米軍、コロナ感染急増でも機密優先 いらだつ沖縄、個別交渉に限界 (2020年7月16日 中日新聞))
在日米軍で新型コロナウイルスの感染が拡大し、米側の情報開示の姿勢に不満が高まっている。米側が沖縄県に伝えた感染者数を公表されることを拒んだため、県は一時、詳細な情報を求める県民と米側の間で板挟みになった。県民への感染に懸念を強める玉城(たまき)デニー知事は、日本政府が米側に透明性の確保を働き掛けるよう求めるが、実現するかは見通せない。
「県民は大きな不安に追い込まれているのが実情だ」。玉城氏は十五日午後、防衛省で河野太郎防衛相と会談し、基地外で活動した感染患者の行動情報の提供などを求める要請書を提出。河野氏は「米軍の対応をしっかり確認し、県と一緒に情報を共有しながら対応したい」と応じた。
「国がやること」
在沖縄米軍では七日から十一日にかけ、計六十一人の米軍関係者の感染が確認された。同日、記者会見に臨んだ玉城氏は感染者数を「数十人」としか公表できない苦しい立場に追い込まれていた。米側が感染者数の公表を拒んだためだ。その後の在沖縄米軍トップとの電話会談で、詳細な感染者数を公表するとの要求は受け入れられたが、玉城氏は、透明性の確保は「国が一義的にやること」といら立っていた。
「運用上の懸念」
米側が情報開示に後ろ向きになる背景には、米国防総省が「運用上の懸念」を理由に、三月に出した基地や部隊ごとの感染者数を明かさない指針がある。沖縄県には、米側の意向を無視して発表した場合「今後情報が得られなくなる」との危機感があった。
情報開示に難色を示していた米側はなぜ、一転して玉城氏の要請を受け入れたのか。米軍関係筋は「(沖縄には陸海空の各軍、海兵隊の)約二万五千人の兵力がいる。即応性への信頼は揺るがない」と明かし、人数の公表で米軍の抑止力は低下しないとの判断があったことを示唆した。
政府は米軍基地内での感染拡大を踏まえ、防衛省などが得た情報を関係自治体と可能な限り共有する考えだ。米軍のコロナ感染が原因となって住民らの不安が増幅すれば、日米安全保障体制の動揺にもつながりかねないとの思いがある。
ただ、沖縄県だけでなく、関係自治体は「(市民に対して)日本人基地従業員への感染の可能性について踏み込んだ説明ができなかった」(青森県三沢市)などの窮状を訴える。
そもそも「基地外に居住する米軍関係者は何人なのかという数すら伝えられていない」(玉城氏)との指摘もあり、基地を抱える自治体は、米側との個別の交渉に限界を感じている。
一転、二十数人の行動歴提供
沖縄県は十五日、米軍キャンプ・ハンセン(金武町など)で、新たに三十六人の新型コロナウイルス感染を確認したと米側から連絡があったと明らかにした。県によると、同基地での感染者は計五十八人となり、在沖縄米軍全体で計百三十六人となった。県は米軍関係者を県内の感染者数に計上しない。
県によると米軍は同日までに、感染者のうち把握できた二十数人の行動歴を提供。感染力のある発症二日前から、県民と接触した可能性のある基地外の立ち寄り先や日時が記されている。県は立ち寄った店舗の従業員から健康状態を聞き取るなど、濃厚接触者の有無を調べ、対象者がいれば検査を受けてもらう。
県は同日、キャンプ瑞慶覧(北谷町など)の海軍病院で、米側の公衆衛生当局と海兵隊政務外交部と初会合を開いた。県側は、陽性者数だけでなく検査件数の提供を要望。米側からは、感染者の多くが軽症か無症状で、無症状でも積極的に検査しているとの説明があった。玉城デニー知事が十一日、米側に情報交換の場を求めていた。
県内では他にも普天間飛行場(宜野湾市)七十一人、嘉手納基地(嘉手納町など)五人、キャンプ・マクトリアス(うるま市)と牧港補給地区(浦添市)で各一人の感染が確認されている。