「画かき」の登場する話ということで、宮沢賢治『かしわばやしの夜』から。
清作が夕暮れに歩いていますと、向こうの柏ばやしのほうから
「ウコンのしゃっぽのカンカラカンのカアン。」
とどなるのがきこえました。みると赤いトルコ帽の画かきがぷりぷり怒って立っていました。清作は、画かきに歩き方を馬鹿にされたので喧嘩してやろうとおもってどなりました。
「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」
すると画かきは「うまい。じつに、うまい。」と清作をほめ、林のなかをあるこうとさそいます。
二人は十九本の手をもつ柏の木大王のところへ行きました。大王は画かきにいいました。
大王「もうお帰りかの。待ってましたじゃ。そちらは新人らしい客人じゃな。が、その人はよしなされ。前科者じゃぞ。前科九十八犯じゃぞ。」
清作(怒って)「うそをつけ、前科者だと。おら正直者だぞ。」
大王「なにを。証拠はちゃんとあるのじゃ。また帳面にも載っとるんじゃ。貴さまの悪い斧のあとのついた九十八の足さきがいまでもこの林の中にちゃんと残っているのじゃ。」
清作「あっはっは。おかしなはなしだ。九十八の足さきというのは、九十八の切株だろう。それがどうしたというんだ。おれはちゃんと、山主の藤助に酒を二升買ってあるんだ。」
大王「そんならおれにはなぜ酒を買わんか。」
清作「買ういわれがない」
大王「いや、ある、沢山ある。買え」
清作「買ういわれがない」
画かき「おいおい、喧嘩はよせ。まん円い大将に笑われるぞ。」
東のとっぷりとした青い山脈の上に、大きなやさしい桃いろの月がのぼったのでした。
『かしわばやしの夜』は1922年8月の作品で、賢治が自費出版した『注文の多い料理店』に収められています。この本は1924年12月に発行されたのですが、さっぱり売れませんでした。
上の文は、『かしわばやしの夜』の導入の部分を略して書いたものです。この後は、清作と画かきと柏の木々、それからふくろうの大将も加わって、月の下で歌って踊っての大宴会となります。しっかり読んでみると、どうしてこんなセリフが生まれてくるのかまったくこれは人間わざじゃないなって思います。脱帽です。カンカラカンのカアン、です。
この話の中で、清作を「柏の林」の夢世界へと誘ったのが「画かき」です。つまり、清作は『柏の林をかいた絵』の中にすいこまれて、柏の木どもとしゃべり喧嘩をし歌い踊ったというわけです。
そういう、ちからのある絵を描きたいものです。
清作が夕暮れに歩いていますと、向こうの柏ばやしのほうから
「ウコンのしゃっぽのカンカラカンのカアン。」
とどなるのがきこえました。みると赤いトルコ帽の画かきがぷりぷり怒って立っていました。清作は、画かきに歩き方を馬鹿にされたので喧嘩してやろうとおもってどなりました。
「赤いしゃっぽのカンカラカンのカアン。」
すると画かきは「うまい。じつに、うまい。」と清作をほめ、林のなかをあるこうとさそいます。
二人は十九本の手をもつ柏の木大王のところへ行きました。大王は画かきにいいました。
大王「もうお帰りかの。待ってましたじゃ。そちらは新人らしい客人じゃな。が、その人はよしなされ。前科者じゃぞ。前科九十八犯じゃぞ。」
清作(怒って)「うそをつけ、前科者だと。おら正直者だぞ。」
大王「なにを。証拠はちゃんとあるのじゃ。また帳面にも載っとるんじゃ。貴さまの悪い斧のあとのついた九十八の足さきがいまでもこの林の中にちゃんと残っているのじゃ。」
清作「あっはっは。おかしなはなしだ。九十八の足さきというのは、九十八の切株だろう。それがどうしたというんだ。おれはちゃんと、山主の藤助に酒を二升買ってあるんだ。」
大王「そんならおれにはなぜ酒を買わんか。」
清作「買ういわれがない」
大王「いや、ある、沢山ある。買え」
清作「買ういわれがない」
画かき「おいおい、喧嘩はよせ。まん円い大将に笑われるぞ。」
東のとっぷりとした青い山脈の上に、大きなやさしい桃いろの月がのぼったのでした。
『かしわばやしの夜』は1922年8月の作品で、賢治が自費出版した『注文の多い料理店』に収められています。この本は1924年12月に発行されたのですが、さっぱり売れませんでした。
上の文は、『かしわばやしの夜』の導入の部分を略して書いたものです。この後は、清作と画かきと柏の木々、それからふくろうの大将も加わって、月の下で歌って踊っての大宴会となります。しっかり読んでみると、どうしてこんなセリフが生まれてくるのかまったくこれは人間わざじゃないなって思います。脱帽です。カンカラカンのカアン、です。
この話の中で、清作を「柏の林」の夢世界へと誘ったのが「画かき」です。つまり、清作は『柏の林をかいた絵』の中にすいこまれて、柏の木どもとしゃべり喧嘩をし歌い踊ったというわけです。
そういう、ちからのある絵を描きたいものです。
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