熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

W・チャン・キム 他著「ブルー・オーシャン・シフト」

2024年06月21日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   W・チャン・キム & レネ・モボルニュ 著の「ブルー・オーシャン戦略――競争のない世界を創造する」の続編である。長い間積読であったのを、パソコン故障で手持無沙汰となって、書棚から引き出した。
   このブルーオーシャンの本は、クリステンセンの「イノベーターのジレンマ」に関する一連の本とともに、イノベーション論で最も感化を受けた本である。
   さて、この本は、更に進めて、あらゆる組織が、レッド・オーシャンからブルー・オーシャンへシフトして、どのようにして新たな成長をつかみ取るか、その戦略と方法を説いていて興味深い。

   レッド・オーシャンは、大多数の企業が競争する既存の企業界を指し、ブルー・オーシャンは、無競争で全く新たに創造される業界すべてを指し、利益や成長は次第にここから生まれるようになる。血みどろの既存市場での競争に明け暮れて呻吟するレッド・オーシャン企業の競争の理論に対して、競争を無意味にする市場創造の理論である「ブルー・オーシャン戦略」を解き明かす。

   さて、今回面白いと思ったのは、「攪乱的イノベーション」という概念である。
   クリステンセンは、イノベーションを「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」に分けて、後者の革命的イノベーションについて詳細に論じて一世を風靡した。
   ところが、キムたちは、このクリステンセンの「破壊的イノベーション  disruptive  innovation 」を破壊的ではなく、「攪乱的イノベーション」と訳して、disruptive(混乱を起こさせる、妨害する)とdestructive(破壊的)とに明確に使い分けている。このように使い分けると、クリステンセンの破壊的イノベーションは「攪乱的イノベーション」であって、低位のテクノロジーから支配的イノベーションへと進化してリーダー企業を凌駕してゆく、イノベーターのジレンマの過程が良く分かる。

   ところで、シュンペーターの説いたのは、「創造的破壊 creative destruction 」である。
   経済成長の真のエンジンは、新市場の創造であり、この創造は破壊によってもたらされる。破壊が起きるのは、イノベーションが従来の技術や既存の製品・サービスに代替することによってであり、代替なしには破壊は起きない。
   創造的破壊が、優れた技術、製品、サービスが登場して、従来のものに取って代わることによって起こるのだが、現実には多大の影響力を持つクリステンセンの説く前述の「攪乱的イノベーション」が重要である。
   最初は劣った技術なのでトロイの木馬として登場して、やがて、優れた技術や製品に進化して、市場リーダーを駆逐する。市場を揺るがせるような技術ではなかったので新参者を無視して看過したリーダー企業が気付いた時には既に手遅れとなって駆逐されてしまう。

   尤も、非攪乱的創造も生まれている。
   セサミストリートやマイクロフィナンスのグラミン銀行などその例で、それに、ICT分野でも多数生まれている。
   イノベーションは、多岐にわたっているのである。

   注目すべきは、技術イノベーターは、卵を産むかもしれないが、自分たちで孵化させるわけではない。その卵を孵化させて商業的な成功へ導くのは、他の企業家であって、例えば、
   世界最初のPCを発明したのはMITSだったが、新しいPCのマスマーケットを支配したのは、アップルとIBMであった。
   ダーウィンの海や死の谷を越えて、イノベーションを企業化するのは大変なのである。
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