夏バテ 脳の疲れも原因の一つ
元気の処方箋(神田東クリニック院長 高野知樹さん)
2022年7月18日 日経
記録的な猛暑日が続き、だるくて疲れやすい人、めまいを起こしたり、おなかの調子が悪かったりする人も多いだろう。
熱中症には至らなくてもいわゆる「夏バテ」に陥る人は少なくない。夏バテは脳と自律神経による体温調節の働きが深く関わっている。
脳の温度は高温の夏も寒い冬もおよそ37度前後に保たれている。
外の環境変化に対して、体の内部環境を一定に保とうとする仕組みを「ホメオスタシス」と呼ぶ。この仕組みを支えるのが自律神経だ。
「自律」は「自動」という意味でもあり、例えば食べるとき、食べ物をかんで飲み込むのは自分の意思だが、
その後の胃液の分泌など消化・吸収は自動的に行われる。
その自律神経を管理しているのは脳。夏の体温調節のため、脳は多くのエネルギーを使って自律神経を働かせる。
だが、脳の仕事は体温調節以外にもたくさんある。体温調節の仕事が多いと脳の余力が減る。
すると微妙な体の調節が下手になり、目まいや胃腸の不調などが起きやすくなる。季節の変わり目に風邪をひきやすいのも同じ理由だ。
「うつ病」なども脳の疲弊が招いた状態である。この猛暑で脳の余力が減っている状態では、
ストレス耐性が低くなりメンタル不調にも陥りやすい。単なる夏バテだと考えていたら、実はメンタル不調だったということもある。
対策として大切なのは余力が減った脳をいたわること。まずはエネルギー補給の源である食事。量より質が大事になる。
土用の丑(うし)の日のウナギもいいだろう。
次に睡眠。24時間休みなしの脳にとって一番ゆったりする時間だ。深部体温が少し下がると眠りやすくなる。
多湿で体温調節が難しい時期は扇風機やエアコンをうまく使ったり、熱のこもりにくい寝具を選んだりするのもいい。
脳が喜ぶ楽しいことに関わる時間を意図的につくることを忘れないでほしい。
対策をしても気分の落ち込みなどが改善しない場合は、心の専門家を訪ねていただきたい。
高野知樹さん
1991年産業医科大学医学部卒。専門は精神医学(産業精神医学、児童・思春期精神医学)。
産業医大精神医学教室助手、北九州市立少年相談センター、日立製作所健康管理センター産業精神科主任医長などを経て現職。
労働衛生コンサルタントとしても活動。職場のメンタルヘルスに関する著書多数。