熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

英国の企業買収委員会の自主規制・・・早大COEセミナー

2007年03月15日 | 政治・経済・社会
   早大法学部で、上村達男教授が拠点リーダーの企業法制と法創造総合研究所が、英国テークオーバーパネル(企業買収委員会)の副総裁ノエル・P・ヒントン氏を招いて2日間に渡って「成熟市民社会英国の企業買収ルールを徹底的に学ぶ」セミナーを開いた。
   サイマルの同時通訳の入った本格的なセミナーで、殆どの聴衆は専門家や学者達で、場違いな感じがしたが、日興コーディアルの買収劇や迫ってきた三角合併の関連でも重要なカレント・トピックスでもあり、英国のビジネスに携わっていた関係もあって、非常に興味を感じて聴講したが、分からないながらも色々と啓発されることが多かった。

   この買収委員会は、1986年に設立された完全な独立機関で、主目的は、企業買収と合併に関するCity Codeを制定しその管理運営を行うことで、企業買収ビッドに対して株主を擁護するために、このCodeに従って買収を監視監督し従わせることである。
   委員会は、政府とは関係ない機関だが、ECの企業買収に関するDirectiveに基づく監視機関としても機能している。
   委員会のメンバーは、民間の金融や産業界の代表から選出されているが、これとは別に常設の執行事務局があり、ビッドの前段階から終結まで、Codeに従って事前のコンサルテーションを行ったり、解釈や運用をアドバイスしたり、実際のビッドの状況を監視監督している。
   総裁は、モルガンスタンレイのワーラム氏だが、今回No2のヒントン氏が来日して、長い経験から詳細に渡って解説し、日本の法学者達の質問に答えていた。

   ヒントン氏の説明では、委員会は、コンサルテーションが非常に上手く機能しており、対応の柔軟性やスピード、そして、何時如何なる場合でもアベイラブルであることが特色であり、ビッドについてはどちらが勝つかには一切関係なくCodeに従ってフェアであることを貫き通していると言う。
   
   この委員会は、法令規制機関ではなく完全に自主規制の任意団体なので、当局に相談することなく自由に規則の変更が出来る。
   そして、この規制には強制力がないし、従いたいものだけが従がえばよいのだが、英国の企業が文句なく従ってきたし重要な機関として存続してきたのは、株主を平等に、非常にフェアに扱ってきたからであろう。
   日本では、買収を嫌う経営者がアメリカ法の例に倣って「ポイズン・ピル」の導入に血眼になっているが、委員会が、安易に新株を発行して稀釈化するのを防いできた為に、イギリスでは、ポイズン・ピルを導入している会社は皆無だと言う。
   とにかく、日本では極めて不真面目なTOB仕掛け人が出てきて株価を吊り上げて、ごっそり株式売却利益だけを持ち逃げするケースがあるが、イギリスの場合は、TOBを仕掛ける企業は徹頭徹尾真面目でなければならないのだと言う。

   日本のように、何でも法律で決めて、絶えず法律を改定している国では、イギリスのように民間の団体の自主規制で経済社会が成り立っているケースなど理解し難いが、上村教授の説では、これが成熟した市民社会の成熟たる由縁だと言うことである。
   慣習法の国イギリスでは、法律などおいそれと変わらないし、憲法などまだ13世紀のマグナ・カルタを引き摺っている。
   長い苦難の年月をかけて試行錯誤の末に築き上げられたイギリスの民主主義には筋金が入っており、総選挙でも戸別訪問が許されているが殆ど違法行為がなく選挙資金は極めて少ない、そんな成熟した社会でもある。

   会場から、自主規制で上手く行く理由など問題点の質問が出たが、植村教授は、国によってルールのあり方が違うのであって、自主規制であっても現実に規範として機能しておれば、それが立派な法律であって、時には法律よりも上の場合があると説いていた。
   GENTLEMAN、BEST PRACTICE、REPUTATION,と言った規範が機能しておれば、それを犯すとその世の中で生きて行けないと言ったケースなど、法以上の規範となっている、と言うことであろう。
   昔、韓国の友人から、両班(ヤンバン)と言う、徹頭徹尾立派な振る舞いを期待されている特権階級があるのだと聞いたが、これなども極めて重要な社会規範であるし、ヨーロッパ貴族のノブレス・オブリージェなども同じ道徳規範である。

   先日、このブログで、法律以外の法として機能しているソフト・ローについての東大法学部のセミナーについて触れたが、この面からも日本の法化社会のあり方を掘り下げて考えてみるのも大切なことであろう。
   日本には、紳士協定などと言う一種のソフト・ローがあって機能していたが、最近では、企業経営者の企業倫理なりモラルが低下して企業不祥事が跡を絶たない。
   酷くなれば成る程、アメリカのように徹底的に法で締め上げる以外にないのかもしれないが、やはり、自主規制なり、モラルや社会的な規範で動く社会の方が望ましいことには間違いない。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 団塊世代を激励・・・竹中平... | トップ | AARP(全米退職者協会)ビル・... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

政治・経済・社会」カテゴリの最新記事