその間に好き勝手する話。

初出:「群像」2008年11月号、2009年4月号、6月号



西村賢太
1967年7月、東京都江戸川区生まれ。町田市立中学卒。
2006年『どうせ死ぬ身の一踊り』で芥川賞候補、三島由紀夫書候補、『一夜』で川端康成文学賞候補
2007年『暗渠の宿』で野間文芸新人賞
2008年『小銭をかぞえる』で芥川賞候補
2011年『苦役列車』で芥川賞受賞
その他、、『二度はゆけぬ町の地図』、

著者の父親が強盗強姦事件を起こしたことも事実だし、自堕落な生活ぶりや、逮捕されたこともある。一方では、藤澤清造の没後弟子を自称し、藤澤清造全集(全5巻、別巻2)の個人編集を手掛けてもいて、石川県七尾市の清造の菩提寺に祥月命日に墓参を欠かさない。このあたりも作品にそのまま登場する。



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

近年では珍しい破滅型の私小説で、面白く読んだ。いずれの話でも、主人公は身勝手な理由で彼女に理不尽な行いをするのだが、彼女に去られては困るので、なんのかのと、人の良さにつけ込んで、彼女を脅したり、なだめたりする。この駆け引きが面白い。DV男の乱暴行為の後のやさしさにひかれて別れられないという女性を思い出す。

多くの女性にはもっとも毛嫌いされる、むさくるしく乱暴な男性の話なので、一般受けはしないだろう。

この著者はやたらと難しい漢字と硬い文章を繰り出す。
題名の「瘡瘢」とは、「そうはん」と読み、「きずのあと」のことと辞書をひいて解った。冒頭から、「穢悪」(えあく)など私には意味の分からない言葉や、
それが昂じた末には威迫めいたことも口走り、すでに手を上げる仕儀に及んだことも幾度かあった。

など生硬、古典的?な文章が続出する。



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