書名:黒い仏
著者:殊能将之
出版:2004年1月 講談社(講談社文庫)
ISBN:4062739364
価格:580(税込)
「ハサミ男」に敬服し「美濃牛」で失望した殊能将之ですが、「美濃牛」と同時購入した「黒い仏」を読み終えました。
結論から書くと…うーん、何じゃこりゃ。
美濃牛で登場した自称名探偵の石動戯作が、福岡のはずれの辺鄙な土地・阿久浜にある寺に眠っているらしい唐伝来の秘宝捜索を大生部から依頼される。
助手のアントニオと共に福岡へ向かい寺で資料を調査するが、漢文が読めない石動は四苦八苦。
その頃、福岡市内のアパートで男性の他殺死体が発見される。
博多県警の刑事達が被害者と喫茶店で一緒だった女性を捜索し、阿久浜へやってくる。
捜査の結果、女性の知人の大生部が容疑者として浮上するが、大生部は殺害当日、石動達と会って調査を依頼していたというアリバイがあった。
…と、ここまで書いたあらすじだけならフツーにミステリーの範疇なんですが、実際にはとんでもない方向へ展開してます。
(以下ネタバレ)
実は寺の住職や僧侶達は妖魔で、そこに比叡山の僧兵が乗り込んできて、秘宝を巡って暗躍しているのでした。
石動の助手のアントニオも実は能力者で、この争いに巻き込まれたりしてます。
石動は大生部のアリバイがトリックだと説明し、全然的外れだったのですがそのストーリーの方が都合が良いので妖魔は過去へ戻って石動の説の通りに行動したことにしてしまいます。
最後に石動が秘宝のありかの謎解きをしてしまったため、妖魔と僧兵たちの死闘が始まることに。
「名探偵の謎解き」やら「本格ミステリー」というモノに対して「おしりペンペン」してるよーな話です。
こういう設定からの視点だと「名探偵の謎解き」という行為がいかにバカバカしく見えることか。
一生懸命アリバイ工作のトリックを暴くっつーのも虚しい限り。
という感じで、作者は「根底からひっくり返された感」を読者に抱かせたかったんだと思います。
やりたかったことは理解できるんですが、コレが小説として面白いかどうかっつーと、個人的にはダメでした。
石動は相変わらず自称名探偵ですが謎解きした後でもキレてる人間に見えなくて、敬服しないだけならともなく感情移入もできず、キャラとしてイマイチなまま。
夢枕獏なんぞに溺れてしまっている自分にとっては、妖魔や闘いのシーンの描写は拙く寒いし。
肝心の「実はこんな設定だったんですが」という部分でも驚愕する訳でもなく、「あーそう、何でもアリの話なのね」「やっぱ買って失敗だったか」という失望感だけが残るのでした。
「こういう手もある」って得意気に言いたい話だったんでしょうが、そんな思いつきを披露するために1冊の小説にする程のネタじゃないんじゃないの? と思ってしまいました。
短編でも引っ張り過ぎに思えるだろうなぁ…ショートショートとしてならサクっと読み流せたんだけど。
本格ミステリー派の人はこの展開に憤ってたりするようですが、自分は「美濃牛」が合わなかったので過度な期待感は全く持たずに読んだお陰か、「黒い仏」では「あぁやっぱりダメだったか」という虚しさだけで、怒りを感じる程ではなかったです。
色んなジャンルの小説を読んでるんで、別にどんな荒唐無稽な話でも受け入れられるんですが、最も肝心な点「娯楽小説として面白いかどうか」という点で落第してるからなぁ。
せめて設定自体のどんでん返し部分を最後まで引っ張って、ラストの数ページでひっくり返してくれたら、かなりインパクトがあって面白かったかも知れないんですけどね、残念。
こうして殊能将之で1勝2敗で負け越してしまいました。
「鏡の中は日曜日」ってのが良さ気という噂を聞いたんで、せめてタイに持ち込むために読んでみようかなと思ってます。
それもハズしてたら、自分的には「殊能将之は一発屋」になってしまうのですが、果たして。