熟年の文化徒然雑記帳

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PS:ジョセフ・スティグリッツ「バイデン政権の最近の独禁法での勝利は我々全員を助ける」

2024年01月22日 | 政治・経済・社会時事評論
   PSのスティグリッツ教授の「バイデン政権の最近の独禁法での勝利は我々全員を助ける The Biden Administration’s Recent Antitrust Wins Help Us All」

   米国における企業の市場支配力の着実な増大は、生産性の伸びを阻害し、不平等をもたらし、一般の米国人の生活水準を低下させてきた。 幸いなことに、米国の独占禁止当局は、ついにこの問題を真剣に受け止め、国民に代わって重要な勝利を記録しつつある。
   すなわち、アメリカ経済をスキューして害を成してきた企業の市場支配力を抑制するために、バイデン政権が独禁法政策を強化したと言うのである。

   本来、市場が機能するのは競争である。 しかし、競争は利益を減少させる傾向があるので、 通常の資本利益率を超える利益を得ることが目的である典型的なビジネスパーソンはそれを嫌い、企業は競争を避ける。 「同業者が、たとえ陽気な目的や気晴らしのためであっても、一堂に会することはめったにない。しかし、その会話は結局、大衆に対する陰謀か、あるいは価格つり上げのための何らかの策略で終わる。」とアダム・スミスが 250 年前に述べている。
   少なくとも 130 年間、米国政府は市場での競争を確保しようと絶え間ない戦いを続けてきた。しかし、企業の弁護士は、新しい方法を考案するなどして、企業は常に競争を回避する新手法を編み出してきたので、 政府は、技術の急速な進歩はおろか、これらの慣行のいずれにも追いついてこれなかった。

   現在、米国の市場支配力が増大しているという圧倒的な証拠が存在する。 これは、企業利益の拡大(リスク調整後のリターンをはるかに上回る)、各セクターへの市場集中の増加、新規参入者の減少である。 アメリカ人は、世界中で最もダイナミックな経済を持っており、現在新たな革新的な時代の先端にあると考えたがるが、しかし、データはそのような主張を否定している。
   イノベーションの標準的な尺度である全要素生産性を考えてみよう。これは、労働や資本などの投入量の増加によって説明できる以上の生産量の増加を指す。 新型コロナウイルス感染症のパンデミック前の 15 年間、米国経済全体の TFP の伸びは、それまでの 15 年間の 3 分1に過ぎない。 イノベーション時代の到来はこれで終わりであり、さらに悪いことに、自著『人材、権力、利益』で主張したように、市場支配力の増大も不平等拡大の一因となっている。

   しかし、幸いなことに、悲惨なニュースが絶えないこの時代に、この面では前向きな発展が見られた。 バイデン米大統領政権による競争の維持・強化に向けた取り組みが実を結んでいる。 たとえば、連邦反トラスト当局からの圧力により、Adobe と Figma (「インターフェース設計のための共同 Web アプリケーション」) との 200 億ドルの合併は中止された。 さらに、バイオテクノロジー企業イルミナは、米国連邦取引委員会が、両社の提携が「価格上昇と選択肢の減少を伴いながら、多がん早期発見(MCED)検査の米国市場におけるイノベーションを減少させるだろう」と主張したことを受けて、GRAILからの撤退に同意した。
   さらに重要なことは、FTC と司法省が、米国の独占禁止法の伝統にしっかりと根付いた重要な新しい境界線を画定する最新の合併ガイドラインを発行したことである。 例えば、ガイドラインでは、「競争を実質的に低下させる可能性がある」合併・買収を禁止することで、反競争的な状況の芽を摘むことを目的とした1914年のクレイトン法を挙げている。 絶対的な確実性を持って予測できるものは何もないため、「かもしれない」という言葉は非常に重要である。 2012 年当時、Facebook による Instagram の買収により競争が減少すると確信していた人もいるであろう。 しかし、オバマ政権は、バイデン政権ほど市場支配力の集中に対して警戒していなかった。
   新しいガイドラインはまた、買収や合併によって企業の市場支配力が深化、拡大、延長される可能性があるという考えである定着化にも重点を置いている。 この変化は、競争が本来あるべき動的な現象として見られるようになるということを意味している。 重要なのは、水平合併だけでなく、垂直合併もより厳しい監視の対象となることである。
   競争が限られている状況下では、このような合併が強力な悪影響を及ぼす可能性があることは以前から既知であった。 しかし「シカゴ経済学者」らは、市場には本来的に競争力があると主張し、独占禁止当局は水平的な合併・買収のみに焦点を当てるべきだと主張し、裁判所もおおむね同意していた。 イルミナ/GRAILの判決は、裁判官が垂直合併がもたらす危険性を認識し始めたことを示唆している。

   同様に、新しいガイドラインは、クレジットカード、航空券の予約、劇場のチケットからライドシェアリングに至るまで、今日の反競争的行為の多くが行われている大規模なプラットフォームに独占禁止当局が対処するのに役立つ。 (完全な開示:私はこれらの訴訟のいくつかで専門証人を務めた。)支配的なプラットフォームから得られる持続的な高い利益は卑劣なものになった。 ここでの市場支配力の成長を芽のうちに摘むことが特に重要である。 新しいガイドラインのダイナミックなアプローチは特に効果的である可能性がある。

   我々は皆、市場支配力に苦しんでいる。市場支配力が市場を歪め、全体的な生産性を低下させ、企業が価格を引き上げることを可能にし、その結果、生活水準が低下する。 同時に、市場支配力の拡大と労働力の弱体化が組み合わさって賃金が抑制され、生活水準はさらに低下していく。
   スミスは正しかった。市場支配力との戦いは終わりがない。 しかし、バイデン政権は少なくとも一般のアメリカ人にとってはポイントを獲得した。 これは、極めて敵対的な政治環境の中でのまた一つの素晴らしい成果である。

   スティグリッツ教授の論理は極めてシンプルで疑問の余地なく、先日レビューしたルービニ教授の「メガスレット」での脱グローバル化反論と相通じる論旨で、非常に興味深い。
   重要な軍事情報に関すケースはともかくも、たとえ、AIやデジタル技術に対する高度なハイテク技術や情報についても、グローバル経済の発展ためには、オープンすべきという論旨であろう。
   しかし、米中の対立が激しく、新冷戦に突入して、世界が分断状態にある現状では、どうであろうか。
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