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矢野(五味)晴美の感染症ワールド・ブログ

五味晴美の感染症ワールドのブログ版
医学生、研修医、医療従事者を中心に感染症診療と教育に関する情報還元をしています。

日本語での症例提示とカルテ記載の共通の問題点

2010-04-22 08:52:38 | 医学教育
帰国後5年間、日本語で、母国の学生、研修医の方に接し、日本語での症例提示とカルテ記載において、ほぼ全員に共通する問題点があることを発見しています。

それは、
1.「診断の可能性を評価する習慣、概念が乏しい」ということです。

2.診断名に、右、左、遠位、近位、解剖学的位置が、多くの場合欠如するということです。
解剖学的位置が欠如していては、診断としては非常に不十分。
例:腸腰筋膿瘍(どちらの?)、椎骨炎(どこの?)、脳膿瘍(どの部分の?)
腎盂腎炎(どちらの?)という感じです。

これは、「言語による限界」「概念の存在の有無」「文化的背景」などが原因ではないか、と感じています。

数年前に、日本人としてはじめて米国の感染症科専門医資格を取得され、沖縄県立中部病院で、感染症診療を確立された喜舎場朝和先生のご講演を拝聴したときに、私のなかでも、それまで「言語化できずにいた疑問」が、明確になりました。

在米時代には、「無意識レベル」で、rule out, most likely, less likely, unlikelyなどの用語を、自分の診断に合わせて認識していたことを思い出しました。

日本の現場で、患者の診断、臨床状態を把握する際に、「障壁」となっていると私が強く感じる面があります。


診断名が、「いつまでたっても、xxx疑い」に終始すること

あるいは、「xxxxを指摘されて・・・」という文章の意味、

「xxxxは否定的」

というように、「診断」の確実性を示すことばが非常に少ない現実です。


診断は、
確定診断 definate
推測診断 probable, or presumed
xx診断の可能性 possible (50%以上の可能性)
xx診断の可能性は低い less likely
xx診断の可能性はきわめて低い、または、ほぼない unlikely
xx診断は、除外された ruled out

と英語で診断名を記載する場合、上記のような「可能性のGrade評価」が必須です。


一方、日本語で記載されているカルテ記載を見ると、
確定しているのか、推測なのか、鑑別診断のひとつなのか、不明瞭の場合が多いです。


保険病名として、「xxx疑い」と記載せざるを得ない社会事情はありますが、教育面、臨床判断をトレーニングする場合、臨床試験を行う場合などに弊害があります。


日本語では、
確定
疑い
否定的
除外

の4通りが主ですが、「疑い」と「否定」にGradeが存在しないため、可能性が伝わってきません。したがって、カルテを見ても、その状態がわかりにくい、という状況である感じがします。

また、カルテ中の「xxxを指摘され」という表現も非常にあいまいです。
「確定診断がついているのか」「推測診断なのか」「保険病名だけなのか」「異常所見がみつかっただけなのか」「鑑別診断として上がっただけなのか」「患者さんが訴えているだけなのか」意味があいまいで、伝わりません。

学生、研修医の方は、「診断の可能性のGrade評価」を行い、それが伝わる表現を心がけると、記載やプレゼンテーションはかなりシャープになります。意識してみてください。
ちなみに、私が指導する場合、「疑い」「否定」は使用しないようにお願いしています。


上記のような国内で見られる共通の問題をクリアすることで、患者をより正確に精緻に把握し、質の高い診療を提供できるようにできれば、と考えています。そのためにも、学生時代から精緻な患者の把握とプレゼン、記載ができる教育体制が必須と考えています。

国家試験、CBTなどの感染症分野の指針

2010-04-21 21:56:56 | 医学教育
現在、国内で医師の養成に必要な試験は、Computer-based test CBT, 医師国家試験などがあります。

世界各国が、時代の要請と世界的な潮流で、医学教育をどんどん進化させています。

日本においても、「現時点で、どういう基本知識、問題解決力、思考力、判断力など」が社会的に要求されているかを、より明確にし、指針の改定などはかなりアグレッシブに行うことが必要になっていると感じます。

現在、たとえば、国家試験の感染症分野の指針では、試験に必須とされている内容に偏りがあると私は感じております。まれな疾患を、「試験のために使用する」のではなく、より実践的で、頻度が高く遭遇する疾患を選択し、臨床現場で即役立つ知識や判断力を培うための指針が望ましいと考えます。

この10年ぐらいの世界的な潮流では、基本知識を問う問題はもちろんありますが、「記憶しているかどうかのみを問うだけ」の単純記憶問題はあまり推奨されない状況ではないでしょうか。現在では、現場の診療で前提となる知識をもとに、判断し、患者マネージメントで最適なものを実行できる実践力を試す内容が望まれています。

「試験勉強」=「明日からの診療に直結し役立つ」ことが望ましいのです。

それぞれの国の事情にもよりますが、「即戦性」「実践性」など、なるべく現実の現場で
役立つことを出題目的・目標に据えている印象です。私自身が受験した内科と感染症科の米国の専門医資格更新試験や、USMLE step 1, 2, 3の問題は、非常に良質の問題が多いです。まさに、「試験勉強で、診療の質が向上したり、医療安全につながったり」という良質の問題の宝庫です。

医学教育学は奥が深く、自分が臨床医学を学ぶことも楽しいですが、教育学自体もとても興味深く、楽しい、と感じています。

医学生の方が自ら行動を起こしています!

2010-04-03 09:18:12 | 医学教育
医学生の方が自ら、医学教育の質の向上を目指して、有志の会を発足させているのを昨日知りました。とても頼もしいことだと思います。


群馬大学の柴田綾子さんら。
ご紹介サイト
http://www24.atwiki.jp/movefrom09


世界に目を向ければ、よりよい教育を誰もが受けたいと願うのは当然です。その場所へも簡単に移動できる時代になりました。もし、医師免許が世界共通となる時代になれば、医学教育のグローバル化は急速に進行するでしょう。EU (ヨーロッパ内)では、すでに医師免許は共通だと伺っています(未確認)。すごい時代になりますね~。


学生の争奪 教育のグローバル化

2010-04-02 12:49:23 | 医学教育
最近、夜10時から12時ごろにCNNのLive Newsを見るようにしています。

昨日もとてもおもしろいニュースが多かったのですが、CNN Londonの、環境問題を取り上げた番組を見ました。ご紹介したいのは、その番組の途中でほぼ独占?とも思えるぐらい単独でなんどもなんども流れていたUAE (アラブ首長国連邦)の大学院のCM宣伝でした。

その大学は、未来は、エコ化でこんな感じになる、ということをコンピューターグラフィックスで見せながら、現在、ボストンのMITとコラボレーションし、大学院教育を行っている、どうぞこの大学に来てください、という大規模な勧誘の宣伝をしていました。

Masdar Instituteという大学院です。
http://www.masdar.ac.ae/home/index.aspx

サイトも非常に洗練されて魅力的です。すごいなあと関心しました。

CNNのCM宣伝中では、

”Learning to Change the World."というフレーズとともに、5-6回同じ映像を番組中に見ると、そのフレーズさえも暗唱できるくらい頭にこびりついてしまいました。。。

すごいな、と思います。巨額な宣伝費をかけてもなんとしても一流の学生を勧誘したい、との意図がかなり見えました。自国をアカデミアのhub(中心)にする中東諸国の国家戦略なのだと思いました。


米国の大学・医療事情(現地の友人から)

2010-04-01 10:10:11 | 医学教育
昨日、うれしいサプライズがありました。久しぶりに、米国の親しい友人が電話をかけてきました。

彼とは、医学教育仲間で、2006年にスエーデンのKarolinska Instituteでのワークショップでご一緒しました。米国は、リーマンショック以降、大学職員の給与もカットされ、
たとえば、Harvard大学の医学部職員は、20%の給与カットだと聞いた、と話していました。

前にご紹介した、「貧困大国アメリカ II」 堤 美果著の中でも、大学の学費が高騰、
職員の給与カットにより、ストライキが起こった模様がルポルタージュされていました。

弱肉強食の米国の現状は、いつも極端なことになります。

余談ですが、友人が最近、手術を受けたそうですが、自身が医師のため、その領域のBest surgeonを知人の医師に紹介してもらったそうです。Mayo Clinicの外科の先生に手術をしてもらったそうですが、かなりの高額だったそうです。

ちょうど別の知人も米国で、その領域のいわゆるExpertと呼ばれる方のセカンドオピニオンをもらいに行きましたが、そのExpertの方の”診察料”は、なんと診察だけで$1000だよ、と驚いていました。

オバマ政権が、医療制度改革法案を可決しましたが、米国の事情は本当に大変です。
米国では、本当に、病気にはなれません。医学教育は世界一だと思いますが、医療制度は最低レベルの地を這っていると思います。

大学研究家の山内太地さん

2010-03-30 15:18:17 | 医学教育
たまたま読売新聞で見つけた記事に、大学研究家の山内太地さんという方の記事がありました。下記は山内さんのブログです。

http://tyamauch.exblog.jp/

世界の大学めぐりをされているそうです。

著書で、「こんな大学で学びたい!全国773校探訪記」新潮社

を出されています。

私もいろいろな学校を見学したいと思っていたところなので、興味深い記事でした。

オマーンの幼稚園から高校までの私立学校、ニュージーランドの高校教育など、本で読んだ学校はまず訪問したいと考えています。

グローバル化時代で、世界各国が取り組んでいるのが、よりよい人材の育成と確保です。
グローバル化時代で、学生もグローバルに争奪、多くの人がよりよい場所を求めて動く時代です。

どのような教育を自分は望むのか、どのような教育を自分は提供できるのか、このような観点から教育、私の場合は医学教育を学びたいと思っています。

22.2.22の奇跡 ミラクル1

2010-02-23 09:14:57 | 医学教育
昨日、平成22年2月22日は、本当に奇跡ミラクルが起こりました。

自分の医師人生のなかで、心が痛んだ患者さんが何人かいます。そのうちのお一人で、ずっと心に残り、その後の様子がとても心配に思っていた方いました。

昨日、そうした思いが通じたのか、その患者さんと再会することができました。
その方は、合併症で両側失明されてしまい、本当に不憫に感じていました。とても知性の高いかたで、ご自分の病態や治療に関しては明確に認識されている方でした。

もう随分前のことなのに、私が自分の名前を言って自己紹介すると、ちゃんと覚えていてくださり、なつかしそうな表情をしてくださいました。医者冥利に尽きる体験でした。

以前、「患者に寄り添う」ことを、ぜひ、実践していきたい、と決意したのですが、この患者さんに、サイエンスとしての臨床医学、ケアの提供のみでなく、

「クリニーク」(患者の枕元で話に耳を傾ける)を実践したいと思っています。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校のローレンス・ティアニー先生のお言葉に、

"Every patient is your best teacher." というのがあります。

ひとりひとりの患者さんから、医師は学習するものだ、と実感しています。
患者さんに育てていただいている、と思います。