中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

原因は必ず特定してください

2014年08月26日 | 情報
うつ病をはじめとする精神疾患をり患し、4日以上休業するか、退職する労働者は、
全労働者の約0.4%であるとの推定統計値があります。
即ち、1000人の労働者が働いている事業所では、そのうちの4人が、
うつ病をはじめとする精神疾患をり患し、4日以上休業するか、退職しているということです。
この推計値は、かなり控えめとの声が多いですし、小生も感覚的にはそう思います。
因みに、産業別に見ると、IT業界は、2%、建築業界は0.2%との推定値も報告されています。

一方、労働者が業務上で疾病のり患したり、負傷したり、不幸にも死亡したりした場合は、
安衛法で、遅滞なく所轄の労働基準監督署長に報告しなければならないとされています。

(労働者死傷病報告) 安衛則第97条  
事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、
又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
2  前項の場合において、休業の日数が四日に満たないときは、事業者は、同項の規定にかかわらず、
一月から三月まで、四月から六月まで、七月から九月まで及び十月から十二月までの期間における当該事実について、
様式第二十四号による報告書をそれぞれの期間における最後の月の翌月末日までに、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。

企業(事業所)が、この報告を怠ると、いわゆる「労災隠し」ということになり、50万円以下の罰金が科せられます。
また、違反した担当者のみならず、会社の代表者、代理人も同じ罰金刑を科せられます。
さらに、「労災隠し」の多くは、新聞をはじめマスコミ報道されますので、当該企業のダメージは罰金程度では、終わらないということです。
具体的には、最近は、コンプライアンスを重視するのが普通ですから、取引先の企業から取引停止を通告される場合もあり、
そのダメージ、損失は、企業の屋台骨を揺るがす事態に発展する可能性もあるのです。

ところが、労働者が精神疾患をり患した場合はどうなるのかなのですが、企業側にとっては、
業務上で労働者が精神疾患をり患したのか、または、私傷病なのかは、「俄かには」には判断できません。
ですから、この場合には、「遅滞なく」所轄労働基準監督署長に報告できません。
企業は、労災だろうと認識していてもこの間隙を利用して(?)、殆どの事案について
所轄労働基準監督署長に報告しないで済む、私傷病扱いにしているのです。

さて、今日の本題なのですが、参考となる最近の判例としては、東芝うつ病事件(最高裁・2014.3.24判決)があります。
会社側は、私傷病扱いとして処理したのですが、労働者側が労災であるとして訴訟に持ち込み、
最高裁で原告勝訴という結果に至った事件です。この結果は大きな影響を労働界に与えています。

実務の話ですが、皆さま方には、労働者がうつ病をはじめとする精神疾患をり患し、4日以上休業するか、退職した場合、
当然に「私傷病扱い」で処理することと推測します。
このことが会社側の意思決定であるのであれば、それ以上に追求しませんが、
「私傷病扱い」するにしても、労働者がうつ病をはじめとする精神疾患をり患した場合には、
その原因は、どこにあるのか、労災に該当するのか、私傷病なのか、それとも労働者本人の固体要因なのか、
そう遠くはない事態に備えて、見極めておく必要があります。

見極める判断基準は、
心理的負荷による精神障害の認定基準について(基発1226第1号 平成23年12月26日)厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-15.pdf
を参照してください。

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