日々是マーケティング

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友愛のキス-ベネトンの広告ー

2011-11-17 21:09:54 | CMウォッチ
Yahooなどのトピックスなどでも取り上げられていた、ベネトンの広告。
ベネトン広告・スライド(ロイター発 注意:始まりと終わりに音声があり)

ベネトンの広告といえば、1980年代後半から相当尖がった社会を批判するような広告で、物議を呼んだ広告が多かった。
当時の広告を担当していたオリビエロ・トスカーニが向けていた社会批判というのは、偏見や差別、人権といった社会性が高いモノであったがためだが、一企業の広告としては相当社会性が高かっただけではなく、批判も多くあった。
特に宗教関係者からの批判は、特に強かったように思う。

その後、トスカーニが広告担当を降り、その話題性というのは少し減ったような気がしていたが、今回の広告は久々に「ベネトンらしさ」を感じるモノだった。
「ベネトンらしさ」というよりもトスカーニの意思を引きついた、ベネトン広告スタッフの今という世界に対するメッセージというモノを感じたのだった。

冷静に考えれば、ベネトンはイタリアのアパレルメーカーなのだから、何も「社会性の高い広告」を打つ必要は無い。
まして、物議を呼ぶような広告などは、アパレルメーカーとしてはご法度だろう。
特に、イタリアという国において宗教を取り上げるということは、半ば自殺行為的なところもあるのでは?
それでも、あえて(というべきか?)このような、痛烈に社会を批判し、受け手に考えさせる問題提議をする広告を作り続けるというのには、ベネトンという企業の理念があるからだろう。
あくまでも想像だが、「(ベネトンの服を着ることに)制限があってはならない」というコト。

トスカーニが初めて注目されたベネトンの広告というのは、末期のエイズ患者とその家族だった。
その後も、ボツニアの紛争で亡くなった若者が、銃撃されたときに来ていた血だらけのTシャツと迷彩色のパンツの写真も「そこまで見せる必要があるのか?」と、広告以上に話題になり、「広告のあり方」そのものにまで話題が発展したこともあった。

そして今回の「世界の相反する首脳たちのキス」だ。
このスライドを見ている限り、トスカーニほどの強烈な社会批判を私は感じない。
もちろん、当事者たちからすれば決して気持ちの良いものではないと思う。
当事者ではない私でさえ、「それはチョッと・・・見たくない」というモノも確かにある。
しかし、今問題となっている様々な事柄が互いの思惑ではなく、世界的な視野からみた利益から考えれば、キスは無理でも握手くらいはできるのではないか?と、思わせることに十分成功している。
そして、多くの人たちはそのことを望んでいるのではないだろうか?

「キス」という皮肉な合成写真ではあるが、自己益ばかりを求める社会は「制限のある社会」なのかも知れない。
センセーショナルではあるが、いろいろなことも考えさせるベネトンらしい広告だと思う。