中日春秋 (2020年7月1日)

2020-07-01 09:00:18 | 桜ヶ丘9条の会
中日春秋 (2020年7月1日)
 
<信言は美ならず、美言は信ならず>。中国の古典『老子』は言っている。真実味のある言葉は美しくなくて、逆に、美しい言葉には真実味がないものだと。香港をめぐるニュースに、思い出した
▼社会主義の中国に資本主義を併存させる「一国二制度」、五十年間は香港で維持すると認めていた「高度な自治」。一党独裁の中国が国際社会に約束し、なかなかきれいに響いてきた美言に思えるが、返還から二十年あまりを過ぎて、どうやら真実味が失われたようである
▼代わって真実味を持ったのは中国政府による「介入」や「統制」だろう。中国で香港国家安全維持法が、成立した。中国政府の力は強まり、自治も二制度も大きな打撃を受けることになりそうだ
▼中国政府への抗議デモが行われてきたかの地からは、「香港の終わり、圧政の始まり」などと失われる自由を嘆く、若者の声が聞こえてくる。香港にとって重要な「返還記念日」である一日に間に合わせるように、法案は素早く全国人民代表大会常務委員会で可決している
▼海外からの懸念の言葉や批判の声もこれまでの約束を破ることへの体面も、もはや気にしないかのようにことを進めた。巨大国家の姿を物語っているようである
▼約束を破ることを古くは「棄言」といったそうだ。美しくもあった約束をほごにした棄言の日と記憶されることになるかもしれない。