使って貯まって、、、筒抜けに Tカード情報提供(2019年1月31日中日新聞)

2019-01-31 09:14:53 | 桜ヶ丘9条の会
使って貯まって…筒抜けに Tカード情報提供 

2019/1/31 中日新聞

 なたが借りたDVD、買った本がいつの間にか警察や検察に知られていたら…。買い物をするとポイントが貯(た)まるポイントカードの最大手の一つ「Tカード」=写真=の運営会社が、レンタル情報や書籍の購入情報などを裁判所の令状なしに捜査当局に提供していたとされる問題。運営会社は個人情報保護法に沿った運用だと主張するが、どんな本を読み、どんな映画やドラマを見るかは個人の思想信条にかかわることではないのか。

◆Tカード側「社会貢献」

 「Tカードを使っている人6827万人」。Tカード十五周年の特設サイトにあるこの数からすると、日本の人口の半数以上がTカードの“恩恵”にあずかっていることになる。

 いろいろな店などの特典ポイントを一つにまとめられるのがTカード。お金を使った分に応じてポイントが付く。率は提携先ごとに異なり百~二百円に一ポイントが相場。貯まった分は一ポイント一円相当として提携先で使える。カードのデザインはさまざまで、クレジット機能付きもある。

 運営会社は「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」(CCC、東京都渋谷区)で二〇〇三年に始めた。提携先は一八年十一月末時点で百八十五社。店舗数だと九十九万余りに上る。

 ポイントが付く所は日常生活のあちこちにある。CCCによるDVDレンタル店「TSUTAYA」や「蔦屋(つたや)書店」はもちろん、スーパー、コンビニ、薬局、ホームセンター、飲食店、宅配、ホテル、ガソリンスタンドなどだ。

 Tカードを作るには氏名や住所、生年月日などを登録する。これを使って買い物などを重ねていけば、その人がいつどこにいて、どうお金を使ったかがデータとして蓄積されていく。

 そんな情報に目を付けたのが捜査当局だ。CCCによると、最初は裁判所の令状があった場合に限っていた。それが、一二年以降は当局が内部手続きだけで作る捜査関係事項照会でも提供するようになった。文書名は仰々しいが、第三者のチェックを経ない単なる書類でしかない。

 CCCはずっとそのことを伏せ、規約にも示していなかった。この問題が新聞報道された今月二十一日、ようやくホームページで伝えた。

 広報担当の安藤舞氏は本紙の取材に「捜査への協力は社会貢献の一環」と語る。ただ、提供している情報の中身について「捜査の関係上、明らかにできない。弊社との間で一定のルールを設け、必要最小限の範囲で提供している」と具体的な説明を避ける。

 では、どんな情報が当局側に提供されているのか。一連の報道では、警察や検察の内部資料を基に、会員情報(氏名や生年月日、住所など)、ポイント履歴(付与日時、ポイント数、企業名)、レンタル日や店舗、商品名などとしている。

 事件と無縁な人にはピンとこないかもしれない。東京都内在住の大学二年の女性は「なぜ私たちの情報が必要とされるのか分からない」と語る。コンビニ「ファミリーマート」は提携先の一つ。都内の店の男性店長は「客からクレームは来ていません」と語り、「本部からは『ファミマの場合、令状なしの情報提供はNG』と聞きました」。

 法的にはどうか。プライバシー保護に詳しい板倉陽一郎弁護士は「個人情報保護法自体は、捜査関係事項照会に基づく情報提供を認めている」と話す。その上でこう指摘する。「個人情報保護法とは別に、民法上の責任が問われることもある。事業者が何でも捜査当局に情報を出していいわけではなく、会員がプライバシー侵害を問題視すれば、損害賠償を求められる可能性がある。当局側にも任意捜査の段階で、どこまで情報を得ることが許されるのかという問題がある」

◆図書館は厳格

 Tカードの情報提供は、さらに大きな問題につながる恐れがある。TSUTAYAや蔦屋書店の利用情報も取り扱っているからだ。

 買った本や借りたDVDの中身を見れば、思想信条や好み、性癖まで筒抜けになる。前出のコンビニ男性店長はTカード利用者。「DVDのレンタル履歴から性犯罪の容疑者だってマークされるなんてこともあるんですかね。何となく後ろが気になりますね」と口にした不安が、現実にならないとは限らない。

 同じような情報を扱う図書館はどうしているのか。

 日本図書館協会が一一年、全国の公立九百四十五館を対象に行った調査によると、捜査当局から裁判所の令状なしで、貸し出し記録などの照会を受けたことがあるのは百九十二館と約二割を占めた。うち半数を超える百十三館が求めに応じたと答えた。

 とはいえ、利用者の秘密を守るのが図書館の大原則。協会の鈴木隆常務理事は「人命の危険など緊急の場合を除き、令状がないのに氏名や住所、利用事実や読書事実、レファレンス(調査)記録、複写記録の提供はできない」と断言する。捜査関係事項照会で安易に情報を提供しないよう、協会は対応方法をホームページで知らせている。

 そこで気になるのはCCCが自治体に代わって運営するツタヤ図書館だ。一三年に佐賀県武雄市に誕生。カフェや書店を併設し、今は全国五カ所にある。

 この利用情報がCCCに流れることはないのか。武雄市の図書館には、捜査当局から数件の問い合わせがあった。組谷明豊マネージャーは「個人情報や本の貸し出し履歴が外部に提供されることはない。当局の照会に応じるかどうかは自治体が判断する」と説明する。

 図書館と比べるとCCCの積極性が際立つ。膨大な会員情報を「社会的情報インフラ」、情報提供を「社会への貢献」と位置付けているからだ。

 新潟大の鈴木正朝教授(情報法)は「捜査当局への個人情報の提供が『インフラ』『社会貢献』とは、全く意味が分からない」と切り捨て、CCCが抱える会員情報を「民間版マイナンバー」になぞらえる。

 「CCCが個々の照会内容を確認することなく、漫然と個人情報を提供してきたならば愚かしい。捜査当局は既に膨大なデータベースを間接的に運用している状況かもしれない。全く新しいプライバシー侵害だ」

 同様に膨大な個人情報を持っている無料通信アプリの「LINE(ライン)」社は、捜査当局からの請求数や令状の有無を公開している。中央大の宮下紘准教授(憲法)はCCCをLINEと比べ、「情報公開が不透明。治安のための必要最低限度なら許容範囲だが、運用実態が分からず、会員の不安が募る。CCCの言う『社会貢献』に会員のプライバシーを守ることは含まれないのか」と批判する。

 ジャーナリストの青木理氏は「企業として極めて大切な顧客情報をやすやすとお上に流すなら、あまりに懐疑心に欠けていまいか」と疑問視する。

 思い出すのは、一〇年に警視庁の国際テロ捜査に関する文書が流出した問題。日本に住むイスラム教徒の顔写真や住所、交友関係などを調べ「監視」していたことが明らかになった。銀行口座記録もあり、あるレンタカー業者については「照会文書なしで利用者情報の提供が受けられる」と記されていた。

 青木氏は「こうした情報収集を野放しにすれば、捜査当局は誰をも監視できる『神の目』を持ちかねない。令状主義の徹底や、国家による情報収集を第三者がチェックする仕組みなど、新たな法規制をつくる必要がある」と話している。

 (榊原崇仁、安藤恭子)

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