米軍基地の感染 政府はもっと危機感を
2020年7月20日 中日新聞
沖縄の米軍基地で新型コロナウイルスの感染が急拡大し、米軍の行動に国内法が適用されない日米地位協定の不備が、県民の不安を高めている。政府は危機感を持ち、改定などを提起すべきだ。
沖縄米軍基地での感染は、普天間飛行場やキャンプ・ハンセンを中心に五施設、計百四十人超に上る。数人を除き七月に入っての感染で、県内の一般の感染者約百五十人をしのぐ勢いだ。
沖縄では四日の米独立記念日前後に、軍関係者が多数繁華街やビーチパーティーに集っており感染が拡大した可能性が高い。
最大の問題は、感染者の行動履歴など詳細な情報が地元にもたらされていないことだ。米軍は当初感染者数の公表さえ渋っていた。県の要請を受け公表したが、個別の感染経路や基地外での行動、病状は一部しか明かしていない。
このほか米軍は、無症状者には基地到着の際にPCR検査を実施しない、地元との協議なく異動者の隔離のため民間ホテルを利用、普天間とハンセンの両基地を「封鎖した」としながら関係車両の出入りを続ける−など、県側の信頼を損ねる対応を取っている。
フェンス一枚を隔て基地と隣り合う県民の不安は計り知れない。
既に基地に出入りする地元のタクシー運転手の感染が分かったほか、日本人基地従業員の子が登校を自粛するなど、県民生活への具体的な影響も出始めている。
米軍では九月の年度替わりを前に人事異動が活発になる。日米地位協定上、米兵らは日本の入国審査や検疫を受けず基地に入る。
玉城デニー県知事は十五日に河野太郎防衛相と会い、沖縄への米軍人の異動中止や感染者の行動情報の提供を要求。米兵らへの検疫に国内法を適用するなど日米地位協定の見直しも訴えた。
在日米軍の特権を認めた地位協定が混乱を広げていることは明らかであり、知事の求めは当然だ。感染症に関し当局者間の情報共有を定めた日米合同委員会合意も米軍の裁量が認められており、満足に機能していない。
世界一の感染国と直結しているのは他の米軍基地も同じだ。山口県の岩国や青森県の三沢基地でも新たな感染があり、岩国の感染者は羽田に入国後、陽性判明前に民間機で移動する約束違反をしていた。
菅義偉官房長官は会見で「必要な情報提供を受けている」と繰り返すが、認識が甘い。地位協定や合同委合意を抜本的に見直す必要がある。政府の行動は急務だ。