中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

事例検討・解答例

2014年08月07日 | 情報
事例:長く治療を続けていますが、思うように出社できない社員がいます

衛生推進者からの相談
私は、中小規模事業場の人事部で衛生推進者(メンタルヘルス推進担当者)をしています。
総務課のUさん(男性:30歳代後半)は、ここ8年ほど抑うつ状態が続いており、睡眠がうまくとれないこともあるようです。
一度休職し、復職したのですが、なかなか通常勤務ができない状況です。
抑うつ状態になる前までは、バリバリと仕事をこなしていたので、会社としてもUさんを支えていきたいと考えております。
メンタルヘルスクリニックに通院していますが、最近の話を聞くと、主治医の先生から「物事の考え方、捉え方に問題がある」
「カウンセリングでもいいのでは?」などといわれ、少し突き放された印象があるようです。
Uさんは「薬の処方のみ」と割り切って通院していますが、本当の原因が何なのか
(病気なのか、障害なのか、それとも単なる怠けなのか)思い悩んでいます。
今後、Uさんを支えていくために、会社としてどのような対応をとるべきでしょうか?

小生の見解

会社は「Uさんを支えていくために、会社としてどのような対応をとるべきでしょうか?」と質問しています。
これを、スタートにして対応方法を検討することが、正しい進め方です。

衛生推進者(メンタルヘルス推進担当者)は、『(病気なのか、障害なのか、それとも単なる怠けなのか)思い悩んでいます。』
という状況ですから、人事労務担当や健康管理スタッフとともに、従来よりUさんの勤務状況や健康回復状況を注視していたでしょう。

そこで、衛生推進者(メンタルヘルス推進担当者)は、上司(管理職)にUさんとの面談を要請します。
「一度休職し、復職したのですが、なかなか通常勤務ができない状況です。」とあるくらいですから、
上司(管理職)も問題意識を持っているはずです。上司は、別室でUさんと面談します。
そこで、上司としての観察経過、Uさんの業務・業績、Uさんの今後の育成方向をUさんに説明し、Uさんの考えや悩みを聞き取ります。
Uさんが、このまま継続して正規の就労形態に戻るようにしますと回答すれば、しばらく様子を見ることもあるでしょう。
上司は、これまでの経過や面談結果を、人事労務担当や健康管理スタッフへ伝えます。

なお、上司は、復職時における、人事労務担当や健康管理スタッフからの要請を受けて、
OJTでいろいろと指導しながら、Uさんの勤務状況が好転するように気配りをしてきたのでしょう。
これが、できない上司であれば管理職失格ですが、
1%の可能性として、当該管理職に「なかなか通常勤務ができない状況」の原因があるかもしれません。
人事労務担当は、万が一を想定し、当該管理職と面談の上、今までの管理・監督状況を振り返り、
今後のUさんに対する指導要領やキャリア形成のステップを再検討する必要があります。

次に、衛生推進者(メンタルヘルス推進担当者)は、当該管理職の報告を受けて、今後の進め方を検討しなければなりません。
当該事業所は、「衛生推進者」の配置ですから、産業医の委嘱を必要としない「50人未満の事業所」を想定しているのでしょう。
従って、衛生推進者(メンタルヘルス推進担当者)は、Uさんの了承を取り付けて、最寄りの地域産業保健センターの医師に相談しましょう。
因みに、「地域産業保健センター」は、地域の医師会単位に設置されている、(独)労働者健康福祉機構の地方組織です。

地域産保の医師のアドバイスを推定します。
なお、人事労務担当と健康管理スタッフとで相談した結果もほぼ同じようになるでしょうが、
第三者のアドバイスを受けておけば、会社の対応の裏付けができ、信頼度が高まります。

1.会社側に、当該主治医への面談を勧められるでしょう。
主治医は、原則当該従業員(主治医にとっては、患者)の言うことのみを信じて、診断・診療するものです。
ですから、会社は、当該従業員の了承を取り付けたうえで、
会社としての当該従業員の就労状況、面談結果、当該従業員の会社への報告内容等を、主治医に紹介し、
今後の診断・診療に役立ててほしいと伝えるとともに、会社としての対応について、医師側からの要請を聞き取ります。
なお、主治医の面談には、事前の面談予約、患者である従業員の了承書類、主治医への謝礼の用意等が必要です。

2.他の精神科医にセカンドオピニオンを求めるよう、アドバイスされかもしれません。
セカンドオピニオンを求める場合は、事前に主治医の了承が必要です。
ですから、このアドバイスを受けた場合は、「地域産保の医師のアドバイスに従い、
セカンドオピニオンを求めたい」と主治医に伝え、主治医の了承を取り付けることになります。
ただし、この場合、主治医によっては、心証を悪くする場合があることを承知しておいてください。

3.ほとんど可能性がありませんが、1%くらいの確率で、主治医の変更をアドバイスされるかもしれません。
なにしろ、『主治医の先生から「物事の考え方、捉え方に問題がある」
「カウンセリングでもいいのでは?」などといわれ、少し突き放された印象があるようです。』という状況なのですから。
しかし、地域産保の医師は、同業者として、このようなアドバイスをまずしないものと考えてください。

従って、つぎのステップは、会社側が面談時間を予約の上、主治医と面談することになります。
そこで、主治医が会社の報告・相談を受けて、診療方針の再検討を約束し、
場合によっては、「要再休職」の診断書を提出する可能性にも言及するようであれば、
会社側としては、当面の間、主治医の治療方針に委ねることがベターな選択でしょう。
しかし、『「物事の考え方、捉え方に問題がある」「カウンセリングでもいいのでは?」などといわれ、少し突き放された』
様子が、再度、面談の席で窺えるようでしたら、主治医の変更も検討する必要があるでしょう。
このままでは、当該従業員の病状の改善と、正常な就労を期待できないからです。

なお、主治医は、通常、『「物事の考え方、捉え方に問題がある」「カウンセリングでもいいのでは?」などといわれ、
少し突き放された』というような言動はしないものです。
当該従業員が、事実をかなり「捻じ曲げて」会社に報告しているようにも窺えます。
あえて、危険を冒して主治医の見解を推測すると、「薬での治療と並行して、認知の歪みを治すカウンセリングも必要」と
言っているのではないでしょうか。

主治医との面談結果を持ち返り、人事労務担当と健康管理スタッフは、事業所責任者(社長)と今後の対応方法を検討します。
主治医の診療方針の変更により、病状が改善するのであれば、それに越したことはありません。
しかし、このまま、就労を続けても、当該従業員にとって中途半端な状況が続きますし、
担当管理職や、人事労務担当と健康管理スタッフの負担増も無視できません。
主治医の診断結果にもよりますが、Uさんの病気が再燃しているのであれば、主治医は「再休職」の必要を認めるでしょう。

「50人未満の事業所」であるならば、残念ですが、Uさんを支援する人員、時間を確保することは望めないでしょう。
「今後、Uさんを支えていくために、会社としてどのような対応をとるべきでしょうか」という設問であるならば、
実務的、現実的な対応方法は、「再休職」という判断が妥当ではないでしょうか。
『それとも単なる怠けなのか』であっても、です。
穿った見方をすれば、「再休職」を命じられたUさんは、残りの休職期間を計算しているでしょうから、
「このまま退職してもよい」と考えているのなら別問題ですが、多分そのころには「怠け癖」は治っていることでしょう。
そして、休職前のパフォーマンスを発揮できるような体力・精神力を回復して、職場復帰してもらうことが、
当該従業員、会社双方にとって、ハッピーな結果となるでしょう。

なお、、再休職再休職したことにより、就業規則で規程されている休職期間が満了になることも考えられます。
しかし、「Uさんを支えていくために」とあるように、会社にとってUさんが余人に代えがたい人材であるならば、
休職期間の特別延長も社長決裁で可能になるのですから。
単純に就業規則に書いてあるからといって、貴重な人材を失うのは会社にとって計り知れない損失になります。
最後に、これまでの経過や検討結果は、すべて5W1Hで記録を残すことが必須作業です。

それと余談ですが、「リワーク」は、休職中に実施するもので、復職してから実施するものではありません。
なぜか?理由は皆さんで考えてください。ヒントです、「復職」とは何か?を考えれば自ずと回答が得られます。



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする