![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/c7/6b5d9cc740243852a955a6f698fd43f0.png)
≪黒雲の図≫
“4一飛”と打ちこんだこの闘い方を、我々(終盤探検隊)は、『黒雲(くろくも)作戦』と呼ぶことにした。
合戦で、劣勢になり、どうにも打開手段が見つからない時、黒い雲がもくもくとやってきて、雨を降らせ、運よく打開する―――そういうイメージで「黒雲」としたのである。
この“4一飛”は、3一飛成以下の“詰めろ”だが、後手はこれをどう受けるか。
[アートマンと暗黒星雲]
《《 釈迦から弥勒にいたるアートマンの系譜にヤマトタケル、お前があらわれたのが地球時間で千六百年前。
そしてお前は暗黒星雲をここまで遠ざけて地球を救い、別の持空間でもう一度われにあうことを約束した!
時は来た! さあ! 決断を下す時だ! お前とともにこの暗黒星雲はどこへでも行くであろう。 》》
「わからない、わからない! なぜそんな必要があるんだ。 ぼくにどうしろというんだ!」
(諸星大二郎作 漫画『暗黒神話』より)
諸星大二郎『暗黒神話』は、1976年『週刊少年ジャンプ』に発表され、連載された。連載としてはわずか6回で完結する話なのだが、中身が濃密である。当時の読者は、あまりに密度の濃い内容に圧倒され、そして惹き込まれていった。
「お前とともにこの暗黒星雲はどこへでも行くであろう」の“暗黒星雲”とは、オリオン座の方向にある有名な馬頭星雲のことで、馬の首の形をしている。そしてこの物語の中では、この馬頭星雲は“スサノオ”であり、主人公武(=ヤマトタケル)の意のままに従う存在となっている。
「參は猛悪にして血を好み…」という文章が『暗黒神話』の中にくり返し出てきて、スサノオの凶悪ぶりを表現しているが、これは作者諸星大二郎のつくった文とのことである。「参(しん)」というのは、オリオン座のことで、これは中国での呼び名。
『古事記』の中で伝えられるスサノオは、イザナギ神が、黄泉の国から脱出して日向において禊をしたときに最後に生んだ三貴神の一人で、アマテラス、ツクヨミと共に生まれた。アマテラスは高天原(たかまがはら)を、ツクヨミには夜の国を、そしてスサノオは海をおさめよと命じられた。
アマテラスが太陽、ツクヨミが月だとするなら、スサノオは「雲」であろう。(なぜかそのように述べている書がほとんどないが)
「雲」は海からやって来る。スサノオは父イザナギに「海をおさめよ」と言われていたにもかかわらず、陸にまでやってきて雨を降らせたり、日を照らすアマテラスを隠したりして、秩序を乱す。スサノオが泣くと雨が降るのである。雨は人々に恵みをもたらすこともするが、降りすぎるとやっかいだ。
スサノオはまた出雲でヤマタノオロチを退治するのだが、その怪物の尾の中から出て来た大刀が“天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)”である。出雲の「雲」、そしてこの刀の名前から、スサノオが「雲」の神であることは、明らかである。“叢雲”とは、雲がたくさん群がるという意味だし、“出雲”とか“八雲”も同じような意味である。
≪夏への扉図≫
【あ】5八同金 → 形勢不明
【い】3三歩
【う】7三歩成 → 後手良し
【え】9一竜 → 後手良し
【お】6五歩 → 後手良し
我々――終盤探検隊――はこの図から「先手の勝ち筋」を探しているが、まだ見つかっていない。
いま、【い】3三歩の道を進んでいる。
3三歩、同銀、3四歩、同銀、と進む(次の図)
≪3四同銀図≫
ここで[A]7三歩成と、[B]9一竜が先手の候補手。しかし[A]7三歩成(白波作戦Ⅲ)は、前回の調査の結果、「後手良し」が確定した。
≪9一竜図≫
ということで、[B]9一竜(図)。 これが今回のテーマであるが…。
後手陣が「3二銀型」の時、9一竜について調べたが、それは「後手良し」だった。
今回は「3四銀型」である。その分、後手陣にスキがあり、そこに「先手の勝ち筋」を探している我々の期待がかかる。
この9一竜のねらいの基本は、先手玉の“入玉”である。
ところが、この図から、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩、9六歩、8四金と進んでみると――――(次の図)
≪8四金図≫
やはり“入玉”は完全に封じられてしまっている。(この手順中、9四歩が好手で、これは「3二銀型」の時にすでに解説している)
先手はもう一工夫必要だった。
―――そこで『黒雲(くろくも)』の登場である。
〈黒雲作戦〉
≪9一竜図≫から、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩まで進んだ時、“3三歩”と打つ。
≪3三歩図≫
『黒雲作戦』はまず、ここで“3三歩”(図)の手裏剣を飛ばす。
これには「3一歩」と受けるのが正着となるが、ほかに「同桂」や、「同玉」も一応ある。
それらの手にはどう指すのが良いのであろうか。まずその確認をしておこう。
変化3三同桂図1
“3三歩”を「同桂」には、先手に二つ勝つ手があって、一つはこの3二歩(図)。
これは放っておくと3一角なのだが、同玉も1一飛があってダメ。となれば、後手は4二銀しかない。
そこで先手は4一飛。これも詰めろなので、後手は3一歩とするが、同歩成、同銀に、5四香(次の図)
変化3三同桂図2
これではっきり先手優勢。 対して5三桂は無意味な受けで、1一角、3二玉、3一飛成、同玉、2二銀以下、後手玉“詰み”。
変化3三同桂図3
3三歩、同桂には、9六歩(図)でも、先手が良くなる。
この図、後手が何もしなければ、8五玉から“入玉”する。だからこの図では8四金としたいところ。
しかし8四金は、同馬、同歩、4一飛で、次の図となって―――
変化3三同桂図4
先手玉は詰まず、後手玉は“詰めろ”で、しかも受けなしである。
変化3三同玉図1
では、先手“3三歩”に、「同玉」だとどうなるか。これには3一飛と打つ。
後手は4四玉か、3二歩だが、ます4四玉には―――
変化3三同玉図2
4五歩(図)がある。同銀なら3五金があり、同玉には3六角があって寄り。(5四玉には3四飛成)
変化3三同玉図3
3一飛に3二歩とした場合は、1一角、2二桂、5七馬(図)が幸便な駒運び。
以下、6五桂なら、2一飛成、5七桂成、2二角成、2四玉、3九香で先手優勢。
4四玉の先逃げなら、たとえば2二角成、3三歩、9四竜、8四金、9二竜のような指し方で、先手良し。
そういうわけで、後手は(先手3三歩に)、「3一歩」と受けることになる。
≪黒雲の図≫
そうしておいて、“4一飛”(図)と打つのが、今回の作戦――黒雲(くろくも)作戦――である。
この“4一飛”は、3一飛成、同玉、3二金までの、“詰めろ”。
後手はそれを受ける必要がある。候補手は次の4つ。
〔砂〕3三玉
〔土〕4二金打
〔石〕3三桂
〔岩〕4二銀
しかし〔砂〕3三玉は、上で見てきた「3三歩に、同玉」の時と同様の順で先手良しになる。すなわち、3一飛成、4四玉、4五歩、同玉、3六角、の順である。
では、〔土〕4二金打はどうか。
4二金打図1
〔土〕4二金打と後手が金を打ったところ。
対して、先手は同飛成とするのではなく、8五玉が正着。もともと4一飛と打ったのは、この飛車を犠牲に、“入玉”するという狙いであった。後手が持駒の金を使ったので、“入玉”が可能になった。
8五玉、4一金、9四玉、7七飛(次の図)
4二金打図2
8三玉、7四飛成、9二玉、4六銀、3九香、3五桂、同香、同銀直(同銀引は5七馬がある)、7二歩、5五銀上、7一歩成、3三玉、1一角、3四玉、2二角成、6六歩、2一馬、4五玉、1二馬、3二金(次の図)
4二金打図3
一例だが、こういう展開になる。どうやら先手は負けはなさそうだが、後手玉の“入玉”を阻止するのも難しく、“相入玉”になりそうだ。うまくいけば、「点数勝ち」も望めるが、その可能性は低そうに思う。“持将棋引き分け”が濃厚だろう。
≪3三桂図≫
〔石〕3三桂(図)。 これでひとまず詰みを防ぎ、3二玉から飛車を取りに行くのが後手のねらい。
≪9六歩図≫
対して、先手は9六歩(図)がその対策である。
この手は、「次に8五玉から入玉するぞ」という手である。後手が(u)3二玉なら、8五玉だ。
その順が本筋だが、その前に、(v)8四金、(w)8四歩でどうなるかを見ておこう。
(v)8四金なら、先手の『黒雲作戦』のねらいにハマる。8四金は、同馬と取る。
以下、同歩なら、1一角、3二玉、3一飛成、同玉、2二金、4一玉、3二金打で詰むというわけだ。
つまり『黒雲作戦』は、4一に飛車を打ち込むことによって、8四金を打たせないようにし、8五玉からの“入玉”を実現させようという作戦なのだ!
8四金、同馬に、3二玉の場合は、5一竜(次の図)とする。
変化8四金図
このケースでは飛車を渡してもまだ先手玉は詰まないので、これで先手の勝ちが決まる。
変化8四歩図1
(w)8四歩という手もある。これは、同馬に、7二桂と打って、この桂で先手の入玉を止めようという意図だ。
8四歩、同馬、7二桂、5七馬、3二玉(次の図)
変化8四歩図2
しかし7二桂には、5七馬で、先手良し。後手は3二玉(図)と飛車を取りに来たが、これにはやはり5一竜でよい。以下、7五金、6七玉、5一金、同竜と進んで、次の図。
変化8四歩図3
後手玉には“詰めろ”がかかっており、先手勝ち。
≪3二玉図≫
どうやら先手の“入玉”を防ぐのは難しいようなので、後手は(u)3二玉を選んでこの図。
変化8五玉図01
もちろん先手は〈イ〉8五玉(図)。
(ただしこの手に代えて〈ロ〉4二歩も有力で、その変化は後で見ていくことにする)
8五玉以下の想定手順は、8四金、同馬、同歩、9四玉、4一玉、9三玉、5四角(次の図)
変化8五玉図02
この5四角は、8一桂と打つねらい。
先手はここで、3九香と打つ。そこで後手は7四歩。(すぐに8一桂と打つ変化は後で)
そこで先手はあわてず(つまり3四香は指さず)、8一角と角を合わせるのがよい。以下、同角、同竜、5四角に、7二歩。
さらに、3六桂、同香、同角、2六桂、2五銀、3四歩、4四銀、3七桂(次の図)
変化8五玉図03
これは先手良し。
変化8五玉図04
7四歩に代えて、8一桂(図)の場合。このほうが先手にとって厳しそう。
先手は9二玉と逃げる。後手の狙い筋は9三飛だが、すぐに9三飛は、8二玉、9一飛、同玉で、これは先手にとって都合がよい。
なので後手は、9二玉に、7四歩。今度は9三飛、8三玉に、7三銀があって、それだと先手の竜はタダ取りされてしまう。
よって、7四歩には、8三金と受ける。
そこで後手は<1>7一桂と、<2>9四飛とが有力。
変化8五玉図05
まず<1>7一桂(図)。 以下、7二歩、8三桂、8一竜、6二金、8二金、6一金打、7一歩成、7三銀、9四桂(次の図)
変化8五玉図06
8一角、同と、7五桂、8三金、4四銀引、8二桂成、6九飛、3四香、9九飛成、2一角、3九飛、3三香成、同飛成、1二角成(次の図)
変化8五玉図07
これは「互角」。 ただし、先手に負けはなさそうだ。
変化8五玉図08
途中まで戻り、<2>9四飛(図)だとどうなるか、見ておこう。
9三金打、同飛、同金、同桂、3四香、4四銀引、8三銀(次の図)
変化8五玉図09
6二銀、2二飛、7一桂、7二角(次の図)
変化8五玉図10
これは先手が良さそう。
こうして総合的に見ると、後手は「変化8五玉図07」を選ぶことになり、「形勢互角」が結論となる。
変化4二歩図01
先手は「互角」が不満なら、あるいはこの〈ロ〉4二歩のほうを選ぶべきかもしれない。調べてみよう。
この図は、後手3二玉に、〈ロ〉4二歩としたところ。
ここでまず考えられる手は<a>4二同銀。 他には<b>8四歩、<c>8四金があるが、<c>8四金は同馬と取られ、先手持駒が「角金金」になると、後手玉が2二金、同玉、1一角以下詰んでしまうのではっきり先手良し。
<a>4二同銀から考えよう。
以下、同飛成、同金、そこで8五玉だ(次の図)
変化4二歩図02
やはり先手は“入玉”をめざす。先ほどと比較して、先手にも後手にも持駒が多くなっている。
後手8四金に、同馬、同歩、9四玉で、玉の“進撃”は止まらない(次の図)
変化4二歩図03
以下の予想手順は、4七角、9三玉、7四角成、8三銀、6三馬、3九香、7四歩、9二玉(次の図)
変化4二歩図04
図以下、3六桂なら、6一竜、6二歩、7二角で、先手優勢。この分かれは先手が良いようだ。
変化4二歩図05
戻って、先手8五玉に、7九飛(図)と手を変えたところ。(先ほどは8四金とした)
この手には、8三馬とすれば“入玉”できる。
以下、7四歩、9四玉、9九飛成、9三玉、9六竜、9四歩(次の図)
変化4二歩図06
先手は“入玉”できたし、大駒も三枚持っているので、先手良し。
後手陣が、4二飛成で飛車を切って銀と交換したことで、その分薄くなっているのも大きい。
変化4二歩図07
さらに戻って、後手が(<a>4二同銀ではなく)<b>8四歩(図)としてきた場合。
これは先手同馬ととり、7二桂に、5七馬。
変化4二歩図08
後手は6六歩(図)。 次は7五金、7七玉、6五桂のような狙いがある。
しかしそこで先手に好手がある。
変化4二歩図09
6三金(図)だ。 同金では3一飛成~5一竜で玉が詰んでしまうので、これは取れないし、次に5二金とする手がきびしい。
ただし、6三金には、6二金打がある。しかしそれには、5一竜、同金、同飛成(次の図)
変化4二歩図10
先手優勢である。
どうやら〈イ〉8五玉よりも、〈ロ〉4二歩のほうが先手にとって良いようだと判明した。
≪3三桂図≫(再掲)
以上の探査の結果、後手〔石〕3三桂には、9六歩、3二玉と進み、そこで先手〈ロ〉4二歩以下、「先手良し」、と結論する。
≪4二銀図≫
さて、「4一飛」に対する後手の手段は、〔岩〕4二銀(図)を残すのみ。
≪8二竜図≫
後手4二銀には、先手8二竜(図)がある。
この後は、次回に。
『終盤探検隊 part89』につづく
“4一飛”と打ちこんだこの闘い方を、我々(終盤探検隊)は、『黒雲(くろくも)作戦』と呼ぶことにした。
合戦で、劣勢になり、どうにも打開手段が見つからない時、黒い雲がもくもくとやってきて、雨を降らせ、運よく打開する―――そういうイメージで「黒雲」としたのである。
この“4一飛”は、3一飛成以下の“詰めろ”だが、後手はこれをどう受けるか。
[アートマンと暗黒星雲]
《《 釈迦から弥勒にいたるアートマンの系譜にヤマトタケル、お前があらわれたのが地球時間で千六百年前。
そしてお前は暗黒星雲をここまで遠ざけて地球を救い、別の持空間でもう一度われにあうことを約束した!
時は来た! さあ! 決断を下す時だ! お前とともにこの暗黒星雲はどこへでも行くであろう。 》》
「わからない、わからない! なぜそんな必要があるんだ。 ぼくにどうしろというんだ!」
(諸星大二郎作 漫画『暗黒神話』より)
諸星大二郎『暗黒神話』は、1976年『週刊少年ジャンプ』に発表され、連載された。連載としてはわずか6回で完結する話なのだが、中身が濃密である。当時の読者は、あまりに密度の濃い内容に圧倒され、そして惹き込まれていった。
「お前とともにこの暗黒星雲はどこへでも行くであろう」の“暗黒星雲”とは、オリオン座の方向にある有名な馬頭星雲のことで、馬の首の形をしている。そしてこの物語の中では、この馬頭星雲は“スサノオ”であり、主人公武(=ヤマトタケル)の意のままに従う存在となっている。
「參は猛悪にして血を好み…」という文章が『暗黒神話』の中にくり返し出てきて、スサノオの凶悪ぶりを表現しているが、これは作者諸星大二郎のつくった文とのことである。「参(しん)」というのは、オリオン座のことで、これは中国での呼び名。
『古事記』の中で伝えられるスサノオは、イザナギ神が、黄泉の国から脱出して日向において禊をしたときに最後に生んだ三貴神の一人で、アマテラス、ツクヨミと共に生まれた。アマテラスは高天原(たかまがはら)を、ツクヨミには夜の国を、そしてスサノオは海をおさめよと命じられた。
アマテラスが太陽、ツクヨミが月だとするなら、スサノオは「雲」であろう。(なぜかそのように述べている書がほとんどないが)
「雲」は海からやって来る。スサノオは父イザナギに「海をおさめよ」と言われていたにもかかわらず、陸にまでやってきて雨を降らせたり、日を照らすアマテラスを隠したりして、秩序を乱す。スサノオが泣くと雨が降るのである。雨は人々に恵みをもたらすこともするが、降りすぎるとやっかいだ。
スサノオはまた出雲でヤマタノオロチを退治するのだが、その怪物の尾の中から出て来た大刀が“天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)”である。出雲の「雲」、そしてこの刀の名前から、スサノオが「雲」の神であることは、明らかである。“叢雲”とは、雲がたくさん群がるという意味だし、“出雲”とか“八雲”も同じような意味である。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5a/80/88b63fb721f632b77ef56e26eb986b31.png)
【あ】5八同金 → 形勢不明
【い】3三歩
【う】7三歩成 → 後手良し
【え】9一竜 → 後手良し
【お】6五歩 → 後手良し
我々――終盤探検隊――はこの図から「先手の勝ち筋」を探しているが、まだ見つかっていない。
いま、【い】3三歩の道を進んでいる。
3三歩、同銀、3四歩、同銀、と進む(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1b/88/b72d0137927cb0514067144024653b0c.png)
ここで[A]7三歩成と、[B]9一竜が先手の候補手。しかし[A]7三歩成(白波作戦Ⅲ)は、前回の調査の結果、「後手良し」が確定した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/f0/bba372b99278109e226e33568220a5f7.png)
ということで、[B]9一竜(図)。 これが今回のテーマであるが…。
後手陣が「3二銀型」の時、9一竜について調べたが、それは「後手良し」だった。
今回は「3四銀型」である。その分、後手陣にスキがあり、そこに「先手の勝ち筋」を探している我々の期待がかかる。
この9一竜のねらいの基本は、先手玉の“入玉”である。
ところが、この図から、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩、9六歩、8四金と進んでみると――――(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/be/c7f5399c1ee1448be9c000c3e11df299.png)
やはり“入玉”は完全に封じられてしまっている。(この手順中、9四歩が好手で、これは「3二銀型」の時にすでに解説している)
先手はもう一工夫必要だった。
―――そこで『黒雲(くろくも)』の登場である。
〈黒雲作戦〉
≪9一竜図≫から、5九金、6六角、5五銀引、9三角成、9四歩まで進んだ時、“3三歩”と打つ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/75/46/3518f2e95e5e31f88c8c83775bc55f65.png)
『黒雲作戦』はまず、ここで“3三歩”(図)の手裏剣を飛ばす。
これには「3一歩」と受けるのが正着となるが、ほかに「同桂」や、「同玉」も一応ある。
それらの手にはどう指すのが良いのであろうか。まずその確認をしておこう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/cd/3615aa27bdd39b2bf3929c34a97bd766.png)
“3三歩”を「同桂」には、先手に二つ勝つ手があって、一つはこの3二歩(図)。
これは放っておくと3一角なのだが、同玉も1一飛があってダメ。となれば、後手は4二銀しかない。
そこで先手は4一飛。これも詰めろなので、後手は3一歩とするが、同歩成、同銀に、5四香(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/ba/957b0ef98d01fd019b1fcd454dca6b3d.png)
これではっきり先手優勢。 対して5三桂は無意味な受けで、1一角、3二玉、3一飛成、同玉、2二銀以下、後手玉“詰み”。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/27/fd/76ca9f6266684b01333b571559b7d5d6.png)
3三歩、同桂には、9六歩(図)でも、先手が良くなる。
この図、後手が何もしなければ、8五玉から“入玉”する。だからこの図では8四金としたいところ。
しかし8四金は、同馬、同歩、4一飛で、次の図となって―――
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/32/84/2ac4c19d473a53eb132a3e99dccabdaa.png)
先手玉は詰まず、後手玉は“詰めろ”で、しかも受けなしである。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2f/9f/e065d5810a33bd9c4142a4aefa1447a1.png)
では、先手“3三歩”に、「同玉」だとどうなるか。これには3一飛と打つ。
後手は4四玉か、3二歩だが、ます4四玉には―――
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/27/31bdc5b74f2837ea2f87bce04fae3720.png)
4五歩(図)がある。同銀なら3五金があり、同玉には3六角があって寄り。(5四玉には3四飛成)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/1d/17362873f336997a9be361ea1dc02b4a.png)
3一飛に3二歩とした場合は、1一角、2二桂、5七馬(図)が幸便な駒運び。
以下、6五桂なら、2一飛成、5七桂成、2二角成、2四玉、3九香で先手優勢。
4四玉の先逃げなら、たとえば2二角成、3三歩、9四竜、8四金、9二竜のような指し方で、先手良し。
そういうわけで、後手は(先手3三歩に)、「3一歩」と受けることになる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/76/b1/f57f097857e12fc7f711498c0acd7fae.png)
そうしておいて、“4一飛”(図)と打つのが、今回の作戦――黒雲(くろくも)作戦――である。
この“4一飛”は、3一飛成、同玉、3二金までの、“詰めろ”。
後手はそれを受ける必要がある。候補手は次の4つ。
〔砂〕3三玉
〔土〕4二金打
〔石〕3三桂
〔岩〕4二銀
しかし〔砂〕3三玉は、上で見てきた「3三歩に、同玉」の時と同様の順で先手良しになる。すなわち、3一飛成、4四玉、4五歩、同玉、3六角、の順である。
では、〔土〕4二金打はどうか。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/75/c8c4364fca3ff0d6662cf47b441063e7.png)
〔土〕4二金打と後手が金を打ったところ。
対して、先手は同飛成とするのではなく、8五玉が正着。もともと4一飛と打ったのは、この飛車を犠牲に、“入玉”するという狙いであった。後手が持駒の金を使ったので、“入玉”が可能になった。
8五玉、4一金、9四玉、7七飛(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/70/cf/c7b4cc2a9e43e8933f95006108dd1cd3.png)
8三玉、7四飛成、9二玉、4六銀、3九香、3五桂、同香、同銀直(同銀引は5七馬がある)、7二歩、5五銀上、7一歩成、3三玉、1一角、3四玉、2二角成、6六歩、2一馬、4五玉、1二馬、3二金(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/4f/8a62dbb77fd1ef51759b77645ab0f774.png)
一例だが、こういう展開になる。どうやら先手は負けはなさそうだが、後手玉の“入玉”を阻止するのも難しく、“相入玉”になりそうだ。うまくいけば、「点数勝ち」も望めるが、その可能性は低そうに思う。“持将棋引き分け”が濃厚だろう。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/8b/e82ac7799a20aa8df982d9aad6ebbd19.png)
〔石〕3三桂(図)。 これでひとまず詰みを防ぎ、3二玉から飛車を取りに行くのが後手のねらい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/24/65/4b00567f4a428c6fff5264d27b7dce5c.png)
対して、先手は9六歩(図)がその対策である。
この手は、「次に8五玉から入玉するぞ」という手である。後手が(u)3二玉なら、8五玉だ。
その順が本筋だが、その前に、(v)8四金、(w)8四歩でどうなるかを見ておこう。
(v)8四金なら、先手の『黒雲作戦』のねらいにハマる。8四金は、同馬と取る。
以下、同歩なら、1一角、3二玉、3一飛成、同玉、2二金、4一玉、3二金打で詰むというわけだ。
つまり『黒雲作戦』は、4一に飛車を打ち込むことによって、8四金を打たせないようにし、8五玉からの“入玉”を実現させようという作戦なのだ!
8四金、同馬に、3二玉の場合は、5一竜(次の図)とする。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/49/12/923c9e4a1b4f15474b48b9c4bf19f968.png)
このケースでは飛車を渡してもまだ先手玉は詰まないので、これで先手の勝ちが決まる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/07/5f/696e71a2d79718ea73ee7063667e14bd.png)
(w)8四歩という手もある。これは、同馬に、7二桂と打って、この桂で先手の入玉を止めようという意図だ。
8四歩、同馬、7二桂、5七馬、3二玉(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5e/34/d41736ff2890b3c9b366e46bdaf348e4.png)
しかし7二桂には、5七馬で、先手良し。後手は3二玉(図)と飛車を取りに来たが、これにはやはり5一竜でよい。以下、7五金、6七玉、5一金、同竜と進んで、次の図。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/c2/2665e59101587e63c02fb4ec0c73241d.png)
後手玉には“詰めろ”がかかっており、先手勝ち。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/78/5b/08d2d2c1053861a2c3adc91ef61a1c93.png)
どうやら先手の“入玉”を防ぐのは難しいようなので、後手は(u)3二玉を選んでこの図。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6b/3e/9795fead00ea8f74381e76471737c480.png)
もちろん先手は〈イ〉8五玉(図)。
(ただしこの手に代えて〈ロ〉4二歩も有力で、その変化は後で見ていくことにする)
8五玉以下の想定手順は、8四金、同馬、同歩、9四玉、4一玉、9三玉、5四角(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/3d/b0ff4f3699b036a02e335b6c12da850d.png)
この5四角は、8一桂と打つねらい。
先手はここで、3九香と打つ。そこで後手は7四歩。(すぐに8一桂と打つ変化は後で)
そこで先手はあわてず(つまり3四香は指さず)、8一角と角を合わせるのがよい。以下、同角、同竜、5四角に、7二歩。
さらに、3六桂、同香、同角、2六桂、2五銀、3四歩、4四銀、3七桂(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/33/a3/deb92d9a1cf08e58e8016d1347db011b.png)
これは先手良し。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6f/50/b859caab1c1a4d3846dfae2e032d7323.png)
7四歩に代えて、8一桂(図)の場合。このほうが先手にとって厳しそう。
先手は9二玉と逃げる。後手の狙い筋は9三飛だが、すぐに9三飛は、8二玉、9一飛、同玉で、これは先手にとって都合がよい。
なので後手は、9二玉に、7四歩。今度は9三飛、8三玉に、7三銀があって、それだと先手の竜はタダ取りされてしまう。
よって、7四歩には、8三金と受ける。
そこで後手は<1>7一桂と、<2>9四飛とが有力。
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まず<1>7一桂(図)。 以下、7二歩、8三桂、8一竜、6二金、8二金、6一金打、7一歩成、7三銀、9四桂(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/1d/ad/cb0928c2c42447d7bf237dbc1ac132b6.png)
8一角、同と、7五桂、8三金、4四銀引、8二桂成、6九飛、3四香、9九飛成、2一角、3九飛、3三香成、同飛成、1二角成(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/04/2a/aae1e4bc7fb888cebe3a0315a0946da2.png)
これは「互角」。 ただし、先手に負けはなさそうだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/22/2f/b99e1a9ba3e78a23c886361f1c35b7cd.png)
途中まで戻り、<2>9四飛(図)だとどうなるか、見ておこう。
9三金打、同飛、同金、同桂、3四香、4四銀引、8三銀(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/9a/1bba95222fb40c189860679f73915ce8.png)
6二銀、2二飛、7一桂、7二角(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/5c/ae/09582aa5dd686fb26dbd00313b61471c.png)
これは先手が良さそう。
こうして総合的に見ると、後手は「変化8五玉図07」を選ぶことになり、「形勢互角」が結論となる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2d/f8/620d88594027a1d1f5102fce6bc9569a.png)
先手は「互角」が不満なら、あるいはこの〈ロ〉4二歩のほうを選ぶべきかもしれない。調べてみよう。
この図は、後手3二玉に、〈ロ〉4二歩としたところ。
ここでまず考えられる手は<a>4二同銀。 他には<b>8四歩、<c>8四金があるが、<c>8四金は同馬と取られ、先手持駒が「角金金」になると、後手玉が2二金、同玉、1一角以下詰んでしまうのではっきり先手良し。
<a>4二同銀から考えよう。
以下、同飛成、同金、そこで8五玉だ(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2a/7f/cd48476d3819f6f4c26571e9c9db1de3.png)
やはり先手は“入玉”をめざす。先ほどと比較して、先手にも後手にも持駒が多くなっている。
後手8四金に、同馬、同歩、9四玉で、玉の“進撃”は止まらない(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/46/a88ae7870f11a9a1ac67cc3b70dd70b3.png)
以下の予想手順は、4七角、9三玉、7四角成、8三銀、6三馬、3九香、7四歩、9二玉(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/47/b6/e69a4927b2981610fa04193a1763140d.png)
図以下、3六桂なら、6一竜、6二歩、7二角で、先手優勢。この分かれは先手が良いようだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/00/fff9456f2a849f73c91af831751e28ff.png)
戻って、先手8五玉に、7九飛(図)と手を変えたところ。(先ほどは8四金とした)
この手には、8三馬とすれば“入玉”できる。
以下、7四歩、9四玉、9九飛成、9三玉、9六竜、9四歩(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/35/2f/bd84df882bfca582ae67c66a90971ab8.png)
先手は“入玉”できたし、大駒も三枚持っているので、先手良し。
後手陣が、4二飛成で飛車を切って銀と交換したことで、その分薄くなっているのも大きい。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4d/7a/6aeb1b6332062b16a735636c11d62ba3.png)
さらに戻って、後手が(<a>4二同銀ではなく)<b>8四歩(図)としてきた場合。
これは先手同馬ととり、7二桂に、5七馬。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/51/fd/005fcce75a1e37c69ad709ba5e5bbd8e.png)
後手は6六歩(図)。 次は7五金、7七玉、6五桂のような狙いがある。
しかしそこで先手に好手がある。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/0e/3d/ed54973fd4b822255f548021d69f87cb.png)
6三金(図)だ。 同金では3一飛成~5一竜で玉が詰んでしまうので、これは取れないし、次に5二金とする手がきびしい。
ただし、6三金には、6二金打がある。しかしそれには、5一竜、同金、同飛成(次の図)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7c/3a/b3b0eebecb0cc0e43bc87dd5e8416d74.png)
先手優勢である。
どうやら〈イ〉8五玉よりも、〈ロ〉4二歩のほうが先手にとって良いようだと判明した。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/69/8b/e82ac7799a20aa8df982d9aad6ebbd19.png)
以上の探査の結果、後手〔石〕3三桂には、9六歩、3二玉と進み、そこで先手〈ロ〉4二歩以下、「先手良し」、と結論する。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/36/62/2fe199c738c5098c1f115646fdf46022.png)
さて、「4一飛」に対する後手の手段は、〔岩〕4二銀(図)を残すのみ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/37/9187b7dc9df092db1dea690d676b007a.png)
後手4二銀には、先手8二竜(図)がある。
この後は、次回に。
『終盤探検隊 part89』につづく
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