赤字だらけ、原資は国民の財産 乱立官民ファンド存在意義は❓

2019-06-20 08:54:47 | 桜ヶ丘9条の会
赤字だらけ、原資は国民の財産 乱立官民ファンド存在意義は? 
2019/6/20 中日新聞

 政府が資金のほとんどを出資する官民ファンドの存在意義が怪しくなっている。農林水産省系ファンドは約92億円の累積赤字が判明。経済産業省系ファンドは「日の丸液晶」を守ろうとジャパンディスプレイ(JDI)に多額の投資を繰り返したが、JDIの業績は悪化し、経営再建も混乱している。14ある官民ファンドのうち、9のファンドは赤字だ。原資は国民の公的財産だということを思えば、もうやめるのが筋なのではないか。
 「今は出資が先行している時期。まだ(収益の)回収が始まる段階に入っていない」
 累積赤字が九十二億円に膨らむ見通しとなった官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構(A-FIVE)」の満永俊典総務部長は釈明する。
 A-FIVEは農林水産業の振興を目指し、二〇一三年に国が三百億円、民間企業が十九億円を出して設立した。これまで百四十三件、約百三十七億円の出資をしたが、一七年度末時点で累積赤字が約六十四億円。さらに、一八年度には国産農産物の海外販路開拓を目指して出資した企業「食の劇団」が破綻するなどした影響で、約二十八億円の損失が出る見込みだ。
 満永氏は「一般的に投資の世界では当初見込みとずれることはある。ただ全体の状況で見れば、計画より進展が早いものも、遅いものもある」と述べ、出資案件の全てが「失敗」ではないと主張する。
 A-FIVEを所管する農林水産省産業連携課の高橋広道課長も「農林水産業という特性上、長期間の出資を想定している。収益回収が始まるのは七~十年後。しばらく赤字は続くがいずれ黒字になる」と話す。
 とはいえ、赤字はあまりに巨額だ。高橋氏はその理由を「農林水産は国の補助金を使うのが一般的で、投資になじみのない世界だった。当初から簡単にはいかないと考えてはいたが、思っていた以上に出資が伸び悩んだ」と話す。
 それでも役員たちは業績と関係なく、最高二千二百八十万円の報酬を得ている。
 官民ファンドは一二年末以降、各省がわれもわれもと相次いで設立した。だが実績は乏しい。一八年十二月の「官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会」では、十四の官民ファンドのうち、業務開始から一七年度末までに累積赤字があるのは「クールジャパン機構」(九十八億円)、「中小企業基盤整備機構」(五十一億円)、「海外交通・都市開発事業支援機構」(四十六億円)などA-FIVEを含め計九ファンドに上ると報告された。
 官民ファンドは赤字以外にも問題をはらむ。例えば、日立製作所、東芝、ソニーの液晶パネル事業を統合し、「日の丸液晶」メーカーとして発足したJDIに出資した産業革新機構(現・産業革新投資機構=JIC)。赤字が重なるたびに政府の意向を受けて巨額の支援をした。
 にもかかわらず、JDIは経営が悪化し、株価も下がる一方。結局は中国・台湾の三社による企業連合の支援を受けることになったが、その後も台湾企業が離脱するなど経営再建のめどは立っていない。JICに対しては、本来行うべきベンチャー企業の育成より「ゾンビ大企業」の国策救済をしているとの批判もあった。
 しかし、安倍政権は官民ファンドをやめる気はない。吉川貴盛農相も十四日の会見で、A-FIVEについて「農林漁業者への出資や経営アドバイスを行い、ブランド化や販路拡大に貢献してきた」と存在意義を強調。諦めない姿勢を見せた。
 官民ファンドはなぜこんなに増えたのか。慶応大大学院の小幡績(おばたせき)准教授(企業金融)は「官民ファンドの設立は額が大きいので、政策の見かけの規模を膨らませられる。各省庁に『使い勝手のいい自分の財布』を持って損はないという発想もあるだろう」とみる。
 第二次安倍政権は発足直後、二十兆円規模の緊急経済対策をまとめ、成長戦略を打ち出した。一三年以降に官民ファンドは十二も増え、現在は十四に上る。その多くは国の出資、融資額が民間を上回り、実際は官製ファンドの色が濃い。
 官民ファンドの本来の目的は、民間資金は集まりにくいが政府が進めたい産業分野のベンチャーへの投資とされる。例えば、バイオテクノロジーなどの先端産業や、農業活性化のため新規事業を狙う企業などだ。だが、小幡氏は「成長可能性がある産業なら民間ファンドから資金が集まる。官民ファンドに持ち込まれるのは駄目な投資案件が多い。ビジネスとしては成果が出にくい農業などに投資しても、うまくいかない」と切り捨てる。
 流通大手のダイエー再建などに取り組んだ官民ファンド「産業再生機構」(〇七年解散)の執行役員だった、元経済産業省官僚の古賀茂明氏も「人材もなくノウハウもない分野で民間ができないことなのに、官が入ればうまくいくという考え方がそもそもおかしい」と指摘する。
 「投資だから損することもある」という言い訳がしやすく、責任の所在はあいまいになりがちだ。各省の担当官僚も二年ほどで異動するため、一つの投資案件を長期的に担当しない。「民間なら損を出せば責任を問われる。だが、官民ファンドは損を出しても誰も責任を取らない」
 そもそも官側が勝手に「国策」とみなして、特定の分野を産業育成するという仕組みにも疑問が残る。
 経済ジャーナリストの町田徹氏は、JICがJDIを支援したケースを挙げ、「『日の丸液晶を守る』などと政府が企業支援に口を出すことと、利回りを求めて出資することは本来相いれない。官民ファンドは最初からできないことをやろうとしている」と話す。
 町田氏は、昨年JICで民間出身の取締役の高額報酬を巡って批判が起き、民間の経営陣がそろって辞めたことも官民ファンドの「矛盾」を象徴しているとみる。「民間ファンドでは経営陣が高額報酬を得ているが、官民ファンドでは他の公的機関とのバランスもあり、そこまでは出せない。民間ファンドがしのぎを削る中、このままでは投資のプロと言える人材も集められないだろう」
 一番の問題は最終的にこうした損失が「国民の損」になることだ。官民ファンドの国側の出資は、財務省が管理する「産業投資」資金などが充てられる。原資はNTTや日本たばこ産業(JT)など政府が持つ株式の配当金などだが、こうした資金も国民の資産である。投資失敗で損失が出れば、それだけ国民の資産が減ったことになる。
 「野放図に増えた官民ファンドは一刻も早く、全て廃止したほうがいい」(町田氏)、「投資に大義がない」(古賀氏)と批判は強い。「全て必要ないとは思わない」と一定の評価をする明治大公共政策大学院の田中秀明教授(財政政策)でさえ、こう語る。
 「投資のプロがいるかが疑わしい官民ファンドは、損失を出しても政策目的だからと言い訳をする。それでは傷口を広げるだけ。こんなに乱立するのは、省庁の天下り先のポストを確保する思惑もあるだろう。赤字ファンドは速やかに清算したほうがいい」
 (中沢佳子、中山岳)
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