熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

映画「ユリシーズ」オデュッセウスの活劇

2020年11月20日 | 映画
   NHK BSPで、1954年の古い映画「ユリシーズ」が放映されたので、懐かしくなって見た。
   カーク・ダグラス、シルヴァーナ・マンガーノ、アンソニー・クイン、ロッサナ・ポデスタなど往年の名優が登場する映画で、
   「ユリシーズ(Ulysses)」はオデュッセウスのラテン語形の英語化とかで、アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの小説の現代版とは違って、ホメーロスの『オデュッセイア』を映画化した作品であり、面白い。

   この映画は、かなり忠実にホメーロスの叙事詩『オデュッセイア』を踏襲している。
   木馬戦略でトロイア戦争に勝利したユリシーズは故国イタケーを目指して航海するのだが、北に向かって航路を取るべき筈が、激しい嵐に見舞われて遥か南のリビアへと流されてしまって、長くて苦難の旅路が彼を翻弄する。
   この航海の途中、1つ目の巨人キュクロープスたちの住む島に到達して、キュクロープスの眼を潰して羊を強奪して逃げたので、キュクロープスの父親である海の神ポセイドンの怒りを買って、ポセイドンは、三叉の矛を海に突き刺し、嵐を巻き起こしてオデュッセウスの船を破壊する。
   この難行苦行しかしドラマチックな艱難辛苦の冒険譚については、総てではなくて、先のキュクロープスの島やセイレーンの歌やカリュプソーの島など一部の挿話を上手くアレンジしながら綴っているのだが、魔女キルケの住む島のキルケと海の女神カリュプソーの島のカリュプソとを合体させたような美女チルチェに愛される辺り面白く、妻ピネロペを演じるシルヴァーナ・マンガーノが二役を演じているのも興をそそる。
   イカダが壊れて、失神じょうたいで海岸に漂着して、パイエケス人の王女であるナウシカアに救助されてて、英雄ユリシーズと分って王宮で歓待され、王に帰郷のための船を提供される。
   この叙事詩というか映画で、もう一つの主要テーマは、ユリシーズが留守にしている故国イタケの状態で、美女の妻ペネロペとユリシーズの財産を狙って、多くの求婚者たちが押しかけてきて、王宮で乱暴狼藉を働き領地をさんざんに荒している。ペネロペは、貞操を守ってきたが、それももう限界だと思いはじめて、「ユリシーズの強弓に糸を張って、12の斧の穴を一気に射抜けた者に嫁ぐ」と皆に宣告する。
   その前に、乞食に変身して現われたユリシーズがペネロペに強弓競技の知恵をつけていたのだが、求婚者の誰もが強弓を使えなかったので、乞食姿のユリシーズが試みて成功して、正体を現し、先に内通していた息子テレマコスたちと一緒になって、求婚者たちを一網打尽に成敗する。
   ユリシーズが、ペネロペに近づいて、ヒッシと抱きしめるはずの感動的なラストシーンは、カーク・ダグラスが大写しになって、接近するところで字幕ナレーションが被ってFINE.
  
   ホメロスの「オデュッセイア」では、アテナなど人間くさいギリシャの神々が随所に登場して、もっと幻想的でありドラマチックで面白いのだが、70年以上前の実写映画でCGなど縁遠い時代では、想像を逞しくして、ホメロスの世界を追うことが肝要であろう。
   前半の航海同様、後半でも、テレマコスがユリシーズを探して旅に出る話やユリシーズがイタケに到着して元重臣の牧夫に助けられて王宮に潜り込む話などかなり元のストーリーから省略されていて、ホメロスの叙事詩の味が削がれている感じはするが、二時間の歴史的活劇としては、仕方がないのであろう。
   映画の所為で、画面がフェーズアウトして、次のストーリーに飛ぶのだが、欧米では、ホメロスは常識であり周知であるから、話が繋がるのであろう。

   シルヴァーナ・マンガーノの魅力は申すまでもなく、ナウシカアのロッサナ・ポデスタの初々しさも特筆もの。
   カーク・ダグラスは、適役だが、私には、ファン・ゴッホの印象の方が強烈である。
   先日、映画「道」で見たアンソニー・クインだが、強烈な性格俳優ぶり。

   ホメロスの「オデュッセウス」を、映画という別な形で鑑賞できて面白かった。
   吟遊詩人の語りを聴いて楽しむ文学で、シェイクスピア戯曲と同じで、聴きに行くと言うことであろうが、シェイクスピアもRSCの舞台を観て鑑賞が深まるように、ホメロスの映画も、大いに想像力を膨らませてくれて役に立つ。
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