中小企業の「うつ病」対策ー人、資金、時間、情報に余裕がない

企業の労働安全衛生、特にメンタルヘルス問題に取り組んでいます。
拙著「中小企業のうつ病対策」をお読みください。

週刊誌の記事より

2013年01月17日 | 情報
業務多忙につき、ストックしていた記事を紹介します。
以下は、一つの情報として読んでください。

なぜか「患者」は大企業のサラリーマンと公務員ばかり「新型うつ」これが真相です

会社に行くとうつになり、休暇中は元気いっぱいで海外旅行に合コン・・・・・・「新型うつ」の若者が急増するのはなぜなのか。
その背景には、各メディアで報じられていない、意外な真実があった。
化粧とネイルが完璧な患者

 あなたは、若者のこんな主張を理解できるだろうか。
「病院の先生に、うつの療養中に気をつけることを聞いたら『仕事から離れて環境を変えて、
自分の好きなことをしながらゆっくり休むのがいい』と言われたんです。僕はサーフィンが好きだから、グアムへサーフィンをしに行った。
滞在中、食欲も出てきて、よく眠れるようになったので、もう大丈夫かな、と思って1ヵ月後に会社に復帰したんです。
そうしたら上司に『なんでお前、休職していたのに日焼けしてるんだ』と問い詰められた。
病気を治そうと思って、医者に言われたことをしただけなのに・・・・・・」
 大手食品メーカーに勤める入社3年目、20代後半の男性Aの証言である。
「会社に行くと気分が落ち込んで、食欲もなくなる」と訴えて病院を受診。「うつ病」と診断を受けて、会社を休職したという。
---いま、日本中にはびこっているという〝新型うつ〟の典型的な事例である。
NHKスペシャルで特集され、雑誌など数々のメディアが取り上げて、改めて注目が集まっている。
 仕事となると体調が悪くなるが、遊びなら何の支障もないというのが特徴で、
従来のうつ病と異なる症状を示すため「新型」と呼ばれている。
が、そもそもこれを病気として認めるかどうかは、専門家の間でも意見が分かれるところだ。
「医療情報サイト『m3.com』で、1091人の医師に『新型うつを病気として対処するか』というアンケートを取ったところ、
『病気として治療をすべき/単純に病気として対処できない/どちらとも言えない』という意見が3:4:3に分かれました。
そもそも、『新型うつ』という正式な病名はなく、医療側が引き受けて解決する問題なのか、
いまだコンセンサスが取れていないのです」(りんかい築地クリニック院長・吉田健一医師)
 冒頭の若者Aの話を読み、「海外へ行ける元気があるなら病気のはずはない」と憤る方が多いかもしれない。
 しかし、新型うつは病気か否か、ということばかりを議論したところで、問題の解決にはつながらないだろう。
本記事では、そうではなく、新型うつの真相、知られていない問題点を明らかにしていきたい。
 まず、精神科医で筑波大学医学医療系助教の吉野聡医師が経験した事例を紹介しよう。
患者は、他院でうつと診断されて、会社を休職中にセカンドオピニオンとして受診した患者B、20代後半の男性だった。
「彼も、休職中に海外へ旅行したと話したので、私が『海外へ行ける体力が出てきたなら、
そろそろ職場に戻ってがんばってみたらどう?』と言ったんです。
その途端、目の色を変えて『先生、いまうつ病の私に〝がんばれ〟って言いましたね!?
精神科医なのに、患者にそんな言葉をかけるんですか!』とすごい責め方をされました。
しまいには、『うちの職場がどんなにつらいかわかってないからそんなことを言うんだ!
先生は椅子に座って人の話を聞いてるだけで給料をもらっているんでしょう』と言われ、返す言葉がありませんでした」
 このように、患者が医師の言葉尻をあげつらうのは珍しいことではない。
新型うつの主な特徴として、吉野医師は、(1)自らうつであることを主張する、(2)他者非難、他責傾向が強い、
(3)職場復帰を極力後回しにする、といった傾向を指摘するが、患者Bは、まさにこの3つに当てはまる。
 新型うつが増加してきた背景には、以前は「人に知られたくない病気」だったうつへの偏見が薄れ、
うつであることをカミングアウトしやすい風潮になってきたことも関係しているだろう。
「うつは心の風邪」「うつの患者に『がんばれ』と声をかけてはいけない」といった〝常識〟も広く浸透した。
 これにより、やたらとうつに詳しく、診断書目当ての「患者」も増えている。
「20代前半のCさんという女性でした。初診で、『夜眠れなくて、ご飯が食べられなくて、
夜ひとりでいると涙が出てきて・・・・・・』と流暢に症状を語るんです。
彼女の爪には派手なネイルアートがほどこされ、メイクもばっちり。従来型のうつ病だったら化粧する余裕なんてありません。
しっかりとした口調で、教科書的なうつの症状を訴える姿から、診断基準を調べて暗記してきたのだろう、と思いました」(前出・吉田医師)

休職中も給料満額
 患者が症状を訴えるのであれば、医師は信用するしかない。それが精神疾患の診断の難しさでもあるのだが、
つまり、医師としてはうつ病の診断基準を満たす条件が揃っていれば、うつ病と診断せざるを得ないということだ。
「うつは、真面目で几帳面で仕事熱心な人がなる病気、とアピールしすぎたことが、
世間の誤解を招いているところもあると私は考えています。うつだという診断書が手に入れば、
会社に対して『自分はがんばりすぎたからうつになった』と大手を振って休めるようになるわけですから」(前出・吉野医師)
 取材を進めると、こんな事実が明らかになってきた。「新型うつの患者は大企業と公務員に多い」と、
専門医たちが口をそろえるのだ。それはなぜか。都内で産業医を務める精神科医が、公務員の実情を明かす。
「大きな会社や公務員、つまり療養の制度が整っている職場ほど、新型うつが多いのです。
たとえば、休職しても数ヵ月は100%の給料が出る。その後も数年間に及び、給与の8割程度が何らかの形で支給される。
また、復職して一定期間が経過すると休職実績が一度クリアされて、また長期間休むことができる場合も多く、
ほとんど働かずに給料がもらえる実態もあるのです」

厳しくすると治る
 公務員だけでなく、民間企業でも、就業規則によって同様の厚遇を受けられる会社もある。
是非はともかくとしても、中小企業なら長期休職したらクビを切られるというところも少なくない。
そういう会社では、事実、「新型うつ」になる社員はあまりいない。
 九州に住む地方公務員の男性は、こんな同僚の話をしてくれた。
「公立中学の事務員をしているのですが、40代前半のDさんは、うつの診断書を持ってきては半年ほど休職し、
復職したと思ったら2ヵ月後にまた休職、ということを繰り返しているんです。
職場に来ると、私たち同僚に『楽しておカネを稼ぐ方法を教えてあげる』と、
うつ病の診断書をもらいやすい病院情報などを嬉しそうに話すんです」
 楽して、もらえるものはもらっておけ—この構造、なにかに似てはいないだろうか。生活保護の不正受給、だ。
「一部には『給料をもらいながら休めるだけ休もう』などという考えの患者もいて、
周囲からの反感を買いやすいため、本来のうつ患者にも偏見が生じてしまう。
これは、生活保護の不正受給問題と同じ構造になってしまっています。
ただ『患者』を責めるだけでは解決しない。自社の休職規定なども再検討すべきだと思います」(吉田医師)
 上司がうつの発生に一役買っているケースも多いという。
「職場では、頻回に欠勤する職員を出してしまうと、上司の管理責任が問われる場合があります。
ですからそれを避けるために、上司も部下の休みが増えてくると、どこも悪くないのに『君は欠勤が多いからうつ病かもしれない。
病院で診断書をもらってこい』と指示するような事例もあるのです」(吉野医師)
 いうまでもなく、公務員の給料は国民の血税から支払われている。公務員がこのような実態では、到底納得できない。
 一般企業にとっても、新型うつ患者の増加は、経営を圧迫する要因になる。
吉田医師のクリニックでは、社員1人が病気で休職した場合、会社にどれくらいの金銭的負担がかかるのかを試算している。
 たとえば、年収500万円の社員が12ヵ月間休職したとする。試算期間は休職前と復職後(リハビリ期間)の各3ヵ月を併せて計18ヵ月間。
もし普通に働くと、給与と福利費で約872万円かかる。これに対して、休職した場合は、
傷病手当金や福利費、同僚の残業代、代替社員に必要なコストなどで、1512万円かかる。
結局、173%も会社の負担がアップしてしまうのだ。
 民間企業では、休職が長引く社員による負担を減らすために、就業規則を見直す会社が増えている。
また、そもそも新型うつを増やさないための対策を講じている企業も多いという。
「ニチレイは新入社員の指導員を決めて、きちんと教育するメンター制度を導入し、休職・退職する社員を減らすことに成功しています。
野村證券などもそう。病気になる前の対策も大切です」(東京女学館大学国際教養学部教授・西山昭彦氏)
 社会保険労務士の資格を持つ島林法律事務所の神内伸浩弁護士は、最近、労務管理についてアドバイスをした会社で、
こんな社員の話を耳にして驚いたという。
「あるIT企業に勤める入社3年目の20代の女性ですが、彼女も典型的な新型うつで、無断欠勤が1ヵ月も続くなど、
ひどい状態だったので、産業医の意見も踏まえて退職勧奨するよう進言しました。
 そもそも企業と社員との労働契約というのは、労働者が労働力を提供し、
使用者がその対価として賃金を支払うという契約なので、就業規則できちんと記しておけば、退職させることも可能なのです。
 けれども、退職勧奨をしたら、彼女が『どうしても辞めたくない。なんとかがんばります』と言い出したのだそうです。
念を押しても『大丈夫』というから、働かせてみたら、毎朝定時に出社するし、何の問題もなくなった。
逆に会社の人事の方から『辞めさせるつもりで厳しく言ったら治っちゃって。
どうしたらいいですか』と相談を受けて、困ってしまいました」

魔法のような診断書
 追い詰められると普通に働くことができる---病気というにはあまりにも不自然だ。
このように、生活保護の不正受給問題と同様、「権利ばかりを主張し、楽して利を取る」という人々が増殖している時代背景こそが、
新型うつの問題ではないだろうか。
「極端なケースですが、会社をサボりたいがために、うつを偽る人もいると思います。
軽い症状が出る新型うつの人も実際いますが、症状を偽る人は、〝偽装新型うつ〟と言ってもいいかもしれません」
(『「新型うつ病」のデタラメ』の著者でなかまクリニック院長の中嶋聡医師)
 うつ病への理解が広まったことは非難すべきことではないが、ビジネスライターの吉田典史氏は、
「新型うつが注目されすぎ、症状を偽る人まで出てくると、従来型のうつ患者も十把一絡げにされてしまって
〝うつは単なる甘えだ〟と否定されかねず、気の毒でなりません」と懸念する。
 新型うつが増えている原因は他にもある。
一つは、うつ病の診断方法(アメリカの精神医学会が作成した「DSM」というマニュアル)が一般化したことで、
誰でも容易にうつ診断が可能になったことと、SSRIという副作用の少ない抗うつ薬が開発され、処方されやすくなったこと。
さらに、診療報酬の問題もある。前出の吉野医師が、その構造を解説する。
「精神科の場合、今の診療報酬体系では患者さんにゆっくり話を聞いても割に合わないんです。
たとえば、患者の話を5分以上聞くと診療報酬330点、つまり3300円の収入になる。
ところが、30分以上話しても、点数は400点とそれほど変わらない。
そうすると、病院が一番儲かるのは、患者の話を5分聞いて回転数を上げることになってしまう。
これでは正確に症状を把握することはできないと思いますが。
また、うつ病の診断書の料金は病院ごとに自由な設定ができます。多くの病院は3150円程度ですが、5250円でもそれ以上にも設定できる。
そうすると、5分診療で、たくさん診断書を書く医療機関が儲かることになってしまう。
余計なことを聞かれず、簡単に診断書を書いてもらえるので、そうした場所に患者が集まりやすい、という歪んだ構図も生まれています」
 近年、こうした新型うつが急増していることについて、従来型うつの経験者はどのように見ているのか。
15年前にうつを患った作家の荻野アンナ氏は、自身の経験を振り返ってこう話す。
「私が、親の介護からうつになったときは、眠りが浅くなって体が動かず、目覚めてから立ち上がるのに3時間程かかったこともありました。まだうつの情報は少なく、病気に気づかなくて『自分は怠け者だ』と責めてしまっていたのですが、
『薬で調整できる』『医者に行けばいいんだ』ということがわかったときは、それだけで涙が出るくらい嬉しかった。
新型うつの患者さんを知らないので、よくわからないですが、若いうちから『ストレスがあったら会社を休めばいい』なんてことに
慣れてしまうと、その先、大変ですよね。まぁ、いろんな意味で、皮肉も込めて、いまはいい世の中なんでしょうけれど」
 つらいことに直面したら逃げる、自分の利益を最優先する---易きに流れる人々が蔓延してることこそが新型うつの最大の原因であり、
問題ではないか。
「週刊現代」2012年6月30日号より

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