熟年の文化徒然雑記帳

徒然なるままに、クラシックや歌舞伎・文楽鑑賞、海外生活と旅、読書、生活随想、経済、経営、政治等々万の随想を書こうと思う。

相曽賢一朗:ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調」

2014年07月19日 | クラシック音楽・オペラ
    昨夜、東京芸術劇場で、_Nippon Symphony のコンサートが開催され、相曽賢一朗が、ベートーヴェンの「ヴァイオリン協奏曲 ニ長調」を演奏した。
   
   私は、相曽が、フル・オーケストラをバックにして、ヴァイオリン協奏曲などのソロを演奏するのを聴いたことがないし、まして、私が学生の頃から、そして、欧米で何度かコンサートで聴いて感激し続けてきたベートーヴェンの協奏曲であるから、正直なところ、これを聴くために会場に出かけた。

   このヴァイオリン協奏曲は、中期の絶頂期であった交響曲第5番の「運命」などと同時期に作曲された曲ながら、豪快でエネルギッシュな曲と言うよりは、交響曲第4番やピアノ協奏曲第4番に似た叙情的で流れるように詩情豊かに歌い上げた大らかな雰囲気を持っていて、3大ヴァイオリン協奏曲と呼ばれているメンデルスゾーンやブラームスとも違っていて、私は一番好きで、ハイフェッツやオイストラッフ、シェリングのレコードを、何度も聴いて楽しんでいた。
   ヨーロッパでは、何度か聞いており、アムステルダムで、その内、何故か、チョン・キョンファがロイヤル・コンセルトヘヴォーをバックに弾いたのだけは覚えている。

   ところで、クラシック音楽については、好きと言うことだけで、嫌と言うほどレコードからCD,DVDなどを集め、コンサートには通い詰めて、鑑賞には大変なエネルギーを注ぎ込んできたつもりだが、如何せん、音楽的な知識が希薄なので、今回の相曽の演奏の素晴らしさを、専門的な音楽タームで説明できないのが残念だが、私にとっては、感動の連続であった。
   相曽の誰にも負けない程、ヴァイオリンから紡ぎだす美音の優雅さ素晴らしさは、格別なのだが、
   今回のヴァイオリン協奏曲の抒情性連綿とした曲種に合っていて、愛と熱情に燃えていた頃のベートーヴェンの心の叫びを、相曽は、計算し尽くされた説得力に満ちた適格なテクニックで表現し、実に温かくて優しくビロードのように滑らかな美音にのせて紡ぎだしており、愛器を愛しむようにしっかりと握りしめた弓捌きが感動を呼ぶ。
   ロンドンにいた時、相曽を何度か、音楽会に誘っているが、ベートーヴェンは、ロイヤル・オペラで「フィデリオ」を一緒に聴いたが、不思議にも、当時は、相曽の音楽感を聞いたことがなかった。

   今回は、会場の前の方の真ん中の席に座って聞いていたので、弓が弦から離れる瞬間までの限りなき美しいピアニッシモの途轍もない美しいサウンドを楽しむことが出来たのだが、こんなに美しくてピュアな音色を聴いたのは、後にも先にも、今回が二度目。
   最初は、随分前だが、レナード・バーンスティンが、ロイヤル・コンセルトヘヴォーを指揮したシューベルトの「未完成」交響曲の時の、天国からのサウンドと紛うべき素晴らしいコンサートであった。

   相曽のサウンドの美しさは、ピュアで美しいだけではなく、実に優しくて温かくほのぼのとして胸を打つ、その独特な相曽でしか紡ぎ出せない音色の美しさで、その感動は、コンサートの後までも残ることで、コンサートが終わると、ロビーに、CDを握りしめて、相曽のサインを待つ長い列が続いていることからもそれが良く分かる。

   相曽サウンドの秘密には、相曽の生まれながらの優しさ温かさと言った天性の個性、そして、何時も蔭に日向に相曽を見守り続けているご両親のバックアップなど、恵まれた環境によるものもあるだろうが、それだけではなく、
   平穏無事な藝大を途中で飛び出してアメリカに渡り、ロンドンで孤軍奮闘しながらロイヤルアカデミーをトップで卒業し、それから、ほぼ20年であるから、恐らく、異文化異文明の世界で、血の滲むような修業研鑽があったのであろうし、その集積によるものであろうと思う。

   もう一つ、私の記憶に残っているのは、相曽が、ロイヤル・アカデミー入学でロンドンにやって来て、我が家で最初に、宮城道雄の「春の海」の尺八パートを弾いてくれたことである。
   勿論、宮城道雄とシュメーの「春の海」で、シュメーが、素晴らしいヴァイオリンを披露しているのだが、それとは違って、相曽は、サウンドのかすれ具合もそのままに、尺八そっくりに演奏したのである。
   この逸話からも、言えることは、相曽の良さは、徹頭徹尾日本の文化伝統下で日本人として育ち日本人としてのアイデンティティを備えていることで、その上で、長い欧米生活にどっぷり浸かりながら、異文化異文明との遭遇の中で、独特な相曽サウンドを培って来たことである。

   イノベーションを誘発する発明発見は、悉く、違った科学技術や思想発想などの遭遇と融合、すなわち、最高峰の異質な学問芸術などが交差したルネサンスを生んだ文明の十字路でのメディチ効果によるものだと言われていて、豊かな異文化による芸術文化の遭遇程、芸術家の芸術の創造を掻き立てるものはない筈で、相曽は、尤も恵まれた境遇下環境下にあって、自己の芸術を磨き上げて来たと、私は思っている。
   そうでないと、あれだけ、説得力のある心の琴線に触れて感動を呼び起こす美しいサウンドを紡ぎ出せるはずがないのである。

   今回は、相曽の美しいサウンドについて書いて来たが、かって書いたように、相曽の本質は、高度な演奏技巧と楽曲表現の自然さと言う日本人離れした資質のみならず、
   サー・ジョン・エリオット・ガーディナーが、相曽のCD「BACH SONATAS FOR VIOLIN AND HARPSICHORD」に、献辞を書いており、「・・・彼の演奏は、知性、鋭敏な様式感、大変説得力のある音楽性を兼ね備え、それらが確固とした技術に支えられている。その優れた資質の豊かさは見逃されるべきではない。」としていることで、
  相曽の素晴らしい資質をまとめて、a cornucopia of qualities、すなわち、所有者が望むものは何でも出てくると言う途轍もない能力を持ったギリシャ神話の「豊饒の角」とまで言わしめていることである。


   名にし負う天下のロイヤル・アカデミーをベースにして、最高峰の音楽芸術を学び続けながら、鄙びたケントの田舎で鶏と戯れ、欧米以外にも南米や旧ソ連領のイスラム圏まで出かけて異文化を吸収し、とにかく、留まることを知らずに、音楽の止揚を求めてグローバル・ベースで行脚しながら、精進を続けている。
   その相曽が、毎年、秋に帰って来て、リサイタルを開いているので、そのサウンドの豊かさと味わいの深まりを、何時も、楽しみに待っている。
   今年の9月の津田ホールでは、珍しく、ウクライナの女性ピアニストを伴ってコンサートを開き、タイースの瞑想曲やバッハのG線上のアリアなどポピュラーな曲を演奏すると言うので、如何に、美しい相曽サウンドを奏でてくれるか期待している。

   さて、当日のNIPPON SYMPHONYの公演だが、冒頭田中照子のピアノで、レスピーギのピアノ協奏曲 イ長調が演奏された。
   日本初演とかと言うことだが、綺麗な曲で、ダイナミックな田中の演奏で、楽しませて貰った。
   休憩後は、ベートーヴェンの「英雄」交響曲。
   アンコールを含めて、2時間半にわたる熱演、素晴らしいコンサートであった。
  

(追記)口絵写真は、昨年津田ホールの公演の後、サイン中に声をかけて撮らせて貰った写真。
(追記 2)下記コメントを頂いたように、
    私自身、NIPPON SYMPHONYそのものを知らなかったので、日本オーケストラ連盟の名簿を調べてもなく、グーグルの検索で、ニッポン・シンフォニーの情報を得たのですが、このニッポン・シンフォニーのホーム・ページや十分な情報が出ておらず、殆ど総ての記事が小山の日本交響楽団_Nippon Symphony Orchestraの記述であったために、楽団を取り違えていたので、その分を削除して、文章を訂正しました。全く、私の不注意であり申し訳なく存じており、お詫び申し上げます。(2014.7.21 pm16.00)

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ニッポン・シンフォニーの件 (株式会社SPプランニング)
2014-07-21 08:09:44
中村様

ニッポン・シンフォニーの代理店をしておりますSPプランニングの山内です。
先日、池袋でのニッポン・シンフォニー第22回定期演奏会へお越し頂き、誠にありがとうございました。

あなた様のコメントを拝読させて頂きました。
重ねて御礼を申し上げます。

さて、いくつか誤解がございましたので、訂正願えると幸いです。

●小山の日本交響楽団とは別のオケです。
 アマではなくプロのオーケストラとして活動しておりま
 す。
 ニッポン・シンフォニーの本部は豊島区にあります。
 キャリアは昨年10周年を迎え、年間約5回、都内で定
 期演奏会をおこなっております。

私も個人的には曽根氏のヴァイオリンには驚きました。また、コンチエルをお願いしたいと思っております。

今後とも、ニッポン・シンフォニーをよろしくお願い致します。
返信する
御礼 (株式会社SPプランニング)
2014-07-21 18:19:10
中村 様

お世話になります。
SPプランニングの山内です。

訂正頂き、誠にありがとうございます。
運営は、他の団体と違い小規模に行っております
関係上、まだまだ告知不足です。

9/10にも東京芸術劇場で演奏会を行いますので
是非ともご来場頂きたくよろしくお願い致します。

今後ともご指導頂ければ幸いです。
ありがとうございました。
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