中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

社員の健康情報管理

2012年07月06日 | 情報
社員の健康情報管理の取り扱いについて、立て続けに複数の方から質問がありました。
丁度ぴったりの模範回答がありましたので、紹介します。

Q:私は健康管理室のスタッフなのですが、当社の人事部から、健康管理室が持っている社員の
健康診断等の個人データを全部提出するようにといわれています。
社員個人の健康データを社内だからといってそのまま、他の部署( 人事部) に渡すことは躊躇されます。
どのようにしたらよいでしょうか。

A:前もって情報を提供する場合の規程を衛生委員会等で審議し、その規程に沿って情報を提供するようにしましょう。

健康情報は個人情報の中でも機微な情報とされ、特に慎重に取り扱う必要があります。
個人情報保護法に基づき厚生労働省が定めた「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために
事業者が講ずべき措置に関する指針」(以下、「指針」という)第3の3の(2)においても、
「雇用管理に関する個人データは、その取扱いについての権限を与えられた者のみが業務の遂行上
必要な限りにおいて取り扱うこと」とされています。

さらに、「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」おいては、
「指針」第3の3の関係として、「健康診断の結果のうち診断名、検査値等のいわゆる生データの
取扱いについては(中略)産業医や保健師等の看護職員に行わせることが望ましいこと」とした上で、
「産業保健業務従事者(医師、保健師等、衛生管理者など)以外の者に健康情報を取り扱わせる時は、
これらの者が取り扱う健康情報が利用目的の達成に必要な範囲に限定されるよう、
必要に応じて健康情報を適切に加工したうえで提供する等の措置を講ずること」とされています。
また、メンタルヘルスに関しては、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の7にも同様の記載があります。

以上のことから、人事担当部署から要求されたからといって、すべての健康情報を生のまま提供することは
個人情報保護という観点から適当でなく、情報の使用目的、使用範囲を明確にした上で、適切に
加工したものを必要な限度で提供とすべきであると考えられます。
健康情報は人事管理を行う場合の重要な情報とされ、人事担当部署から情報の提供を要求される事態は
しばしば発生するものと思います。
健康管理部署の担当者がこれらの要求にその都度個別に対応していては大変なので、
健康管理部署から他部署に健康情報を提供する場合の規程を前もって衛生委員会等での審議にて定め、
その規程によって情報を提供するようにしていく必要があるものと思われます。

参考文献
・厚生労働分野における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン等
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/
・「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために事業者が講ずべき措置に関する指針」  
 http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/07/tp0701-1.html
・「雇用管理に関する個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」
 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/seisaku/kojin/dl/161029kenkou.pdf

産業保健21誌 第68号より転載しました。
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取引先からのハラスメント

2012年07月05日 | 情報
社内でのハラスメントについては、対策を講じているが、
営業担当が取引先からの無理難題、ハラスメントに苦慮している、どうしたらよいか、という質問がありました。
営業を担当されている人たちには、日常的におきている、難題ですよね。

まず、総論からです。
商取引、商慣行においては、売り手、買い手、それぞれはフィフティ・フィフティ、
つまり対等の立場にあるということです。これが大原則であることを覚えておいてください。
この大原則を理解しておけば、日々の営業活動も、「楽しく」できます。
次に、ご質問の件が、次第にエスカレートしますと、「優越的地位の乱用」ということで、
公正取引委員会の是正勧告につながる事案になりかねません。
例としては、大手小売業による、仕入れ先に対する優越的地位の乱用問題が、かつてありました。
http://www.jftc.go.jp/dk/itakutorihiki.html
詳しくは、公正取引委員会のHPを参照してください。
ここまでは、建前論です。

次に、本音の部分になります。そうはいっても、商取引のおける優越的地位の乱用は、日常茶飯事です。
営業活動は、取引先からの無理難題があることを前提としなければなりません。
なくそうと努力されても無理なはなしです。

そこで、まず教育です。新人の営業担当には、取引先からの無理難題に、どう応えていくかを指導しなけれななりません。
「相手のふところに、飛び込め」、案ずるより産むがやすし、これが営業の極意です。
そして、御社の営業活動の文化を継承することです。
さらに、営業活動でおきたことを、正直に報告させる、報告することができような空気を醸成しなければなりません。
そうしないと、いつになっても営業ノルマ、販売計画の達成は望めません。
どうしても難しい場合は、先輩や上司が同行することも必要になります。
先輩や上司が模範を示します、OJTそのもです。

次に、無理難題、ハラスメントが取引先の社風なのか、一担当者の個性なのかを見極めなければなりません。
場合によっては、取引先の上司、経営層が認識していない、担当者の懐事情かもしれません。

結論です。
場合によっては、御社の経営にとって、取引先の無理難題、ハラスメントを受け入れなければならないこともあります。
経営層に報告、了解を取り付けることにより、商談が成立することになります。
多少の経費増があっても、大きな成果を獲得することができるからです。
これが、商取引というものです。そうでなければ、営業担当は必要ありません。
オンラインで繋がれた電子商取引で十分になります。
営業担当部門の地道な活動と英知がないと、生き馬の目を抜くような、
企業間の生き残り競争に勝ち抜くことは不可能でしょう。

このようにして、御社の経営に貢献する、一人前の営業マンが、また一人育つことになります。






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職場のうつ、人ごとじゃない

2012年07月04日 | 情報
毎日新聞 6月26日(火)より、転載しました。

<リアル30’s>変えてみる?(7) 頑張れない時もある--職場のうつ、人ごとじゃない

「お前すごいな、大したもんだよ」--友人宅の新築祝いでアラタさん(31)は素直に祝福の言葉をかけることができた。
庭を駆け回る子どもの姿がまぶしい。うつで苦しんだ半年前ならとてもこんな気持ちにはなれなかった。
 高校を出て東京都内の英語専門学校に入り、22歳で米ニューヨーク州の大学に入学した。
環境学を学び、卒業後は日本の外資系メーカーに就職した。世界中に支社と工場があり、従業員は10万人超。
国内大手メーカー7社を相手に営業をした。真面目な性格から、休日も仕事のことが頭から離れなかった。
 取引相手の中に、品質基準が異様に厳しく、クレームの多さで有名な会社があった。
ネジの頭に小さな傷があるだけで納品を断られる。上司に相談したが、米国の本社は「機能に問題なし」と取り合ってくれない。板挟みでひたすら謝るしかなかった。「自分の努力では何もできない。先の見えないトンネルを走り続けているようだった」
 追い打ちをかけるようにリーマン・ショック。全社で2万人のリストラが発表され、工場の人員削減で納期を守れなくなった。さらに謝り続けた。ストレスで休職する同僚もいた。その間も株主配当は続いた。
「社員より株主が大事なの?」。会社を信じられなくなっていった。
 異常はまず体に表れた。小さな物音で動悸(どうき)がし、夜眠れず、朝は布団から出られなくなった。
うつ病と診断され、休職した。「人並みの仕事も、人並みの家庭も持てないかも」。
自分を責めながら部屋でぼーっと過ごした。1年後に復職したが症状がぶり返し、結局退職した。
 仕事の責任を果たそうとがんばり過ぎ、成長しなきゃと焦り過ぎ、プレッシャーをうまく逃がせなかった。
当時、社内の誰かに相談すれば良かったのに「キャリアを築くために弱みは見せられない」と思い込んでいた。
しばらく療養した実家で、親が「焦らなくていいよ」と言ってくれて、救われた。
医師の許可が出て就職活動を始め、この春なんとか再就職できた。
 今、30代はひたすら忙しく、責任も重い。一方、ずっと派遣でやってきた友人は正社員になれず苦しんでいる。
自分は運が良かっただけだと思う。
「新卒採用に乗り損ねたり、引きこもったり、派遣で働いたり、病気で休んだり、ちょっとしたことで人生が変わる時代。
もう定型はないから、僕も誰かと自分を比べて悩むのはやめた」

 コミュニケーション講師の紀々(きき)さん(36)は昨年夏から、
那覇市で30代を対象にした「ゆんたく」(おしゃべり)の会を始めた。
初対面の10人が丸く並べた椅子に座り、温かいお茶を前に気持ちを吐き出す。安心してしゃべって安心して帰ってもらう。
 「周りにうつの人、いますか?」と尋ねると、ほぼ全員が手を上げる。
「同僚がうつで休職中。その分私は全然休めず、きつい。
その同僚が『気分転換で旅行中です』なんてメールをよこすと、いっそ私もうつになれたら楽かなと思う」
--一人がそう打ち明けると、別の一人が「分かるー、その気持ち」と応じた。
 職場では絶対に言えないことを、誰かに聞いてもらえるとほっとするものだ。
「うつになるとしんどい。でも『私もうつになるかも』『うつになれる人がうらやましい』と思うのもつらい。
だからここで本音を出し切ってもらう。私にうつは治せないけど、うつになるのを防げたらいいなと思っている」
 10年前から企業や文化サロンでコミュニケーション講座を担当してきた。
ここ数年、上司の世代から「今の30代は弱い」と相談されるようになった。
確かにメンタル面の不調で休職する30代は多い。
「元気がない」「打たれ弱い」「甘えている」とも言われる。同世代としては心配だ。「30代ってそんなに単純?」
 大学4年の時に山一証券が廃業し、就職氷河期を目の当たりにした。
プロのオルガン奏者になったものの仕事が減り、体調も崩して講師に転職した。30代が生きる時代と気持ちに共感できる。
 30代の悩みは仕事や人間関係ばかりではない。
「残業代より時間が欲しい」と非正規社員の同僚をうらやむ正社員女性、正社員の厚遇にあこがれる非正規の男性--。
立場の違いで30代同士も分断され、一人でもがいている。
 上司が「飲みニケーション」に誘うのは時に逆効果。彼らの本音は「飲んで好きなことを言えるのは上司だけ」。
居酒屋ではなく、勤務時間中の「スタバ会」を望んでいる。
お酌不要で料金は各自が先払い、意見交換にはそれで十分だ。でも上司はそのことを知らないし、気づかない。
 「どうせ大した意見を持ってないくせに」「どうせ俺らの意見なんか聞かないくせに」と、
お互いに思い込んでいるようにも見える。最近は20代からこんな声を聞く。
「今の30代を見てて、ああなりたくないと思っちゃう」
 30代に元気がないと、社会は元気にならないと思っている。【山寺香、鈴木敦子】=つづく

◇「心の病増加」企業の44.6%
日本生産性本部が2010年、上場企業2243社を対象に実施した調査(有効回答数251)によると、
最近3年間に心の病が「増加傾向」と答えた企業は44.6%に上った。
「心の病が最も多い世代」は、「30代」が最多の58.2%に。
企業内で30代にさまざまな負担やしわ寄せが及んでいる実態が浮かび上がる。
また、独立行政法人労働政策研究・研修機構の11年度の調査では、
従業員10人以上の民間事業所(有効回答数5250)で、
過去1年にメンタルヘルスで1カ月以上休職するか、または退職した人がいた事業所の約3分の1が、
対策に取り組んでいなかった。特に中小企業の取り組み促進が課題となっている。

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精神障害の労災認定(続編)

2012年07月03日 | 情報
平成23年12月に精神障害の労災認定基準が制定されたことは、当ブログでも紹介しました。
その内容を記載した、リーフレットが配布されていることをご存知ですか。
もし、実物が手に入らない場合は、厚労省のHPより、ダウンロードできます。

「精神障害の労災認定」http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-15.pdf

3月にリーフレットが発行されて以降、労働基準監督署も広報活動に努めていますので、
皆さんも、一度は内容を確認してください。特に別表1の「業務による心理的負荷評価表」です。

「特別な出来事」2類型の他に「特別な出来事以外」36類型が詳細に規定されています。
「特別な出来事」2類型とは、「心理的負荷が極度のもの」、と「極度の長時間労働」ですので、
みんさんも当然に注意するでしょう。留意しなければならないのは、「特別な出来事以外」36類型でしょう。

36類型とは、具体的に以下のように決められています。
①(重度の)病気やケガをした、②悲惨な事故や災害の体験、目撃をした、
③業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした、④会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした、
⑤会社で起きた事故、事件について、責任を問われた、⑥自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた、
⑦業務に関連し、違法行為を強要された、⑧達成困難なノルマが課された、⑨ノルマが達成できなかった、
⑩新規事業の担当になった、会社の立て直しの担当になった、⑪顧客や取引先から無理な注文を受けた、
⑫顧客や取引先からクレームを受けた、⑬大きな説明会や公式の場での発表を強いられた、
⑭上司が不在になることにより、その代行を任された、⑮仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさる出来事があった、
⑯1か月に80時間以上の時間外労働を行った、⑰2週間以上にわたって連続勤務を行った、⑱勤務形態に変化があった、
⑲仕事のペース、活動の変化があった、⑳退職を強要された、㉑配置転換があった、㉒転勤をした、
㉓複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった、
㉔非正規社員であるとの理由当により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた、㉕自分の昇格・昇進があった、
㉖部下が減った、㉗早期退職制度の対象となった、㉘非正規社員である自分の契約満了が迫った、
㉙(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた、㉚上司とのトラブルがあった、㉛同僚とのトラブルがあった、
㉜部下とのトラブルがあった、㉝理解していてくれた人の異動があった、㉞上司が替わった、
㉟同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された、㊱セクシュアルハラスメントを受けた

どうでしょう、あらためて読んでみると、日常的に、頻繁に起こる事象が、並んでいます。
現場では、あまりにも多く起きている事象ですので、殆どの人が気にも留めません。
しかし、これらの心理的負荷が積み重って、精神障害を発病したとして、労災が認定される可能性があるのです。
日頃の人事労務管理の重要性が、認識いただけたでしょうか。
企業経営における経営層・管理職層の役割が、益々重要となっています。



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「自分の能力、個性が活かせるから」

2012年07月02日 | 情報
日本生産性本部は、平成24年度新入社員を対象に実施した「働くことの意識」調査結果をとりまとめました。

日本生産性本部が発表した、主な調査結果は以下のとおりです。
●会社の選択基準は「自分の能力、個性が活かせるから」が最も多く(37.0%)、
約40年前の調査(昭和46年度)で1位だった「会社の将来性」は三年連続10%以下となった。(5頁参照)
●「この会社でずっと働きたいか」への回答は、「定年まで働きたい」が34.3%で過去最高の数値となった。
2000年(平成12年)前後は「状況次第でかわる」が大きく上回っていたが、
その後「定年まで」が増加する一方で、「状況次第でかわる」が減少という傾向にある。(4頁参照)
●就職状況で敏感に変化する項目では、「仕事中心」が「(私)生活中心」を上回る、
「人並み以上に働きたい」が「人並みで十分」を上回るなど、会社の都合を優先する、
あるいは会社に大きく貢献したいとする意識や意欲が高まっている。(2頁参照)
●「デートか残業か」では「残業」(85.6%)、「デート」(14.2%)と、
プライベートな生活よりも仕事を優先する傾向が伺える。男女別に見ると、「仕事」という回答は男性82.4%に対して、
女性89.8%と女性のほうが上回っている。(7頁参照)
●キャリア教育を受けた経験は全体の50.7%にあり、男性42.2%、女性61.8%と女性優位。
学歴別で見ると、「短大卒」の75.0%を筆頭に、「四年制大学卒」59.2%、「職業高校卒」49.5%、
「普通高校卒」41.8%となった。(9頁参照)
●「キャリア教育は役立ったか」はキャリア教育経験者の79.2%が「はい」と回答している。
性別では男性75.7%、女性82.2%、学歴別でもおおむね75%から90%弱という高い数値となっている。(9頁参照)

筆者は、『会社の選択基準は「自分の能力、個性が活かせるから」が最も多く(37.0%)』に注目しました。
これが、そもそもの「ボタンの掛け違い」でしょう。企業は、新入社員に個性を求めていません。
最初は、その「企業色」に染めることを追求しますし、染まることを期待するものです。
新入社員は、「なんだよ、これ」という印象を受け、若年性うつの発症や、早期退職につながるものと推測します。

参考までに、マスコミはどう報道しているか、を紹介します。

新入社員は安定志向?「定年まで勤務」過去最多 2012.6.28 17:18 産経
日本生産性本部などが今春の新入社員を対象にしたアンケートで「就職した会社で定年まで働きたい」との回答が、
同様の質問を始めた昭和46年以降最多だった昨年(33・5%)を上回り、34・3%に上ったことが28日、分かった。
また「人並み以上に働きたいか」との質問に対しても、全体の47・7%が「働きたい」と回答しており、
過去最高の水準だった。
同本部は「若い世代の広い範囲で職に対する不安感は根強く、新入社員の安定志向が進んでいる」と分析した。
「デートの約束があった時、残業を命じられたらどうするか」との質問には、85・6%が「仕事」を選択し、
「デート」を選んだのは14・2%だった。男女別では、仕事派が男性82・4%、女性89・8%だった。
アンケートは3~4月、生産性本部などの研修に参加した企業の新入社員約2千人を対象に実施した。
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