パワハラと労災 心の病を生まぬ職場にしたい
2022/08/14 読売;社説
仕事のストレスが原因で、心の病になってしまう人が後を絶たない。政府と企業が協力し、安心して働ける職場作りに努める必要がある。
厚生労働省によると、仕事が理由でうつ病や適応障害などの精神障害となり、労災認定された人は昨年度、629人に上った。1983年度に調査を始めて以来、過去最多だ。
精神を病んだことを理由にした労災の申請件数も2021年度に2300件を超え、17年度に比べて1・3倍に増えた。働き方改革が浸透し、心の健康に対する意識が高まったことが、こうした現状を生んでいる面もあろう。
精神障害の認定理由で最も多かったのは、上司から身体的、精神的な攻撃を受ける「パワーハラスメント」で、125人だった。このうち12人が自殺していた。
政府は4月、中小企業にもパワハラ対策を講じることを法令で義務付けた。相談体制の整備や、パワハラ行為には厳正に対処することを求めている。企業の中には、労務管理のノウハウに乏しく、対応に戸惑う例もあるという。
パワハラと指導の線引きが難しいのは事実だ。
厚労省の指針によれば、遅刻など社会的ルールを欠いた行動を繰り返す人に対し、上司が厳しく注意しても、パワハラにはあたらない。一方、業務の遂行に関して長時間にわたって厳しい 叱責しっせき を何度も行えば、パワハラとなる。
働く人の人格や尊厳を傷つける行為が許されるはずがない。国は、パワハラにあたるかどうかの判断基準を明確にし、そうした行為を減らすことが急務だ。
中小企業の担当者向けの研修も充実させたい。様々な具体例を紹介して、丁寧に周知を図らなければならない。
新型コロナウイルス禍が長期化し、病院や介護施設で働く人が自らの感染への不安から、精神疾患となることもある。使用者側が心のケアに努めることが大切だ。
精神疾患の労災認定が増えた一方で、長時間労働を原因とする認定は減少傾向にある。
ただ、トラック運転手が認定される件数の割合は近年、長時間労働による労災認定の3割を占めている。宅配を利用する人が増え、人手が追いついていない。
厚労省は、運転手が勤務終了から始業までに、最低8時間の休息時間を取るよう事業者に求めている。運転手の長時間労働は、大事故につながる恐れがある。休息時間の延長を検討したい。