米軍Xバンドレーダー 安保法先取り 京丹後ルポ(2015年9月23日中日新聞)

2015-09-21 08:33:37 | 桜ヶ丘9条の会

米軍Xバンドレーダー、安保法先取り 京都・京丹後ルポ 

2015/9/23中日新聞
 安全保障関連法の成立で、日米の軍事的な協力関係はますます緊密になる。京都府京丹後市では安保法を先取りするかのように、2年前から近畿地方で初の米軍基地の建設が進む。敵国から米国の基地などに向けて発射される弾道ミサイルを感知する早期警戒レーダーがすでに配備された。安保法制の最前線に立たされることになった過疎の町を歩いた。

 青い日本海を見下ろす岸壁上の斜面に、日本の棚田百選に数えられる田んぼが広がる。京都府の最北端に位置する京丹後市丹後町宇川地区。過疎化が進み、人口は千六百人ほどで、高齢化率は35%に上る。

 海岸沿いの国道を行くと、「警告」の赤い文字の看板が目に飛び込んできた。建設中の「米軍経ケ岬(きょうがみさき)通信所」だ。敷地内からはゴーという低音と、ザーという耳障りな高音が聞こえてくる。

 「ゴーというのは発電機、ザーというのはレーダーを冷やすファンの音です」と「米軍基地建設を憂う宇川有志の会」事務局長、永井友昭さん(58)が教えてくれた。

 基地の隣に「穴文殊(あなもんじゅ)」と親しまれる九品寺がある。本堂の下に、海から続く洞窟があることが穴文殊の由来だ。米軍の敷地は本堂背後の崖に及び、その縁に「Xバンドレーダー」が設置されている。今は参道の西側でも自衛隊が拡張工事を行っている。地区の農家で生まれた永井さんは「罰当たりだ」と漏らした。

 Xバンドレーダーは、米軍のミサイル防衛(MD)用早期警戒レーダーだ。敵国から発射された弾道ミサイルを正確に捕捉できる。地上や海上からの迎撃ミサイルで撃ち落とすMDシステムの要だ。探知距離は四千キロ以上とされる。

 軍事ジャーナリストの前田哲男氏は「経ケ岬通信所のレーダーは、北朝鮮の弾道ミサイルからハワイやグアムの米軍基地を守るのが主な目的だろう。米国を狙う弾道ミサイルの迎撃は、政府が示した集団的自衛権の行使例として挙げられている。安保法を先取りする形で整備が進められていた」と指摘する。

 今は敷地内を自動小銃などで武装した民間軍事請負会社の警備員が二十四時間態勢で警備する。米軍の生活関連施設などの二期工事が来春以降に始まる。

 基地は宇川地区の集落から数百メートルしか離れていない。永井さんは「レーダーから出る電磁波による人体や環境への影響が心配だが、軍事機密を理由に、性能は公表されていない」と顔を曇らせる。

 レーダーの配備計画を住民が知ったのは、二〇一三年二月。安倍晋三首相とオバマ米大統領の首脳会談で、航空自衛隊経ケ岬分屯基地への配備が決まった。国内では、青森県つがる市の航空自衛隊車力分屯基地に次ぐ二基目だ。

 住民は当初、空自の分屯基地内に米軍のレーダーを設置するだけだと思っていた。だが、ふたを開けてみると、空自基地の隣の農地に、旧国立競技場の建築面積よりやや広い約三・五ヘクタールを米軍が借り受け、軍人、軍属計百六十人が常駐する大掛かりな新基地を建設する計画だと分かった。近畿地方では初の在日米軍基地だ。永井さんは「米軍関係者が地区の人口の一割を占めることになる。まったく寝耳に水の話だった」と振り返る。

 分屯基地は旧日本軍時代、海軍監視所が置かれていた場所。終戦後は進駐軍が駐留し、米軍人の事件事故も起きた。年配の住民の一部には拒否反応もあった。

 一三年三月から防衛省による説明会が始まると、「人の土地を無理やり、取り上げるな」「危機をあおるだけではないか」などの声が相次いだ。しかし、防衛省の担当者は北朝鮮の脅威を繰り返し、米軍については「心配することは何もありません」の一点張りだった。

 永井さんは住民十人ほどで「憂う会」を立ち上げ、「米軍基地の建設が必要なら、安全安心を前提に、納得できる理由を示してほしい」と訴えた。

 建設予定地の主な地権者は約四十人。このうち反対派は十人程度いた。推進派の有力者が毎日のように自宅を訪ねるなどして、一人ずつ切り崩された。同年末までに一区画を除き、全員が仮契約を交わした。

 一三年九月、京都府知事が受け入れを表明。永井さんは「せめて地元の意向をくんでほしい」と市民団体とも協力し、デモや集会で基地問題を広く知ってもらう運動を続けた。

 だが、昨年五月、半ば抜き打ちで着工。十月にレーダーを搬入し、十二月には本格運用を始めた。建設地付近は絶滅危惧種のハヤブサが生息するが、日本の法令が適用されず、環境影響評価(アセスメント)も行われなかった。

 行政の対応も腰が引けていた。京丹後市は、配備に伴う事件事故や健康被害への適切な措置など十項目の約束を防衛相と交わしたが、永井さんは「まったく守られていない」と憤る。

 基地の低周波騒音に対して、米軍は防音マフラーを設置するなど対策を取ったとするが、今も完全には解消されていないという。昨年十二月、基地所属の米軍関係者が起こした事故件数について、防衛省は五件と公表したが、少なくとも九件起きていたことが後に明らかになっている。

 最近も、市内の米軍用住宅の建設をめぐって、付近住民が賛否を問う調査を行い、結果を公表しようとしたところ、中山泰市長が待ったを掛けた。永井さんは「住民自治への介入だ。市に年間六億円以上の米軍再編交付金が国から出るようになり、市長の態度ががらりと変わった」と不信感を募らせる。

 米軍はこの夏、穴文殊祭りの盆踊りに参加するなど、地域住民と交流を深める姿勢を見せた。しかし、永井さんは「友好の押し売りだ。片足を踏んづけておいて握手しようなんて言われても、できるはずがない」と語気を強める。

 北朝鮮を「仮想敵国」としているXバンドレーダーだが、中国外務省が「地域の安定や相互信頼にとって不利益だ」と懸念を示すなど、逆に東アジアの緊張を生む原因にもなっている。

 しがらみが強い地元では声は上げにくい。だが、安保法の成立で自衛隊と米軍との一体化が進み、不安は大きくなる。ある主婦(77)は「米軍基地なんてできていいことない。みんな喜んで引き受けたわけではない」と嘆く。「戦争になったら、まずここが狙われる。地元にお金が落ちるというけど、とても引き合わん。安保法は難しくて分からんけど、戦争はいらん」

 (三沢典丈)