熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

クルーグマン説で岸田内閣の「新しい資本主義」を考えると(その2)

2023年06月22日 | 政治・経済・社会
   まず、この論文で、クルーグマンは、岸田政権の経済政策について、次のように述べている。
   現在の岸田政権では、安倍政権の頃に掲げられたアベノミクスの「3本の矢」のように、聞こえの良さそうな言葉を並べた「新しい資本主義」を経済政策として打ち出しています。しかし、内容が本当に伴っているのかと言うと、否でしょう。どこか空虚に聞こえます。

   日本のインフレ率は30年ぶりに3%を超えたが、日本人はデフレマインドなので、欧米と比べてこのように低いインフレ率でも消費を抑制する。
   日本企業の内部留保を賃金の引き上げのために用いることが、日本経済の景気を好転させ、国民にとってどれだけプラスになるかを企業家たちに説くことが、岸田首相の大きな役目であると言えるでしょう。と言う。

   さて、クルーグマンは、何度も、日本の企業は、内部留保を増やすだけで、従業員の賃金の引き上げを頑なに拒んできているが、賃上げが出来れば需要が増大して「良いインフレ」を生じさて、生産性を上げる健全な投資を産み出せ、更なるイノベーションに向けた適切な投資が行われて、好循環に転じて経済成長を策せる。と強調している。
   日本企業の経営効率の悪さは、その低い資本効率が株価に反映されていて、株価純資産倍率(PBR)が、メガバンクは勿論、日本を代表する優良企業でさえも1倍割れが多いのだが、これは、市場が「株主資本が毀損されており、上場しているより解散した方がましだ」すなわち、叩き売った方が良いと判断していることで、上場の意味がない。 内部留保や政策保有株が多いことのほか、収益力の低さ、株主還元の少なさなど、さまざまな要因が考えられ、対策として、短期的には余剰資金による自社株買いや増配が有効だが、これらは株価対策であって、強者富者を益するだけである、

   有効需要拡大のためには、クルーグマンが説く如く、賃金の引き上げが一番有効であることは間違いなく、所得分配の公平性にも資する。
   クルーグマンは、それも、僅かな額ではダメで、抜本的に上げなければならない。少なくとも最低賃金を1.5倍に上げないと意味がない。それくらいに給料が上がらないと、消費に回らないからだと、追い打ちをかけている。
   また、非正規雇用についても、社会保障的にも安定していないのであるから、同じ仕事をしているのなら、正規社員より高い賃金を払うことが望ましいと真っ当なことを言う。

   ところで、低すぎると言う日本の労働生産性についてだが、
   G7では最低だと言うから、Japan as No.1の時代にグローバル戦争に明け暮れていた我々企業戦士には信じられないような体たらくであり、僅かに得た利益を、新規投資に投入して攻撃に立つのではなく、内部留保に汲々として内向きの経営に堕しているのであるから、成長から見做され、従業員の給与所得に資金を配分する才覚に欠けてしまう。これが、日本の企業の現状であろうか。
   日本企業の生産性が何故低いのか。東洋経済によると、
   日本の生産性が低い原因には、イノベーション不足、人材や設備への投資減少、低価格化競争、企業の新規開業や統廃合の少なさ、労働人口の多いサービス産業の生産性の低さなどが挙げられる。また、無駄な作業や業務が多いこと、会社の価値観や仕事のやり方が以前と変わっていないことも原因として挙げられる。日本の組織での仕事の進め方が、成果主義になっていないことやITに対応していないことも原因の一つである。残業時間の増加や休日出勤によるストレスや、労働生産性の高い従業員のモチベーション低下も問題である。と言う。完全に落第生の極致である。

   ところで、ジョブ型雇用だが、職務に必要な責任、資格、必要なスキルの明確かつ簡潔な概要であるジョブ・ディスクリプション(職務記述書)が重要な役割を果たす。現状では、ジョブ型雇用はエンジニアや管理職など、特殊なスキルや高度な能力を要する一部の職種や階層に限定した導入が主流のようだが、この日進月歩で大変革を遂げている企業を取り巻く経営環境に、キャッチアップし続けられるのかどうか。
   例えば、前世紀ではアメリカ型の株主至上主義が企業経営の要諦であったが、今やESG重視の日本型のステイクホールダー経営が常識となるなど、驚天動地の変化さえ起こる、
   激変する経営環境下で制度疲労しつつあるジョブ型雇用人事システムがサステイナブルかどうか。である。

   いずれにしろ、岸田内閣の「新しい資本主義」と、その実行計画の改定案なり、時宜に沿った文言を鏤めた秀才の作文と言った感じで、注目には値するとは思うが、クルーグマンの言うように、聞こえの良さそうな言葉を並べた、内容が本当に伴っているのかと言うと、否で、どこか空虚に聞こえて、こんなことで、日本の経済が再び回復して、MAKE JAPAN GREAT AGAIN出来るのかどうか、疑問に思っている。
   クルーグマンの日本の経済分析は適切であって、日本企業の生産性アップをどうするののか、企業の過剰な内部留保をイノベーション投資と賃上げに振り向けるためにはどうするのか、無意味なお題目は厳禁で、有無を言わせずに強制的に企業に迫って実行させる確実な政策を企画立案して推進する、それ以外にないであろう。
    
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