原子力機構 大丈夫なの? 作業員被爆事故でも「常陽」再稼働申請(2017年6月23日中日新聞)

2017-06-23 08:19:51 | 桜ヶ丘9条の会
原子力機構、大丈夫なの? 作業員被ばく事故でも「常陽」再稼働申請 

2017/6/23 中日新聞

 作業員被ばく事故が今月発生した日本原子力研究開発機構(原子力機構)の「大洗研究開発センター」(茨城県大洗町)は、事故後の説明が二転三転するなどずさんな対応にも問題があるが、そもそもプルトニウムの保管体制がなっていなかった。そんな原子力機構が、このセンターにある高速実験炉「常陽」を再び運転させることを計画している。事故を起こさないと約束できるのか。

 作業員五人のプルトニウム238と239、アメリシウム241による内部被ばくが十九日に公表された。それらの排出を促す治療をするため、五人は量子科学技術研究開発機構の放射線医学総合研究所(放医研)に再入院した。

 放射性物質であるプルトニウム239の半減期(量が半分に減るまでの期間)は二万四千年。放射されるアルファ線は透過力が弱く、服を着ていれば、体外から浴びる外部被ばくはあまり問題にならないが、放射性物質が体内に入る内部被ばくは状況が異なる。アルファ線が細胞に当たり続け、量がわずかでもがん発症などのリスクが高まる。

 ちなみに、プルトニウム238の半減期は約八十八年、アメリシウム241の半減期は四百三十二年。ともにアルファ線を出す。

 事故は六日朝に起きた。作業員が点検のためステンレス容器を開けると、中のビニール袋が破裂し、プルトニウム粉末などが飛び散った。原子力機構は当初、「検査で、五十代の作業員の肺から二万二〇〇〇ベクレルのプルトニウム239が検出された」と発表した。

 人体への影響を示すシーベルトに換算すると、年間一・二シーベルトを浴びる計算になる。通常、空間放射線量の測定値で使う「マイクロ」の単位で換算すると、一二〇万マイクロシーベルトにもなる。

■不完全だった除染

 原子力機構によると、事故後、作業員らはシャワーで体を洗った。その後、専門職員が五十代の作業員の鼻から二四ベクレルを測定した。そのため、原子力機構の核燃料サイクル工学研究所(同県東海村)で、さらに検査をした。

 プルトニウム239は、アルファ線のほか、透過力の強い別の放射線も出す。体外からその数値を測定し、アルファ線を推計する「肺モニタ測定」をしたところ、二万ベクレル超を検出した。

 この検査に問題があったようだ。原子力機構報道課の担当者は「作業員一人は別の職員が背中を流したが、ほかは一人でシャワーを使った。洗い方が十分でなく、体表面に放射性物質が残り、肺モニタ測定の数値につながったのかもしれない」と説明する。

 だが、翌七日、放医研に移って検査をしたら、肺からの検出はなかった。どうやら、最初のシャワーによる「除染」が不完全だったようだ。

 内部被ばくに詳しい矢ケ崎克馬・琉球大名誉教授は「機構は、プルトニウムの容器を無防備に等しい状況で作業員に開封させ、十分な除染も施さなかった。放射性物質を取り扱う規範意識に欠け、人命軽視も甚だしい」と話している。

 今回の事故が起きた燃料研究棟は、もともと高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の新型燃料の研究開発をしていた。プルトニウムなどの入ったステンレス容器が大量に保管されていて、それらの容器が保管庫に入りきらないため、密閉された作業場の「グローブボックス」にも百一点が置かれていた。

 昨年十一月、原子力規制委員会は、このずさんな保管状況の改善を求めた。原子力機構は、中身をまとめて保管庫に納めることを決め、二月から容器を開けて内容量を確認していた。

 今回、中の袋が破裂した容器は二十六年間、一度も開けたことがなかった。容器内の物質が放射線で分解されてガスが発生し、袋が破裂した可能性が大きい。

 実は、原子力機構は二〇〇四年に別の施設で、同様の容器内のビニール袋の膨張を確認している。この情報は現場レベルでは共有されていなかったのか。内部被ばくをした作業員は作業前の点検で、「爆発・破裂・飛散のおそれはあるか」の項目に「該当しない」と印を付けていた。

 作業員に全面マスクを着けさせていれば、被害を小さくできたが、着用していたのは半面マスク。これについて担当者は「作業要領に従った」とマニュアル通りを強調した。

■過去の教訓どこへ

 事故の原因は、二週間たっても「調査中」ばかり。二十一日に立ち入り検査をした原子力規制委の田中俊一委員長は記者会見で「機構は原子力利用の模範生であるべきなのに、逆になっている」と指摘した。

 原子力機構の前身の一つ、動力炉・核燃料開発事業団は一九九五年、もんじゅがナトリウム漏れを引き起こした上、事故隠しが問題となった。九七年には、東海再処理施設(茨城県東海村)で火災、爆発が発生し、約三十人が被ばくした。二〇〇五年に原子力機構に再編されて以降も、もんじゅの点検漏れや、加速器実験施設「J-PARC」(同)で約三十人の内部被ばく事故を起こした。

 事故のたびに、安全意識の欠如を認め、改革に向けた決意を表明してきたが、一向に改まらない。今年三月、大洗研究開発センターにある高速実験炉「常陽」の再稼働を申請したが、原子力規制委が適合性審査を保留したのも当然だろう。

 原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「放射性廃棄物をきちんと管理しようという姿勢がまったく感じられない」と批判する。「何度も事故を起こしながら改善しないのは、構造的に組織疲労を起こしている証拠だ。こんな組織が常陽を再稼働させれば、また事故が起きる。もはや解体した方がいい」

 (池田悌一、三沢典丈)

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