中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

休職復職Q&Aシリーズ③

2022年08月02日 | 情報

Q;従業員200人規模の製造業の、人事労政課長です。入社して2年目の従業員についてお尋ねします。
注意しても早退や欠勤を繰り返しています。しかも他の従業員とのコミュニケーションに問題が多く、社内が混乱しています。
社内では、この従業員は「うつ病」ではないか、あるいは生まれつきの性格ではないかと見方が二分しています。
どのように対応すべきでしょうか。それに注意点があればよろしくお願いします。
なお、弊社では、産業医と顧問契約しており、月に2日ほど訪社いただいています。

A;よくある質問ですので、詳しく解説します。

事業所内が混乱しているご様子。お困りでしょうね。
さて、事例性と疾病性ということばをご存じでしょうか?

「事例性」とは日常の業務を推進するうえで困る具体的事実で、「遅刻・欠勤が目立ち就業規則を守らない」
「これまでよりも仕事の能率が低下している」「同僚とたびたびトラブルを起こす」「身だしなみが乱れている」などを云います。
周囲の関係者はそのことにすぐ気がつくはずです。
一方、「疾病性」とは症状や病名などに関することで、「食欲がない」「よく眠れない」「幻聴がある」など医療の専門家の領域をいいます。
ですから、事業場内では、「事例性」に注目してください。「疾病性」は医療の専門分野のことです。
社内の意見が二分しているということは、まったく意味のないことになります。

もし、ご質問のような言動・行動があるのならば、上司・管理職は、まず別室に当該従業員を招き入れ、面談を行いましょう。

担当業務の進捗状況や同僚とのコミュニケーション、私生活の状況等公私にわたる些細な出来事から会話をはじめ、徐々に本題に入ります。
ここで、注意しなければならないのは、当該従業員に「病識」(自分は病気であるという自覚)がないことがあげられます。

高熱があったり、咳が止まらないなどは、本人も十分に認識できるのですが、精神疾患系の疾病は、本人に病識がないのが特徴です。
ですから、面談者が何を云い始めたのか、なぜ面談なのかがよく理解出ていないはずです。

面談者は、このようことを意識しながら面談を進めましょう。

そして、原則として産業医と面談することを勧めてください。
当該従業員が、産業医との面談を嫌がるようであれば、無理に面談を勧めないでください。しばらく、様子を観察しましょう。

しばらく様子をみていても、行動や言動に面談前と変化がない場合には、再度面談を行い、産業医面談の必要性を納得させます。

大切なのは、医療行為をするのではなく、医療の専門家のアドバイスを受ける場であることを説明することです。

次に、当該管理職は産業医と面談します。産業医には、現状を説明し当該従業員との面談日をセッティングします。
併せて、当該管理職は、人事労務部門にも経緯を報告します。

なお、ここから先の対応は、人事労務部門に委ねて差し支えありません。このことは、当該従業員にも知らせることです。

当該管理職のご苦労を労ってあげてください。
(当該従業員には、過重労働やハラスメント等の可能性もあるでしょうが、別稿に譲ります。)

なお、事業場の判断で、当該管理職にこれから先の管理を任せることも可能ですが、人事労務部門との連携を保つことが重要になります。

産業医は、当該従業員の職務歴、職務内容、健康診断結果、ストレスチェックの結果、及び直属上司の意見等を参照しながら
面談を進めるのですが、結果的には専門医の受診を推奨することになります。
当該管理職と人事労務部門は、当該従業員に専門医の受診を指示します。

通常、労働者は、高熱があったりケガをすれば会社の指示がなくても、医療機関を受診します。

反対に、会社の指示があっても医療機関を受診しない、受診したがらないのは、精神疾患系の特長です。

そこで問題になるのは、会社は、従業員に対して医療機関を受診することを指示できるか、ということです。
通常、多くの企業(特に、中小企業)の就業規則には、医療機関への受診を命じることができるとの記載はありません。
中には、就業規則に規程がないことを理由に、医療機関の受診を拒否することも想定されます。
しかし、就業規則に受診命令の規程がなくても、安全配慮義務の履行の観点から、
合理的かつ相当の理由があれば、受診を命じることが可能です。(参照;京セラ事件・東高判 昭61.11.13)

しかし、判例までを持ち出して、医療機関の受診を強制することには問題が生じる可能性があります。
あとあとにわだかまりを残すことも考えられますので、穏やかな雰囲気の中、説得を試みることが大切です。

受診する医師、医療機関の選択は、当該従業員に委ねます。
本人が医療機関を選択できないと申出たときには、産業医と相談のうえ、3か所程度の医療機関を紹介します。
それでも選択は、当該従業員に委ねます。なお、会社側が特定の医療機関を指定しないのは、
指定した医療機関での診療・治療が不調になることを考えての、危機回避策になります。

また、当該従業員が、日頃より受診している主治医(多くは、内科医)への相談や、主治医が紹介した精神科医への受診でも構いません。

最終的には、会社は、当該従業員に診療結果である「診断書」を提出させることになります。

これから先は、別稿に譲ります。

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