違憲論争で居直る首相 党首討論、従来の説明繰り返す
2015/6/18 中日新聞
安倍晋三首相と野党三党の党首による十七日の党首討論は、他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案の違憲性に議論が集中した。憲法学者や地方に広がる「違憲立法」の指摘を受け、野党党首は行使を認めた憲法解釈変更の矛盾を追及。首相は従来の政府見解を説明するにとどめた。
■懸念
民主党の岡田克也代表は、集団的自衛権の行使容認を契機に、政府が将来的に都合よく憲法解釈を変えていく懸念が強まると指摘した。取り上げた具体例は、安倍首相が苦役を禁じた憲法に違反するとの考えを示している徴兵制だ。
岡田氏は「首相は徴兵制はあり得ないと言うが、歴代内閣が認めてこなかった集団的自衛権を、国会の議論も国民の理解もなく閣議決定した」と批判。石破茂地方創生担当相が徴兵は苦役に当たらないとの考えを過去に示したことを念頭に「将来の首相が徴兵制は憲法に合致していると判断し、閣議決定するリスクを考えた時、安倍首相の罪は重い」と迫った。
首相は行使容認の正当性に関し、自衛の措置を「国家固有の権能」とした砂川事件の最高裁判決(一九五九年)を今回も持ち出し「まさに憲法の範囲内にある」と主張。「常に国際状況を見ながら判断しなければならない」と、自衛権の範囲は時代に応じて変わるとの考えを示したが、徴兵制については「苦役に当たる」と従来の見解を繰り返しただけだった。
■標的
一方、共産党の志位和夫委員長は集団的自衛権の行使だけでなく、政府が「後方支援」と位置づける他国軍への補給や人員輸送も、憲法学者から違憲や違憲の疑いがあるという声が出ているとして追及した。
志位氏は「『後方支援』は、国際的に『兵站(へいたん)』と呼ばれる。軍事攻撃の格好の目標とされることは世界の常識だ」と強調。他国軍の戦闘に対する支援をめぐっては、自衛隊の活動が戦闘現場に近づきすぎ、武力行使と「一体化」すると違憲性を懸念する声が強まっている。
だが、首相は「憲法が禁止する武力行使には当たらない」と反論。「自衛隊が届ける物資が奪われてしまっては大変だから、安全な場所を選んで支援する。必ず戦闘に巻き込まれるわけではない」と述べたが、合憲とする詳しい根拠は説明しなかった。
維新の党の松野頼久代表は、集団的自衛権の行使と他国軍支援の議論が混在する状況に「多くの国民は議論の中身がよく分からないと思う。ダブルスタンダード(二重基準)に見える」と指摘した。
◆逆質問で民主を攻撃
安倍晋三首相は岡田克也民主党代表との党首討論で、答弁に立った五回すべてで「逆質問」して民主党を批判した。安保法案の修正協議に引き込みたい維新の党の松野頼久代表に対しては、質問を歓迎する発言をしたため、岡田氏への攻撃的な姿勢が際立った。民主党のイメージダウンを狙ったとみられる。
首相は冒頭から、集団的自衛権の行使容認を違憲と指摘した岡田氏に対し、衆院厚生労働委員会で民主党議員らともみ合い、自民党の委員長がけがをしたと訴えている問題を提起。「暴力で議論を抹殺するもので、二度とやらないと約束してほしい」と要求した。岡田氏が「公正な議会運営が確保できるかが問題だ」と反論すると「暴力を肯定した」と批判した。
安保法案に関しても「民主党は集団的自衛権を憲法違反と考えているのか」と逆質問。岡田氏に何度も回答を求め「民主党は責任感がないと断じざるを得ない」と強調した。
討論者が松野氏になり、政府の説明が分かりにくいと指摘されると態度を一変させ「大変、いい質問をいただいた」と評価した。
党首討論のルールでは首相にも質問を認めているが、討論を終えた岡田氏は記者団に「一つとして、まともに答えが返ってこなかった」と不快感を示した。
(政治部・生島章弘、後藤孝好)
2015/6/18 中日新聞
安倍晋三首相と野党三党の党首による十七日の党首討論は、他国を武力で守る集団的自衛権の行使容認を含む安全保障関連法案の違憲性に議論が集中した。憲法学者や地方に広がる「違憲立法」の指摘を受け、野党党首は行使を認めた憲法解釈変更の矛盾を追及。首相は従来の政府見解を説明するにとどめた。
■懸念
民主党の岡田克也代表は、集団的自衛権の行使容認を契機に、政府が将来的に都合よく憲法解釈を変えていく懸念が強まると指摘した。取り上げた具体例は、安倍首相が苦役を禁じた憲法に違反するとの考えを示している徴兵制だ。
岡田氏は「首相は徴兵制はあり得ないと言うが、歴代内閣が認めてこなかった集団的自衛権を、国会の議論も国民の理解もなく閣議決定した」と批判。石破茂地方創生担当相が徴兵は苦役に当たらないとの考えを過去に示したことを念頭に「将来の首相が徴兵制は憲法に合致していると判断し、閣議決定するリスクを考えた時、安倍首相の罪は重い」と迫った。
首相は行使容認の正当性に関し、自衛の措置を「国家固有の権能」とした砂川事件の最高裁判決(一九五九年)を今回も持ち出し「まさに憲法の範囲内にある」と主張。「常に国際状況を見ながら判断しなければならない」と、自衛権の範囲は時代に応じて変わるとの考えを示したが、徴兵制については「苦役に当たる」と従来の見解を繰り返しただけだった。
■標的
一方、共産党の志位和夫委員長は集団的自衛権の行使だけでなく、政府が「後方支援」と位置づける他国軍への補給や人員輸送も、憲法学者から違憲や違憲の疑いがあるという声が出ているとして追及した。
志位氏は「『後方支援』は、国際的に『兵站(へいたん)』と呼ばれる。軍事攻撃の格好の目標とされることは世界の常識だ」と強調。他国軍の戦闘に対する支援をめぐっては、自衛隊の活動が戦闘現場に近づきすぎ、武力行使と「一体化」すると違憲性を懸念する声が強まっている。
だが、首相は「憲法が禁止する武力行使には当たらない」と反論。「自衛隊が届ける物資が奪われてしまっては大変だから、安全な場所を選んで支援する。必ず戦闘に巻き込まれるわけではない」と述べたが、合憲とする詳しい根拠は説明しなかった。
維新の党の松野頼久代表は、集団的自衛権の行使と他国軍支援の議論が混在する状況に「多くの国民は議論の中身がよく分からないと思う。ダブルスタンダード(二重基準)に見える」と指摘した。
◆逆質問で民主を攻撃
安倍晋三首相は岡田克也民主党代表との党首討論で、答弁に立った五回すべてで「逆質問」して民主党を批判した。安保法案の修正協議に引き込みたい維新の党の松野頼久代表に対しては、質問を歓迎する発言をしたため、岡田氏への攻撃的な姿勢が際立った。民主党のイメージダウンを狙ったとみられる。
首相は冒頭から、集団的自衛権の行使容認を違憲と指摘した岡田氏に対し、衆院厚生労働委員会で民主党議員らともみ合い、自民党の委員長がけがをしたと訴えている問題を提起。「暴力で議論を抹殺するもので、二度とやらないと約束してほしい」と要求した。岡田氏が「公正な議会運営が確保できるかが問題だ」と反論すると「暴力を肯定した」と批判した。
安保法案に関しても「民主党は集団的自衛権を憲法違反と考えているのか」と逆質問。岡田氏に何度も回答を求め「民主党は責任感がないと断じざるを得ない」と強調した。
討論者が松野氏になり、政府の説明が分かりにくいと指摘されると態度を一変させ「大変、いい質問をいただいた」と評価した。
党首討論のルールでは首相にも質問を認めているが、討論を終えた岡田氏は記者団に「一つとして、まともに答えが返ってこなかった」と不快感を示した。
(政治部・生島章弘、後藤孝好)
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