熟年の文化徒然雑記帳

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クルーグマン説で岸田内閣の「新しい資本主義」を考えると(その1)

2023年06月21日 | 政治・経済・社会
   大野和基の「常識」が通じない世界で日本人はどう生きるか の、ポール・クルーグマンの日本経済論が面白いので、これで、岸田内閣の最近の雇用制度改革案など「新しい資本主義」について考えてみたい。

   まず、クルーグマン説
   FRBの量的引き締めと利上げ策は、日本経済にも影響を与え、日本は、物価高騰と円安の二重の打撃を受けている。
   現在のインフレは、コストプッシュのインフレで、日本の労働者の賃金は上がらないので「悪いインフレ」である。企業側が賃上げをして需要を拡大することが最も重要かつ有効なのだが、日本の企業は内部留保を増やすだけで、インフレ率にマッチした賃金の引き上げを頑なに実施しない。ここで、賃上げが出来れば、「良いインフレ」を生じさて、生産性を上げる健全な投資を産み出せ、更なるイノベーションに向けた適切な投資が行われて、好循環に転じるはずである。
   日本人の最大の問題は、貯蓄を好むと言うことである。たとえ賃金が上がっても貯蓄するだけで使おうとしなければ、市場の好循環は生まれないし、経済を刺激することもない。
   日銀の政策効果を最大限に発揮させるためには、企業側の努力として賃金を上げること、消費者側の努力として貯蓄に回しすぎずによりお金を使うことである。人体の血液と同じで、お金の流れをもっと良くして、循環させねば意味がない。
   日本のインフレは、アメリカの好景気を伴う需要拡大のディマンド・プルではなく、コスト上昇によるインフレに過ぎないので、雇用の促進や賃金上昇が起きていない以上、景気は回復するどころか後退して行く。これが、より深刻化すると、不況とインフレが共存するスタグフレーションに突入する。
   スタグフレーションを回避し、不況を改善するためには、政府の施策だけでは無理なので、」やはり、企業が内部留保ばかりを増やしていないで、もっと利益を従業員の賃金に回すべきである。
   日本経済の衰退の要員の一つには労働生産性の低さがある。日本の労働生産性は、OECD38カ国中23位と非常に低い。
   日本の労働生産性の低さは、定年制度から来ている。熟練したスキルを持った従業員が、一定の年齢を迎えると一律に仕事からひき剥がされてしまうのは大きな損失で、働く意欲も体力もある労働者を年齢を理由に追い出してしまえば、国民一人あたりの生産性が下がるのは当然である。

   さて、岸田内閣の「新しい資本主義」だが、   
   岸田首相は昨年10月、ニューヨーク証券取引所で、日本企業にジョブ型の職務給中心の給与体系への移行を促す指針を2023年春までに官民で策定することを明らかにし、「年功序列的な職能給をジョブ型の職務給中心に見直す」と述べた。専門的なスキルを給与に反映しやすくして労働移動を円滑にし、日本全体の生産性向上や賃上げにつなげる狙いがある。「一律ではなく仕事の内容に応じたジョブ型の職務給を取り入れた雇用システムへ移行させる」と語った。

   また、政府は2023年6月6日、「新しい資本主義」実行計画の改定案を発表した。 時代の流れに即応した「分厚い中間層」育成を目論む 改定案だが、退職金「優遇制度」見直しなど老年労働者の多くの人には「不利」な内容が盛り込まれた「在来の日本型雇用制度潰し?」と思しき改革案でもある。
   その改革案だが、
   政府は勤続20年を超えた人を優遇している退職金への所得税の軽減措置が、転職など労働移動の円滑化を阻害しているという指摘を踏まえ見直しを検討する。労働力の成長分野への移動を促すためで、自己都合で離職した人への失業給付制度も再検証し、年功序列や終身雇用を前提とした日本型雇用慣行の改革に取り組む。
   退職金への課税制度については、今年度の与党税制改正大綱も「適正かつ公平な税負担を確保できる包括的な見直し」が必要と明記。
   失業給付制度の見直しも明記した。「労働移動の円滑化」、自発的に転職しやすい環境を整備するため、自己都合で離職した場合の失業給付のあり方を検討し、自己都合で離職すると求職申し込みから2-3カ月を経ないと受給できない現行制度の要件緩和を検討する。
   実現会議は、リスキリングなどを含めた労働市場改革の全体像を6月までに指針として示す。

   ところで、クルーグマンの論点と岸田内閣の政策とで重なるのは、定年制度だけだが、クルーグマンは日本の熟練労働者の長期雇用の価値を認めており、岸田内閣は雇用の流動性を勧めたいので長期雇用に価値を認めない。私は、日米の経済構造や企業経営には大きな差があるので、是々非々主義で対応すれば良いと思っている。

   私が、まず、問題としたいのは、岸田内閣の雇用制度改革案が、一本調子で早急なアメリカ型の雇用制度への傾斜である。
   私がフィラデルフィアのビジネス・スクールで学んでいたほぼ半世紀前のアメリカの雇用制度と殆ど同じ制度を目指していると言う、この危うさである。

   日米根本的に違うのは、まず、労働者の教育システムである。
   プロフェッショナルを例にひくと、アメリカでは、大学は教養課程の位置づけで、エンジニアも医師も弁護士も経営者の卵も、大学院のプロフェッショナル・スクールで、育成される、例えば、トップビジネススクールの人事管理を専攻したMBAが、即刻、企業の人事部長としてヘッドハントされる。ケーススタディなどで多岐にわたる厳しい教育訓練を受けて最新最高の知見を得て、それだけの資格があると認められると言うことである。日本では、OJTなどを経て企業の長い経験を重ねなければ人事部長には成れない。それに、日本企業は、個々の企業が独特のコーポレート・カルチュアを持っていて、外部者は殆どすぐには馴染めない。
   フランスでも、ポリテクの卒業生は、卒業間もない若い頃にお礼奉公として中堅企業などのトップに天下っていた。欧米では、学歴や資格などによって、ジョブ階層や位置づけが決まるので、上位のジョブに就くには資格要件を上げる以外にない。
   そのようなシステムを受け入れる経済社会構造が醸成されているからこそ出来るのであって、長期雇用定年制度が根付いている日本にごり押しすれば、長年培ってきた公序良俗が廃れて道理が引っ込む。

   日本の企業のトップは、精々大卒なので学歴が低く、リベラル・アーツの知識不足以外にも、欧米の博士や大学院のプロフェッショナルスクールを出た若くから百戦錬磨の経験を積んだカウンターパーツに、名実ともに見劣りする。
   このような経営トップやプロフェッショナルが、卒業後20年経っても、まだ45歳、
   クルーグマンが説く如く、これ以降の人材が日本経済を支えている。知ってか知らずか、岸田内閣は、この20年をやり玉に挙げようとしている。

   クルーグマン説での、岸田内閣の「新しい資本主義」については、次に回したい。
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