熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

ウォルター・アイザックソン著「イーロン・マスク」マスクとゲイツ

2024年04月24日 | 書評(ブックレビュー)・読書
   この本の第71章に、ビル・ゲイツ(2022)と言う章があって、ビル・ゲイツが、「一度ゆっくり、慈善活動と気候について話がしたいのですが」とマスクに持ちかけて、マスクのギガファクトリーで2022年3月9日に実現した会談の興味深い話が掲載されている。
   勿論、以前にも二人は会っており、ゲイツがスペースXを見ている。
   マスクとゲイツは似たところがわりとある。分析力に優れ、レーザーのように鋭く何かに集中する。一歩間違えば尊大とも取られかねないほどみずからの知性を信じている。ばか者はがまんならない。こんなふたりであるからぶつからない方がおかしいので、二人は工場に入ると、ぎんぎんにぶつかり合ったという。

   まず、ゲイツが、バッテリーで巨大なトレーラ-トラックを動かせる日は来ない。気候問題を解決するには太陽エネルギーは大きく力不足だと言い出した。
   先にゲイツは、著書「地球の未来のため僕が決断したこと」で、同じ重さで比べると、今手に入る最高性能のリチウムイオン電池に詰め込めるエネルギーは、ガソリンの35分の1だと言うことで、ガソリンと同じ量のエネルギーを得るには、ガソリンの35倍の重さのバッテリーが必要になる。バフェットが飛行機の電化論を提言したので、この話をしたら、ダメだと納得したと語っている。電池バッテリーの威力など信じていないのである。 
   この本で、テスラが生きるか死ぬかの苦境に立ったときに、テスラ株が空売りを浴びせられて、マスクが辛酸を嘗めた事件を克明に描写しているのだが、この時、ゲイツはこんな考えであるから、テスラの株価が下がることに賭けて空売りを仕掛けていた。何故空売りをしたのか、ゲイツは、電気自動車は供給が需要を上回り、価格が下落すると判断したからと答えており、何度も聞かれて、分かりきったこと、空売りすれば儲かると思ったからだと言っている。
   この件は、ゲイツは予想が外れて巨額の含み損を抱えたが、マスクの最も嫌ったのは空売り筋であったから、この話を聞いて、マスクははらわたが煮えくりかえった。ゲイツが謝罪したがマスクの気は収まらない。
   マスクは、電気自動車に向けて世界を動かすと言うミッションを信奉して、安全な投資と思えなくても、有り金すべてをつぎ込んできた。「どうして、気候変動と真剣に戦っていると言いつつ、一番奮闘している会社の足を引っ張るようなことが出来るのか。そんなの偽善に過ぎない。どうして、持続可能エネルギーの会社をこかして金を儲けようとするのか。」と憤懣やるかたない。

   慈善活動に邁進するために、財団の経営者に転進したゲイツにとっては、資金運用が第一であって、それに、電気自動車をそれほど評価していなかったのではなかろうか。
   慈善活動については、マスクは、昔から興味がなく、ほとんどは「たわごと」だと考えていた。自分が人類に貢献するには、お金を会社につぎ込み、エネルギーの持続可能性や宇宙開発、人工知能の安全性などを推し進めることが一番だと考えているからである。
   その後、ゲイツから、慈善活動のアイデアがいくつも記された文書が届き、慈善活動について話をしたいのだがと言ってきたので、まだ、テスラ株の空売りをしているのかと確認すると、まだ手じまいをしていないとのことであったので、「気候変動の解決に一番尽力している会社テスラに大規模な空売りを仕掛けている人が進めている気候問題の慈善活動など、真剣に考えることは出来ません」と突っぱねている。

   面白いのは、火星に対する二人の姿勢。
   ゲイツにとっては、火星などどうでも良い存在なのだが、マスクは火星に熱中しすぎで、地球で核戦争が起きるかも知れなくて、その時火星に人が住んでいて人がいれば、その人たちが戻ってきて、我々が殺し合って皆がいなくなった後、彼らが生きてくれるとかくれないとか、なんとも突拍子もない話だと言う。
   マスクにとっては虎の子のプロジェクトスペースXの火星へ行くと言う最大のミッションは、ゲイツにとっては、異次元の世界であったのであろうか。

   しかし、いずれにしろ、ゲイツは、工場は凄いし、マシンやプロセスの細かいところまで詳しく知っているマスクも凄い。スターリング衛星を沢山打ち上げ、宇宙からインターネット接続を提供するスペースXも凄い。20年前にテレデシックでやろうとしたことが実現されたわけだから。と述べている。
   そして、ワシントンDCの晩餐会で、マスクの批判があっちこっちで出たときに、「イーロンの言論についてあれこれ思うのは勝手ですが、科学とイノベーションの限界を彼ほど広げている人物は、この時代に、他にいませんよ」と指摘したという。
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