熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ヌリエル・ルービニ:脱グローバル化は巨大な脅威

2024年01月21日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   ルービニ教授は「メガスレット」の「脱グローバル化」の章で、何故、保護貿易政策が巨大な脅威なのかを論じていて興味深い。
   メデイアで、貿易やグローバル化に関する報道がなされると、読者を憤慨させ、自由貿易のメリットを強調しようものなら、抗議が殺到する。工場は閉鎖された、仕事はなくなった、ラストベルトはすっかり寂れて陰鬱な雰囲気、人件費の安い中国やアジアへ製造拠点が移ってしまったからだ、と言うのである。  
   トランプを大統領の座に押し上げたのは、この経済的ナショナリズムのうねりであった。

   しかし、ルービニ教授の論理は正反対。保護主義は魅力的に見えるかも知れないが、過去の例では、ほぼすべての人が経済の梯子段から転落する結果に終っており、脱グローバル化をメガスレットと呼ぶのはこのためだという。
   脱グローバル化によって、20世紀型製造業の雇用を守ろうとすれば、サービス、テクノロジ、データ、情報、資本、投資と言ったもっと大きな市場の取引、更には労働市場全般が低調になると言う形でしっぺ返しを食らうことになるであろう。脱グローバル化は経済成長を妨げ、巨額の債務への対処を困難にし、インフレひいてはスタグフレーションを導くことになりかねない。と言うのである。

   また、保護主義を唱えた国はすべて、悲惨な結果に苦しむことになった。アメリカもそうで、トーマス・ジェファーソンは、高関税は政府を潤し、国内製造業の振興に寄与すると考えたが、その結果はおぞましい不況になり、巣立ったばかりのアメリカ経済を破壊させるところであった。
   ハーバート・フーバーは、1929年の大恐慌時に、農業保護のために輸入農産物に高関税を掛けるスムート=ホーリー法で対抗して、他の産業も動揺の関税を求めるなど大騒ぎをして、経済を壊滅的な状態に追い込んだ。結局、ルーズベルトは、ケインズ政策の逆療法で、経済を救った。

   脱グローバル化は、世界の生活水準を満足なレベルまで引き上げる可能性を閉ざし、貿易を制限すれば世界の生産は縮小し、グローバル化の煽りで失業した労働者の就職先も減ることになる。つまり、グローバル経済のパイが小さくなるのである。また、脱グローバル化は、無数のエンドユーザーと世界各地に散らばっていた生産拠点が蜘蛛の巣のように複雑で精緻なネットワークを形成していたグローバル・サプライチェーンを破壊し台無しにする。
   脱グローバル化は、財の貿易のみならず、サービス、労働、データ、技術、情報の取引にも及ぶ。デジタル情報をはじめテクノロジーの貿易を制限すると、結局はすべての貿易を制限することになる。

   興味深いのは、現在は、「グロボティックス(グローバル化+ロボット化)革命の時代だという指摘である。
   技術の進歩のお陰で、多くのサービスが今や貿易の対象になり、人件費の安い国に住み通信技術を利用して先進国のサービスを引き受ける人材、すなわち、「テレミグラント」の活躍である。
   アメリカの労働者は自分の仕事が人件費の安い国に奪われたと憤っているが、今や、会計士や弁護士、コンピュータプログラマー、医師たち高級サービス業務従事者なども、同じ立場に置かれていると言うことである。

   貿易とグローバル化に対する激しい反発は、今日のハイテク世界にとって巨大な脅威であり、たとえ良き意図から出たものであっても、脱グローバル化は間違った闘いである。
   正しい解決は、グローバル化を推進してきた要因を絶ちきるのではなく、取り残された人々を本気で支える政策を導入し、貿易とマシンと人間の平和共存を図ることである。と言う。
   
   現状は、米中対立を考えても、脱グロ-バル化ではなく、まだ、グローバル化の減速すなわちスローバル化の段階にあり、デカップリングよりはましである。
   しかし、スローバル化によって、競争は縮小し生産性は鈍化するため、スタグフレーションの可能性は高まる。だが、大恐慌のような悲劇的な結末は回避できる。と言うのが、ルービニ教授の結論である。

   ルービニ教授は、アメリカが一番危惧してる国家安全保障の問題には一切触れずに、経済的側面からのみ貿易論を展開しているが、脱グローバル化の展開も、地政学面での国際危機など、政治的な側面の方が重要性を増していることを考えれば、もう少し、論理展開が変るかも知れない。
   尤も、いくら脱グローバル化で国境を閉鎖しても、日進月歩のデジタル革命の時代で、重要なハイテク情報や軍事情報などの情報漏洩は日常茶飯事、
   それに、反対派は必死になってキャッチアップを試みて、相手の対抗意欲を喚起して力づけるので、イタチごっことなる。

   文化文明が進化したのかどうか、
   地球温暖化で宇宙船地球号が悲鳴を上げて泣き続けており、依って立つ地面が崩れかかっているのに、
   ウクライナ戦争やガザ・イスラエル戦争などAI時代には信じられないような愚かな蛮行が、人類を窮地に追い込んでいる。
   
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