≪最終一番勝負 第25譜 指始図≫ 5六とまで
指し手 ▲7三歩成
[剃刀研ぎと鏡研ぎが酒を飲んだ十九日の夜に]
「まあ何にしろ変な訳さ。今に見ねえ、今日もきっと誰方どなたか取りにござる。いや作平(さくべい)さん、狐千年を経(ふ)れば怪をなす、私(わっし)が剃刀研(かみそりとぎ)なんざ、商売往来にも目立たねえ古物(こぶつ)だからね、こんな場所がらじゃアあるし、魔がさすと見えます。
そういやあ作平さん、お前さんの鏡研(かがみとぎ)も時代なものさ、お互(たげえ)に久しいものだが、どうだ、御無事かね。二階から白井権八の顔でもうつりませんかい。」(注:白井権八は江戸時代の歌舞伎作品中の有名なキャラクター)
その箱と盥(たらい)とを荷(にな)った、痩(やせ)さらぼいたる作平は、蓋(けだ)し江戸市中世渡(よわたり)ぐさに俤(おもかげ)を残した、鏡を研いで活業(なりわい)とする爺(じじい)であった。
(『註文帳』泉鏡花著 より)
時は明治時代。場所は吉原。東京(江戸)の遊里である。
この話の中心にいる人物は、研屋(とぎや)の五助である。吉原の揚屋町(あげやまち)で剃刀研ぎ(かみそりとぎ)の仕事を引き受けている。吉原の遊女の「剃刀」を預かって研いで返す仕事であるが、その「剃刀」がこの怪異な話の主役である。
その日はたいへんに寒い日で、如月(きさらぎ)の「十九日」だった。
五助のところに捨吉という男が剃刀を急ぎで欲しいとやってきた。五助は断った。理由はその日が「十九日だから」という理由である。五助は毎月十九日は仕事をしないと決めていたのだ。
そのわけを五助は捨吉に話す。五助の仕事は遊女から預かった「剃刀」を研ぐことだが、四、五年前から、仕事中にその「剃刀」が紛失するということが月に一度起こった。それが決まって「十九日」なのである。その消えた「剃刀」は、依頼した遊女の鏡台の上に置いてあったりした。それだけならまだしも、変なところに置いてあってだれかがそれで怪我をしてしまうというようなこともあった。
そういうことがあって、五助は「十九日は仕事をしない」と決めたのである。
捨吉は帰り、入れかわりに鏡研ぎ職人の作平(さくべい、六十歳くらい)が入ってきた。通りかかったとき、五助と捨吉の会話の「十九日」と「剃刀」の言葉を耳にして気になって入ってきたのであった。
作平は、自分が最近受けた仕事の話を始めた。それは麹町(こうじまち)辺りのある家の家宝として大切にしている「八寸の鏡」を研ぐ仕事だった。
その「鏡」というのは、何年か前のある日吉原で起こった「心中事件」に関係している。客である男に対してある遊女がその男を殺して自分も死のうと「無理心中」を計った。結果、男は命を取りとめ、遊女は死んだ。遊女は、その男のノドを「剃刀」で突き、返す刀で自分を突いたのだった。もともとその女は武術の心得があったのだという。
ところが男はたまたま女が使っていた「鏡」を持っていて、それが偶然に命を救ったというのだ。女は「心中」が失敗に終わったことがわかって「口惜しい口惜しい」といいながら死んでいった。
その「心中未遂事件」が起こったのが、明治八年霜月のやはり「十九日」だったというのである。作平が五助の「十九日」の話に気をひかれて足を止めたのは、そういう心中未遂話を聞いていたからなのだった。
その男は、これに懲りて、以来、吉原通いをやめたという。
男の命を救ったその「鏡」は、その後その家の家宝となった。そして時を経て、それを「特別に念入りに研いでほしい」という依頼で、先日作平のところに持ち込まれたというわけである。
その作平の話を聞きながら、五助はふと分厚い註文帳を開き、なぜか剃刀研ぎの仕事を一件はじめる気になった。急ぎではないが特別に念入りに研ぎたい「剃刀」があった。本来は十九日は仕事をしないはずだったが、「不浄除よけの別火(けがれを浄化すること)にして、お若さんのを研ごうと思って」といい、また「この剃刀の持ちぬしは遊女ではないし廓内(くるわうち)に住んでいないから大丈夫だろう」というような理由をつけて。
それは、吉原の紅梅屋敷という屋敷に住んでいる十八歳の器量よしの娘お若の「剃刀」だった。
ところが、その「お若の剃刀」がやはりなくなってしまう。
「剃刀」をさがす五助の前に、女の幽霊が現れる―――。
幻のその女は、「これでしょう」と言う。 その手に、「お若の剃刀」があった。
外は雪が降りはじめていた。
そして――――
その日(十九日)の深夜、「心中事件」が起こったのである。紅梅屋敷で。
女はお若である。
相手の男は欽之助という名の若者だったが、吉原に客として遊びに来たわけではなかった。
欽之助はその日、四谷で、彼をドイツ留学に送るための宴会が開かれたが、帰りの人力車が横転したりといろいろあって、気づくとなぜか吉原に一人で来てしまっていたのであった。欽之助も酔っていてしっかりとはおぼえていないが、次につかまえて乗った人力車の車夫が、欽之助の言葉を聞き間違えたか何かで吉原へ運ばれたようだ。気がつくと雪景色の夜の吉原。車夫に四谷に戻してくれといっても、雪は降っているし、もうへとへとに疲れて動けないという。
他の車はないかと欽之助は吉原を歩くが、どうにもならず。寒いし、道はわからない。
そこに女(遊女の幽霊)が現れて、その女もなにやら困っている様子にみえたので欽之助が声をかけると、女は「これを紅梅屋敷に届けてくれないか」という。(紙に包んだ“これ”の中身はあの「お若の剃刀」であった)
紅梅屋敷の門を叩いた若者は招き入れられ、こたつに入って、若者のこの日に起こった事情を聞いて、同情したお若と家の者は、欽之助に泊っていくよう勧める。
やがて、この初対面の男女―――欽之助とお若(美男と美女であった)―――が突然に「心中事件」を起こす結末にとなったのである。
自分の「剃刀」を手にした途端、娘が、突然にこの顔の美しい若者に恋心を燃やし、永遠に自分のものにしたいと、その「剃刀」を手にもって眠っている若者に襲いかかったのであった。
もし欽之助があの「鏡」を持っていたなら、彼は死なずにすんだかもしれない。「送迎会で友人たちに吉原に行こうというようなノリになったらまずい」と心配した欽之助の叔母が、家宝の「鏡」をなんとか欽之助に持たせようとしたのだが、(彼はその「鏡」にまつわる因縁話を叔母から聞いて知ってはいたが)それを持って行かなかったのだった。欽之助は吉原に行くつもりなどまったくなかったので、「鏡」は必要ないと思ったのだろう。
この若者は、作平の話の中の、あの「吉原心中未遂事件」で遊女に刺された男の甥だったのである。
五助と作平は酒を飲んで眠っていたが、五助が「お若が男を剃刀で刺す夢」を見て飛び起きた。夜中の二時であった。五助と作平、あわてて紅梅屋敷へと駆けつけたが、時すでに遅し。
「心中」は遂げられていたのであった。
お若は即死。しかし深手を負った若者欽之助は、まだしばしの時間息があった。その命が尽きる前に、お若を娶ることを決め、二人は夫婦として死んでいくのである。
五助と作平、二人の職人は泣きながら、「おめでてえな」「お若さん喜びねえ」と祝福するのであった。
以上が泉鏡花『註文帳』のあらすじである。この作品の初出は明治34年(1901年)
構成の面白い話だと思うが、それにしても、“註文帳” のタイトルは渋すぎるのではないか。 “十九日” とか “失せる剃刀” のほうがわかりやすくてよい気がするが、どうだろうか。現代なら“吉原剃刀心中事件”か。
ところで、欽之助は23、4の年齢とあるが、この小説の中ではたびたび「少年」と書かれている。「少年」の定義が今と感覚的に違うようだ。(このあらすじでは「若者」と書き直した)
なお、泉鏡花の「鏡」の字は、「鏡」に何かこだわりがあってのペンネームかと思いきや、単に本名が泉鏡太郎だからなのであった。
<第25譜 逢魔が時間>
指始図 5六とまで
さて、「亜空間戦争一番勝負」、後手≪亜空間の主(ぬし)≫の△5六とに、先手の我々の予定は▲8七玉であった。
その前に▲8六歩とした手を生かすためにも、それが自然と思えたし、とりあえず「9七」まで玉を移動させてから攻める―――というのが、先手番をもつ我々終盤探検隊のビジョンであった。
それなのに、我々はなぜか、ここで“▲8七玉”を指さなかったのである!!!!
それはなぜか――――ということを答えたいと思うのだが、我々は(戦いを終えたいまも)その理由を説明できないのである。
なぜなら、“覚えていない”からだ。
この局面で、我々自身が何を考え、何を思って「別の手」を選択してそれを指したのか、思い出せないのである。
覚えていることは、この局面になる前から、そしてこの局面になった瞬間まで、「8七玉と指そう」と考えていたこと。たしかにそう考えていたのだ。
とりあえず、この図についての“調査報告”を最後まで終えるとしよう。
≪指始図≫5六とまで
今回の調査の進捗状況は、この通り。
【子】3三歩成 → 後手良し
【丑】2五香 → (互角に近いが)後手良し
【寅】2六香 → 後手良し
【卯】4一角 → 結論保留(調査中)
【辰】5四歩 → 後手良し
【巳】6七歩 → 「互角」(持将棋の可能性あり)
【午】8七玉 → これから調査
【未】7三歩成
8七玉図
【午】8七玉(図)が今回の調査テーマである。
ここで、≪A≫6六と が想定される手。 ほかに ≪B≫6六銀 がある。
A6六と図
≪A≫6六と(図)。
ここで本命は“早逃げ”の「9七玉」である。
(他には、「7八香」も有力な手だが、検討の結果、難しいところは多いが、7五桂以下「後手良し」が結論となった。その解説は省略する)
A9七玉図
「9七玉」まで逃げておいて、ここからさあ戦おうということである。
ここで後手が何を指すか。 考えられるのは、次の3候補手である。
[E]7五桂
[F]7六と
[G]7七と
A7五桂図
[E]7五桂(図)
4一角と打っていく。 以下3二歩に、3三歩成から攻める(代えて3三香はこの場合は3一銀、5二角成、7六とで後手良しになる)
3三同銀に、5二角成(次の図)
変化7五桂図01(5二角成図)
ここで後手の対応手が問われるところ。次の6つの手が考えられる。
(1)5二同歩、(2)4二銀左、(3)4二銀右、(4)8一桂、(5)7六と、(6)7七と
まず(1)5二同歩から。 その手には、3一飛と打つ(次の図)
変化7五桂図02
「3一」に打って、3四銀には4一竜を用意した。
後手は8一桂(これしか受けがない)。
同竜、8七桂成、同玉、5四角(次の図)
変化7五桂図03
これで王手竜取りだが、実質後手の「角桂桂」と、先手の「飛」との交換になり、後手は二枚の桂を使い果たしてしまった。
8八玉、3八飛、7八香(次の図)
変化7五桂図04
6七ととしても、詰めろではないので、3一金として先手勝ち。
受けるなら4二銀右だが、先手3四歩と打って、同飛成なら2六桂、4四銀なら1五桂が着実な寄せとなる。
(1)5二同歩は先手良しとわかった。
変化7五桂図05
(2)4二銀左には、4一馬(図)と潜りこんでおく。
以下、7六と、8八香、8七桂成、同香、7五桂、7九桂、6六銀、3三歩(次の図)
変化7五桂図06
3三歩(図)で、後手“受けなし”。
3三同玉なら、3五飛。 3三同桂には、5一竜。
変化7五桂図07
(3)4二銀右には、3四歩(図)で、先手良しだ。
変化7五桂図08
このタイミングで(4)8一桂(図)とする手もある。これを同竜は、あやしくなる。
この手には4一馬で先手が良い。
以下7七とには9八金としっかり受ける(8九香と受けるのは9三桂で角を取った手が先手玉の詰めろなので逆転する)
9三桂に、3一飛(次の図)
変化7五桂図09
先手勝ち。
(5)7六とには、8八香と受ける(8九香には7七桂があるので8八に打った)
以下8七桂成、同香、7五桂、7九桂、8七桂成、同桂。
そこで5二歩。先手はやはり3一飛。
後手8一香(次の図)
変化7五桂図10
8一同竜がわかりやすい。以下、8七と、同玉、5四角、6五歩、8一角、同飛成。
このケースは、後手の盤上にいた「と金」が桂馬と交換になり、後手の攻め駒が「飛桂」になる。
5七飛、9八玉、5八飛成、8八香、7六桂、8七金(次の図)
変化7五桂図11
後手の攻めは止まり、先手優勢がはっきりした。
このままなら先手3一金があるので、ここは後手8八桂成、同金、4二銀右が予想されるが、1五桂と打てば後手は適当な受けがない。
(5)7六とは8八香で先手良しになった。
変化7五桂図12
(6)7七と(図)
この手に8九香と受けるのは、先手負けになる。5二歩と角を取って、先手玉に8七桂成、同香、7九角から詰みがあるからだ。つまり8九香は受けになっていないのだ。
といって、9八金と受けても、8七桂成、同金、同と、同玉、7五桂以下、良いタイミングで5二歩と角を取られて先手が勝てない。
そうするとここは受けがないようにも思えるが、4三馬があった(次の図)
変化7五桂図13
(6)7七とには、奇跡的にこの4三馬(図)があった!
6五歩なら、8九香と受けておく。以下、4二銀右、5四馬となるが、そこから後手の有効な攻め手がないので、先手が優勢。先手のほうは9二竜や3七桂など有効手が多い。
よって後手は、この図から、4二銀右、9八馬の後、8七桂成から清算して馬を消しに来る。
8七桂成、同馬、同と、同玉、7五桂、9七玉(次の図)
変化7五桂図14
さて、ここでどっちの形勢が良いのか。
ここは後手の候補手が多い。(9五歩、6五角、6九角、6六銀など)
6五角、8八金(6六銀に対しても8八金と受ける)、9五歩、4三歩(次の図)
変化7五桂図15
4三同銀、5一竜、9六歩、同玉、2九角成(次の図)
変化7五桂図16
8四馬、同歩、7一飛、4一歩(次の図)
変化7五桂図17
4一同竜は7四馬がある。
7三歩成、9四歩、7四と(次の図)
変化7五桂図18
形勢は先手良し。
変化7五桂図14(再掲)
少し戻って、後手7五桂に9七玉の場面。最新ソフトの評価値は[-112 互角]を示している。
ここは“6五角”以外にも後手の有力手がある。
“6六銀”には、8八金と受ける。以下9五歩に、4三歩で先手が良さそうだ。
“9五歩”、4三歩、6九角、8八金、9六歩、9八玉という展開もある。以下9七歩成、同玉、9五金には、7五馬があって先手が良い。
この図は(先手が悪くなる順が見つからないので)「先手良し」としておく。
よって、(6)7七とも4三馬があって、先手良し、という結論になる。
変化7五桂図01(再掲5二角成図)
これでこの「5二角成図」は「先手良し」が確定した。
つまり、[E]7五桂 には、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成と攻めて先手良しである。
変化7六と図01
[F]7六と(図)
この手にも、同じように攻めていく。
4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成までは進む。
そこで7五桂では、上と同じになる。(それは先手良し) なので、他の手があるかどうか。
変化7六と図02
7五金(図)でどうか。
この手は8六金以下詰めろなので、先手は受けることになる。
変化7六と図03
8九香(図)と受けて、どうやら先手良し。
5二歩には、3一飛。そこで7九角には、9八玉と逃げておけばよい。
変化7六と図04
[G]7七と(図)
今度は、いままでの場合と事情が異なる。同じように攻めていくと先手失敗に終わる。すなわち、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛だと、7九角から詰まされてしまう。
だからといってここで8九香と受けても、7五桂と打たれると、同じように進んだ時、8七桂成、同香、7九角があるので、やはり攻めていけない。
そうすると、「別の攻め」があるかどうかだが―――。
見つかった!! 「4一角、3二歩」まで決めて、「3七飛」と打つ(次の図)
変化7六と図05
「3七飛」(図)は攻防の飛車打ちである。後手6六銀なら―――(次の図)
変化7六と図06
3三香(図)で先手優勢になる。
3三同桂に、そこで8四馬と金を取る。
8四同歩に3三歩成、同銀、3二角成、同玉、3一金(次の図)
後手玉が詰んだ。
このように、後手[G]7七と の手には、「4一角、3二歩、3七飛」が有効なのだが、この手順の発見はそう簡単ではなかった(最新ソフトも示していない手順である)
なお、最初の「4一角、3二歩」を入れずに“単に3七飛”では、6六銀で先手苦戦となる。そこで4一角は3一歩と変化して受けられる。
「4一角、3二歩、3七飛」の手順が大事なのである。
変化7六と図07
「3七飛」に、4四銀上のような受けだけの手では、7七飛と「と金」を払われて後手は希望がない。
そこで7五桂(図)が後手の工夫の手。
7七飛と「と金」を取る手に、6七歩(代えて6六銀では3七飛と戻って後手がまずい)
そこで7九飛(5九の金取り)なら、6六銀で後手が良い―――これが後手の狙いだが―――
しかし7六飛がある(次の図)
変化7六と図08
7六飛と飛車を一つ浮けば、いつでも3筋に飛車を戻せるし、2筋の攻めも狙える。
6八歩成に、2六飛、7八と、2五香と進めば、1一桂に、2三香成、同桂、2四金で、先手勝勢となる。
図で6六桂には、2六香と打っておき、次に7五飛と桂馬を取って1五桂と打つ手を狙いにする。
[G]7七と には、「4一角、3二歩、3七飛」で先手良し。
そうなれば先手が良いとわかったのだが、しかし、後手に途中で「変化」する手がある。
変化7七と図01
最初の4一角に、「3一歩」(図)とする手があるのだ。
これにも3七飛でよさそうに思えるが、以下6七歩、3六香、4四銀引となると、形勢不明である。
この図での正着は、「7三歩成」である。
変化7七と図02
「7三歩成」(図)の具体的なねらいは、7八歩、同と、6三とのような筋である。
「7三歩成」を、同銀 なら、2五飛、3二歩、5五飛で先手が良い。
ここで後手の有力手は、7五桂 と 7五銀。
7五桂、8九香に、「7六歩」。
ここで6三とは、8七と、同香、7七歩成で、後手の攻めが早く、先手が負ける。
「7八歩」が正着(次の図)
変化7七と図03
7八同とに、6三とではやはり7七歩成で後手の攻めが厚く、先手勝てない。
ここは8三とが正解手。
以下、7四金に、9五歩(次の図)
変化7七と図04
8九となら、9六玉。 9五同歩には、8五歩と突いて、次に8六玉~9五玉の“入玉”狙い。
この図は、先手優勢。
(入玉を阻止するため9五同歩、8五歩に、7三桂と打つのは、同と、同銀、2六飛、3二歩、1五桂で、先手勝ち)
「7八歩、同と、8三と」が好手順であった。
変化7七と図05
後手の工夫。「7五桂、8九香」に、「6五銀」(図)
ここで2五飛と打ちたくなる。しかしそれは3二歩、5五飛、7六銀で、後手が良い。これは先手が後手の“わな”に嵌まったパターン。
ここは「2六飛、3二歩、7八歩」が正解手順になる(次の図)
変化7七と図06
2六飛と打ったのは、7八とを同とと取らせた後、後手の7六銀を指させないという意味である。(“7六に銀を出させない”というのがここは急所なのだ)
「7八同と」なら、先ほどと同じように、8三と、7四金、9五歩の“入玉”狙いで先手良し。
ここは7八歩に、「7六と」を見ていこう。
「7六と」と引かせ、後手の銀は7六に出てこれないようになった。それが7八歩を打った効果である。
ここで6三とを決行する。
8七桂成、同香、7五桂、9八金(次の図)
変化7七と図07
こうなると先手には5二との攻めに加えて、3五桂もある。
なので、8七と、同金、同桂成、同玉、3五金のような展開になりそうだが、5二と、2六金、5三とは、先手優勢である。
変化7七と図08
「7三歩成」に、7五銀(図)
銀が出てきた場合は、ここでも2六飛と打っておくのがよい。以下、3二歩に、「8九香」(次の図)
変化7七と図09
ここで7六銀は7八歩で先手良し。
後手 8七桂 という手がある。同香なら、7六銀と出ようという意味で、そうなると後手の調子が良い。
8七桂は放置して、6三とと攻めあう。以下、9九桂成、5二と、9五歩(同歩なら9四歩から香車を打つ攻めを狙う)
そこで8四馬がある(次の図)
変化7七と図10
8四同銀に、3三金、同銀(同桂は2一金から詰み)、同歩成、同玉、3二角成(次の図)
変化7七と図11
後手玉は詰んでいる。3二同玉には、3六飛から。4四玉には、3四金(同玉には2三馬、5四玉には4三馬以下)で。
変化7七と図12
「8九香」のところまで戻って、6六銀左 もある。
この手は、次に7六ととして、7七銀成から銀を使うねらいである。
先手は6三と。
後手の7六とに、7八歩。銀の進出を防ぐ。
そこで7七歩なら、5二と、7八歩成、5三と(3三銀からの詰めろ)で、先手良しになるが―――(次の図)
変化7七と図13
7七桂(図)という手がある。
これを同歩と取って、同銀成に、9八桂と受ける手はあるが、6六桂が好手(次に8七と、同香、7六銀をねらう)で、後手が勝つ。
ここは8八香が最善の対応で、以下8九桂成に、5二と。
6三と~5二との攻めで認識しておきたいのは、このときに「金金」ではまだ駒が足らないが、これに「銀」が加わると、5二とのときに、後手玉は3二角成、同銀、4一銀以下の“詰めろ”になるということである。つまり今は「銀」が足らないが、その銀は6六にある。
8八香、8九桂成、5二との後、8八成桂、同玉、7七歩と進み、先手玉はほぼ“受けなし”の状況に追い込まれるが―――(次の図)
変化7七と図14
6六飛(図)と銀を取って、“詰めろ逃れの詰めろ”である。先手勝ち。
[G]7七と は4一角以下先手良し、が結論となる。
A9七玉図
[E]7五桂 → 先手良し
[F]7六と → 先手良し
[G]7七と → 先手良し
先手は、後手のこの3つの手にたいして、勝ち筋があることがわかった。
よって、【午】8七玉 に、6六と、9七玉 と進んだこの図は、先手良し。
B6六銀基本図
次に、先手の 【午】8七玉 に、 ≪B≫6六銀(図)を考えたい。
感覚的には、6六銀よりも6六とのほうが勝る手に思えるが、実際に調べると、6六銀のほうがよいケースもあるということがわかってくる。「たぶん勝てるだろう」という楽観の読みの隙間に、敵の妙手が潜んでいることだって、将棋にはよくあることなのだ。
6六銀にも、「9七玉」 と早逃げする(次の図)
B9七玉図
ここから考えられる候補手は、次の3つ。
〔U〕7五銀上
〔V〕7五桂
〔W〕7七銀成
まず、〔U〕7五銀上 を見ていく。
やはり4一角からの攻めで勝てるだろうか。
4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛、8六銀(次の図)
変化6六銀図01
8六同玉に、6八角。以下、9七玉に、7九角成、8七玉(次の図)
変化6六銀図02
対応を誤ると一気に負けになってしまいそうな形だが、正しく応じれば先手に詰みはなく、先手が勝てるようだ。
変化6六銀図03
先手の4一角に、3一歩と後手が受けた場合。それには、3七飛(図)と打つ。
この飛車打ちは、後手の7七銀成を簡単には指させないという意味がある(3六飛や3八飛では7七銀成~7六銀で後手良しになる)
7六銀(次に7七銀左成または7五桂の狙い)に、3六香と打つ。この手は、2三角成、同玉、3三歩成、同桂、3四金以下の“詰めろ”なので、後手は対応しなければいけない。
しかし、3二歩では、3三歩成、同桂、3四歩で、先手はっきり優勢。
なので4四銀と受ける。
そこで先手5二角成(次の図)
変化6六銀図04
5二同歩には、3三金から後手玉“詰み”。
しかしこの瞬間が甘く、後手は7七銀左成。“詰めろ”だ。
これを9八金と受けるようでは、5二歩で後手勝ちになる(金一枚では後手玉は詰まない)
だが、4三馬が―――(次の図)
変化6六銀図05
“詰めろ逃れの詰めろ”。 以下、8七成銀、同飛、4三銀、3七飛が予想される。
先手が良い形勢のようだ。
〔U〕7五銀上 は、4一角で先手良し。
B7五桂図
〔V〕7五桂(図)
「6六と」の場合と同じように攻めてみる(これで問題なく勝てそうな気がするが……)
4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、7七銀成、4三馬(次の図)
変化6六銀図06
4二銀右、9八馬、8七桂成、同馬、同成銀、同玉、7五桂、9七玉(次の図)
変化6六銀図07
この図は、下の参考図の先手良しだった変化と比べると、先手の持駒に「銀」がプラスされている。だからこの図も先手が良いだろう―――と簡単に判断を下してしまいそうになるところである。
ところが、実は逆で、この図はどうやら「後手良し」なのである。それは手を進めてみれば明らかになる。
6七と、3四歩、9五歩、8八金、9六歩、同玉、6九角(手順中、後手9六歩に9八玉は7六角、8九玉、8七桂成で後手良し)
参考図(再掲 変化7五桂図14)
(6六と型から後手7五桂に4一角以下攻めた時の変化。と金は消えて5五銀が残っている→先手良し)
変化6六銀図08
6七の「と金」の存在が大きい。
9七玉は、9六歩、9八玉、7八と―――先手負け。
7八銀合(攻めに使うために桂を残した)も、9五歩、9七玉、7八と、3三歩成、同歩。以下後手玉は詰まないので、先手の負け。
つまり、〔V〕7五桂 に、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成の攻めは、「後手良し」になった。
すると、先手は勝つためには「別の攻め」を探さなければならない。(それがなければ「後手良し」が今回の『8七玉の研究』の最終結論になる)
勝ちにつながる「別の攻め」は、あるのだろうか。
変化6六銀図09
あった!! 「4一角、3二歩」まで同じで、そこで「3三香」(図)と打つ。
この場合は3三歩成、同銀、5二角成ではなく、「3三香」で先手が勝てるのである。
この攻め筋は、「6六と型」の時には、うまくいかない。それは3一銀、5二角成と進んだ時に、7六とがあるからである。
ところが、今回の「6六銀型」の場合、銀なので「7六」には行けない。だから「3三香」の攻めで先手が良くなる、というリクツだ。
先を進めてみよう。
3一銀(受けはこれが最善)、5二角成(同歩なら3一飛で先手良し)、7七銀成、4三馬(次の図)
変化6六銀図10
「7六」ではなく、「7七」に後手の成銀が居るので、この4三馬の受けが利く。
そしてこの場合、「3三香」がすでに刺さっている状態なので、ここで後手に4二銀右という手がないのも大きい(4二銀右は3二香成、同銀、3三金から詰み)
図以下は、8七桂成、同馬、同成銀、同玉、7五桂、9七玉、6九角、9八金と進みそう(次の図)
変化6六銀図11
この図は、まだ予断を許さない場面だが、正しく指せば先手が勝てる。
6七と、5一竜(詰めろ、4二銀引でも3二香成で詰む)、1四歩、4三銀、7七と、3一竜、1三玉、8九飛(次の図)
変化6六銀図12
7九桂のような平凡な受けでは、9五歩で後手勝ちになっていたところだが、8九飛(図)があった。
9五歩には、6九飛から角を取って、3五へ打てば後手玉は詰み。7八角成は3六桂で後手“受けなし”
先手の勝ちがはっきりした。
〔V〕7五桂 は、4一角、3二歩、3三香以下、先手良し。
B7七銀成図
〔W〕7七銀成 には、角を渡す攻めはできない。
「6六と型」での7七とに学んだように、「4一角、3二歩、3七飛」がここでも正解手になる。
後の変化を確認しておこう。
変化6六銀図13
6七とでは3三香で先手良し。
ここは7五桂以下を見ておこう。7五桂、7七飛、6七と、7九飛、6五桂。
そこで3三香と放り込む(次の図)
変化6六銀図14
3三同桂、同歩成、同玉(同銀は5二角成)、5九飛、7七桂成、3四歩、2四玉、9八銀
(次の図)
変化6六銀図15
先手勝ち。
変化6六銀図16
さあ、これが本日の“最後の問題”である。
先手4一角に、3一歩(図)の場合。
ここは、2六飛、3二歩、7三歩成が有効な指し手。
変化6六銀図17(7三歩成図)
ここから後手には手がいろいろあるが、「7五銀~6六と」という攻めが最有力と見てそれを解説していく。
7五銀、8九香、6六と、7八歩(次の図)
変化6六銀図18
「7八歩」(図)が重要な手。これを同成銀とするか7六成銀とするかで、先手の指し方が変わる。
7六成銀 または7六歩なら、6三とからの攻めが間に合うと先手は見ている(7六成銀 は後で解説)
では、7八同成銀 にはどうするか。
それには3三歩成、同銀に、5二角成と攻める手が成立する。 5二同歩に、3一金(次の図)
変化6六銀図19
この5二角成の攻めは、角を渡す攻めなので、それでも自玉が大丈夫かの見極めが重要である。この場合は、7九角には9八玉で良いし、8六銀、同玉、7五角にも、8七玉で逃れている。
3四銀、4一飛成、3三玉、4五歩(次の図)
変化6六銀図20
4五歩を同銀は、2三飛成、4四玉、4三竜右以下“詰み”
先手勝勢になった。
変化6六銀図21
今の手順の途中5二角成に、4二銀右(図)とした場合。 先手は4一馬とする。
8九成銀では3四歩(詰めろ)で後手いけない。
なのでここは「3四桂」と3四に“先着”で飛車取りに打つ(飛車が逃げれば8九成銀→後手良し)
先手は飛車を逃げずに、5一竜(次の図)
変化6六銀図22
5一竜(図)で、先手優勢になっている。
5一同銀は3一金。2六桂も3一金だ。
だから図では3一桂とすることになるが、4二竜、同銀、同馬(次の図)
変化6六銀図23
次に2三飛成から簡単な詰みがあるが、それを2六桂で防いでもそれでも詰みがあるのだ。
これは気づきにくい詰みだが、これがわかっていないとこの順には踏み込めないところだった。3三銀と打ち、同桂に、3一馬と桂馬を取り、同玉に、2二銀。これを同玉は3四桂から簡単なので、4二玉と逃げるが、そこで5二金と打ち捨て、同玉、6三金、4一玉、4二歩以下の詰みである。
したがって、この図で6七飛などでは9八玉で先手が勝つ。
よってここは「5七飛」と打つ。これならいま示した詰み筋を防いでいる。
5七飛には、「8七金」と受けるのが正しい応手。
後手はそこで「2六桂」と飛車を取るが、先手「3三歩」が決め手となる(次の図)
変化6六銀図24
先手玉は詰まないので、後手は「3三歩」(図)に応接しなければいけないが、3三同桂に、4一銀で先手の勝ち。
変化6六銀図25
戻って、「7八歩」に 7六成銀(図)の場合。
これには6三と。そこで7七桂がある(次の図)
変化6六銀図26
よく似た形が上で出てきたが、その時とは後手の攻め駒の並びがわずかに違う。
この場合は8八香では、8九桂成、5二と、8八成桂、同玉、7七歩で、先手負け(銀の質駒がないから5二とが間に合わない)
ここでは、7七同歩が正解となる。同とに、9八桂と受ける(次の図)
変化6六銀図27(9八桂図)
ここで後手に色々な手があって、実戦的には「互角」にちかい勝負となる。しかし正確に対応すれば、後手のどの攻めも「先手勝ち」になるようだ。先手に「銀」が入ると5二とが後手玉の“詰めろ”になるので、後手が工夫して攻めても、なにかしら先手に勝ち筋が出てくるのだ。
この図で、先手は「5二と+4二と」の2手で後手玉に届く攻めになるが、後手はそれまでに先手玉を攻略したい(6三金、同角成は後手面白くない)
“6六銀”以下の攻防を、以下見ていく。
“6六銀”の狙いは、次に7五桂と打つこと(5二となら7五桂で後手良し)
だから先手は「敵の打ちたいところに打て」で、7五歩(=最善手)と打つ
それではと後手は6五桂とこちらに打つ(次の図)
変化6六銀図28
やはり5二とは8七と、同香、7七桂成で後手良しになる。
(単に6五桂だと先手に7八歩という手があったが、「6六銀、7五歩」の後では歩が使えない)
先手どうするか。
6六飛と飛車切りが最善手。同成銀で、後手の攻めを遅らせて、5二と。
銀が手に入ったので、5二とは3二角成、同玉、4一銀からの“詰めろ”になっている。
後手は1四歩で、詰めろを消す。4二と、同銀。
そこで8二馬(次の図)
変化6六銀図29
5五馬が狙い。
それを許せない後手は、5七飛と打つ。 先手玉への“詰めろ”になっている(8八と以下)
先手は4八金と打って、飛車を追う。5六飛成に、1一銀(次の図)
変化6六銀図30
1一同玉に、3二角成。
以下、2二銀に、3三銀打(代えて4二馬では先手負け)
後手は8七とで、最後の勝負(次の図)
変化6六銀図31
8七同香、3三銀右、同歩成、8八銀、同玉、7七桂成、8九玉(次の図)
変化6六銀図32
8九玉(図)で逃れている。3三銀には3一金と打って、後手玉は“必至”
先手勝ち。
変化6六銀図27(再掲9八桂図)
もう一度この図まで戻り、後手の攻めをもう一つ紹介しておこう。
ここから“8六銀”と捨て、同桂に、8五金と出る(次の図)
変化6六銀図33
ここで8七歩が常識的な手だが、それには8四桂と打たれて後手が優勢だ。
しかし6六馬という絶妙手があった(次の図)
変化6六銀図34
陰から突然現れたような6六馬(図)の“王手”で、先手良しになっている。
同成銀なら、先手玉の詰めろが消えて、逆に5二とで後手玉に“詰めろ”がかかって先手良い、という仕組みだ。
4四桂(4四歩でもだいたい同じ)以下が面白いのでそれを見ておくと、4四桂には、3三銀と打ちこむ。これを同銀は、同歩成、同玉、3四銀、同玉、3五歩、同玉、5七馬以下、“詰み”がある。
なので3三同桂だが、そこで7六馬(次の図)
変化6六銀図35
銀を補充した。これで後手玉に、2一金、同玉、2三飛成、1一玉、2二銀までの“詰み”があるというわけだ。
それを防いでも、8五馬や5三とで、これはもう先手勝ちで決まりである。
〔W〕7七銀成 は、4一角以下先手が勝てる。
(4一角に3二歩には3七飛、3一歩には2六飛、3二歩、7三歩成)
B9七玉図
〔U〕7五銀上 → 先手良し
〔V〕7五桂 → 先手良し
〔W〕7七銀成 → 先手良し
よって、≪B≫6六銀 には、「9七玉」で、先手良し。
以上の結果をまとめると
8七玉図
【午】8七玉 としたこの図は、≪A≫6六と、≪B≫6六銀、どちらの手に対しても、「9七玉」として、先手良し、が結論となる。
≪指始図≫5六とまで
その結果、こうなった。
【子】3三歩成 → 後手良し
【丑】2五香 → (互角に近いが)後手良し
【寅】2六香 → 後手良し
【卯】4一角 → 先手良し
【辰】5四歩 → 後手良し
【巳】6七歩 → 「互角」(持将棋の可能性あり)
【午】8七玉 → 先手良し
【未】7三歩成
【卯】4一角 と 【午】8七玉 とは、先手が手順を尽くせば、結局同じ図に合流することになるので、結果も連動して「先手良し」である。
「8七玉~9七玉」の手と、「4一角」を組み合わせる手で、先手に勝ち筋が存在していたということである。
つまり、最初の予定通り、▲8七玉 と指していれば、(正確に指して勝ち切れたかどうかはともかく)先手の勝ち筋のある道へと進めたはずなのである。
直感の通りに、そう進めていれば……。 9七玉と4一角の組み合わせは、見えていたのだ!!
ところが―――――
≪最終一番勝負 第25譜 指了図≫ 7三歩成まで
我々(終盤探検隊)は、指す予定ではなかった手、△7三歩成 を選んで指したのである。
理由は、説明できない。
“魔が差した”としか表現のしようがない。(▲8七玉なら先手良しだったのに……)
泉鏡花『註文帳』で剃刀研ぎ師の五助が、「19日は仕事をしない」と決めていたのに、なぜか註文帳を開いて一件の仕事を始めてしまった。それが“怪異な事件”をもたらした。
なぜ五助はその仕事(お若の剃刀を研ぐ)を始めてしまったのか。
それは、本人にも説明のしようのないことなのだ。
第26譜につづく
指し手 ▲7三歩成
[剃刀研ぎと鏡研ぎが酒を飲んだ十九日の夜に]
「まあ何にしろ変な訳さ。今に見ねえ、今日もきっと誰方どなたか取りにござる。いや作平(さくべい)さん、狐千年を経(ふ)れば怪をなす、私(わっし)が剃刀研(かみそりとぎ)なんざ、商売往来にも目立たねえ古物(こぶつ)だからね、こんな場所がらじゃアあるし、魔がさすと見えます。
そういやあ作平さん、お前さんの鏡研(かがみとぎ)も時代なものさ、お互(たげえ)に久しいものだが、どうだ、御無事かね。二階から白井権八の顔でもうつりませんかい。」(注:白井権八は江戸時代の歌舞伎作品中の有名なキャラクター)
その箱と盥(たらい)とを荷(にな)った、痩(やせ)さらぼいたる作平は、蓋(けだ)し江戸市中世渡(よわたり)ぐさに俤(おもかげ)を残した、鏡を研いで活業(なりわい)とする爺(じじい)であった。
(『註文帳』泉鏡花著 より)
時は明治時代。場所は吉原。東京(江戸)の遊里である。
この話の中心にいる人物は、研屋(とぎや)の五助である。吉原の揚屋町(あげやまち)で剃刀研ぎ(かみそりとぎ)の仕事を引き受けている。吉原の遊女の「剃刀」を預かって研いで返す仕事であるが、その「剃刀」がこの怪異な話の主役である。
その日はたいへんに寒い日で、如月(きさらぎ)の「十九日」だった。
五助のところに捨吉という男が剃刀を急ぎで欲しいとやってきた。五助は断った。理由はその日が「十九日だから」という理由である。五助は毎月十九日は仕事をしないと決めていたのだ。
そのわけを五助は捨吉に話す。五助の仕事は遊女から預かった「剃刀」を研ぐことだが、四、五年前から、仕事中にその「剃刀」が紛失するということが月に一度起こった。それが決まって「十九日」なのである。その消えた「剃刀」は、依頼した遊女の鏡台の上に置いてあったりした。それだけならまだしも、変なところに置いてあってだれかがそれで怪我をしてしまうというようなこともあった。
そういうことがあって、五助は「十九日は仕事をしない」と決めたのである。
捨吉は帰り、入れかわりに鏡研ぎ職人の作平(さくべい、六十歳くらい)が入ってきた。通りかかったとき、五助と捨吉の会話の「十九日」と「剃刀」の言葉を耳にして気になって入ってきたのであった。
作平は、自分が最近受けた仕事の話を始めた。それは麹町(こうじまち)辺りのある家の家宝として大切にしている「八寸の鏡」を研ぐ仕事だった。
その「鏡」というのは、何年か前のある日吉原で起こった「心中事件」に関係している。客である男に対してある遊女がその男を殺して自分も死のうと「無理心中」を計った。結果、男は命を取りとめ、遊女は死んだ。遊女は、その男のノドを「剃刀」で突き、返す刀で自分を突いたのだった。もともとその女は武術の心得があったのだという。
ところが男はたまたま女が使っていた「鏡」を持っていて、それが偶然に命を救ったというのだ。女は「心中」が失敗に終わったことがわかって「口惜しい口惜しい」といいながら死んでいった。
その「心中未遂事件」が起こったのが、明治八年霜月のやはり「十九日」だったというのである。作平が五助の「十九日」の話に気をひかれて足を止めたのは、そういう心中未遂話を聞いていたからなのだった。
その男は、これに懲りて、以来、吉原通いをやめたという。
男の命を救ったその「鏡」は、その後その家の家宝となった。そして時を経て、それを「特別に念入りに研いでほしい」という依頼で、先日作平のところに持ち込まれたというわけである。
その作平の話を聞きながら、五助はふと分厚い註文帳を開き、なぜか剃刀研ぎの仕事を一件はじめる気になった。急ぎではないが特別に念入りに研ぎたい「剃刀」があった。本来は十九日は仕事をしないはずだったが、「不浄除よけの別火(けがれを浄化すること)にして、お若さんのを研ごうと思って」といい、また「この剃刀の持ちぬしは遊女ではないし廓内(くるわうち)に住んでいないから大丈夫だろう」というような理由をつけて。
それは、吉原の紅梅屋敷という屋敷に住んでいる十八歳の器量よしの娘お若の「剃刀」だった。
ところが、その「お若の剃刀」がやはりなくなってしまう。
「剃刀」をさがす五助の前に、女の幽霊が現れる―――。
幻のその女は、「これでしょう」と言う。 その手に、「お若の剃刀」があった。
外は雪が降りはじめていた。
そして――――
その日(十九日)の深夜、「心中事件」が起こったのである。紅梅屋敷で。
女はお若である。
相手の男は欽之助という名の若者だったが、吉原に客として遊びに来たわけではなかった。
欽之助はその日、四谷で、彼をドイツ留学に送るための宴会が開かれたが、帰りの人力車が横転したりといろいろあって、気づくとなぜか吉原に一人で来てしまっていたのであった。欽之助も酔っていてしっかりとはおぼえていないが、次につかまえて乗った人力車の車夫が、欽之助の言葉を聞き間違えたか何かで吉原へ運ばれたようだ。気がつくと雪景色の夜の吉原。車夫に四谷に戻してくれといっても、雪は降っているし、もうへとへとに疲れて動けないという。
他の車はないかと欽之助は吉原を歩くが、どうにもならず。寒いし、道はわからない。
そこに女(遊女の幽霊)が現れて、その女もなにやら困っている様子にみえたので欽之助が声をかけると、女は「これを紅梅屋敷に届けてくれないか」という。(紙に包んだ“これ”の中身はあの「お若の剃刀」であった)
紅梅屋敷の門を叩いた若者は招き入れられ、こたつに入って、若者のこの日に起こった事情を聞いて、同情したお若と家の者は、欽之助に泊っていくよう勧める。
やがて、この初対面の男女―――欽之助とお若(美男と美女であった)―――が突然に「心中事件」を起こす結末にとなったのである。
自分の「剃刀」を手にした途端、娘が、突然にこの顔の美しい若者に恋心を燃やし、永遠に自分のものにしたいと、その「剃刀」を手にもって眠っている若者に襲いかかったのであった。
もし欽之助があの「鏡」を持っていたなら、彼は死なずにすんだかもしれない。「送迎会で友人たちに吉原に行こうというようなノリになったらまずい」と心配した欽之助の叔母が、家宝の「鏡」をなんとか欽之助に持たせようとしたのだが、(彼はその「鏡」にまつわる因縁話を叔母から聞いて知ってはいたが)それを持って行かなかったのだった。欽之助は吉原に行くつもりなどまったくなかったので、「鏡」は必要ないと思ったのだろう。
この若者は、作平の話の中の、あの「吉原心中未遂事件」で遊女に刺された男の甥だったのである。
五助と作平は酒を飲んで眠っていたが、五助が「お若が男を剃刀で刺す夢」を見て飛び起きた。夜中の二時であった。五助と作平、あわてて紅梅屋敷へと駆けつけたが、時すでに遅し。
「心中」は遂げられていたのであった。
お若は即死。しかし深手を負った若者欽之助は、まだしばしの時間息があった。その命が尽きる前に、お若を娶ることを決め、二人は夫婦として死んでいくのである。
五助と作平、二人の職人は泣きながら、「おめでてえな」「お若さん喜びねえ」と祝福するのであった。
以上が泉鏡花『註文帳』のあらすじである。この作品の初出は明治34年(1901年)
構成の面白い話だと思うが、それにしても、“註文帳” のタイトルは渋すぎるのではないか。 “十九日” とか “失せる剃刀” のほうがわかりやすくてよい気がするが、どうだろうか。現代なら“吉原剃刀心中事件”か。
ところで、欽之助は23、4の年齢とあるが、この小説の中ではたびたび「少年」と書かれている。「少年」の定義が今と感覚的に違うようだ。(このあらすじでは「若者」と書き直した)
なお、泉鏡花の「鏡」の字は、「鏡」に何かこだわりがあってのペンネームかと思いきや、単に本名が泉鏡太郎だからなのであった。
<第25譜 逢魔が時間>
指始図 5六とまで
さて、「亜空間戦争一番勝負」、後手≪亜空間の主(ぬし)≫の△5六とに、先手の我々の予定は▲8七玉であった。
その前に▲8六歩とした手を生かすためにも、それが自然と思えたし、とりあえず「9七」まで玉を移動させてから攻める―――というのが、先手番をもつ我々終盤探検隊のビジョンであった。
それなのに、我々はなぜか、ここで“▲8七玉”を指さなかったのである!!!!
それはなぜか――――ということを答えたいと思うのだが、我々は(戦いを終えたいまも)その理由を説明できないのである。
なぜなら、“覚えていない”からだ。
この局面で、我々自身が何を考え、何を思って「別の手」を選択してそれを指したのか、思い出せないのである。
覚えていることは、この局面になる前から、そしてこの局面になった瞬間まで、「8七玉と指そう」と考えていたこと。たしかにそう考えていたのだ。
とりあえず、この図についての“調査報告”を最後まで終えるとしよう。
≪指始図≫5六とまで
今回の調査の進捗状況は、この通り。
【子】3三歩成 → 後手良し
【丑】2五香 → (互角に近いが)後手良し
【寅】2六香 → 後手良し
【卯】4一角 → 結論保留(調査中)
【辰】5四歩 → 後手良し
【巳】6七歩 → 「互角」(持将棋の可能性あり)
【午】8七玉 → これから調査
【未】7三歩成
8七玉図
【午】8七玉(図)が今回の調査テーマである。
ここで、≪A≫6六と が想定される手。 ほかに ≪B≫6六銀 がある。
A6六と図
≪A≫6六と(図)。
ここで本命は“早逃げ”の「9七玉」である。
(他には、「7八香」も有力な手だが、検討の結果、難しいところは多いが、7五桂以下「後手良し」が結論となった。その解説は省略する)
A9七玉図
「9七玉」まで逃げておいて、ここからさあ戦おうということである。
ここで後手が何を指すか。 考えられるのは、次の3候補手である。
[E]7五桂
[F]7六と
[G]7七と
A7五桂図
[E]7五桂(図)
4一角と打っていく。 以下3二歩に、3三歩成から攻める(代えて3三香はこの場合は3一銀、5二角成、7六とで後手良しになる)
3三同銀に、5二角成(次の図)
変化7五桂図01(5二角成図)
ここで後手の対応手が問われるところ。次の6つの手が考えられる。
(1)5二同歩、(2)4二銀左、(3)4二銀右、(4)8一桂、(5)7六と、(6)7七と
まず(1)5二同歩から。 その手には、3一飛と打つ(次の図)
変化7五桂図02
「3一」に打って、3四銀には4一竜を用意した。
後手は8一桂(これしか受けがない)。
同竜、8七桂成、同玉、5四角(次の図)
変化7五桂図03
これで王手竜取りだが、実質後手の「角桂桂」と、先手の「飛」との交換になり、後手は二枚の桂を使い果たしてしまった。
8八玉、3八飛、7八香(次の図)
変化7五桂図04
6七ととしても、詰めろではないので、3一金として先手勝ち。
受けるなら4二銀右だが、先手3四歩と打って、同飛成なら2六桂、4四銀なら1五桂が着実な寄せとなる。
(1)5二同歩は先手良しとわかった。
変化7五桂図05
(2)4二銀左には、4一馬(図)と潜りこんでおく。
以下、7六と、8八香、8七桂成、同香、7五桂、7九桂、6六銀、3三歩(次の図)
変化7五桂図06
3三歩(図)で、後手“受けなし”。
3三同玉なら、3五飛。 3三同桂には、5一竜。
変化7五桂図07
(3)4二銀右には、3四歩(図)で、先手良しだ。
変化7五桂図08
このタイミングで(4)8一桂(図)とする手もある。これを同竜は、あやしくなる。
この手には4一馬で先手が良い。
以下7七とには9八金としっかり受ける(8九香と受けるのは9三桂で角を取った手が先手玉の詰めろなので逆転する)
9三桂に、3一飛(次の図)
変化7五桂図09
先手勝ち。
(5)7六とには、8八香と受ける(8九香には7七桂があるので8八に打った)
以下8七桂成、同香、7五桂、7九桂、8七桂成、同桂。
そこで5二歩。先手はやはり3一飛。
後手8一香(次の図)
変化7五桂図10
8一同竜がわかりやすい。以下、8七と、同玉、5四角、6五歩、8一角、同飛成。
このケースは、後手の盤上にいた「と金」が桂馬と交換になり、後手の攻め駒が「飛桂」になる。
5七飛、9八玉、5八飛成、8八香、7六桂、8七金(次の図)
変化7五桂図11
後手の攻めは止まり、先手優勢がはっきりした。
このままなら先手3一金があるので、ここは後手8八桂成、同金、4二銀右が予想されるが、1五桂と打てば後手は適当な受けがない。
(5)7六とは8八香で先手良しになった。
変化7五桂図12
(6)7七と(図)
この手に8九香と受けるのは、先手負けになる。5二歩と角を取って、先手玉に8七桂成、同香、7九角から詰みがあるからだ。つまり8九香は受けになっていないのだ。
といって、9八金と受けても、8七桂成、同金、同と、同玉、7五桂以下、良いタイミングで5二歩と角を取られて先手が勝てない。
そうするとここは受けがないようにも思えるが、4三馬があった(次の図)
変化7五桂図13
(6)7七とには、奇跡的にこの4三馬(図)があった!
6五歩なら、8九香と受けておく。以下、4二銀右、5四馬となるが、そこから後手の有効な攻め手がないので、先手が優勢。先手のほうは9二竜や3七桂など有効手が多い。
よって後手は、この図から、4二銀右、9八馬の後、8七桂成から清算して馬を消しに来る。
8七桂成、同馬、同と、同玉、7五桂、9七玉(次の図)
変化7五桂図14
さて、ここでどっちの形勢が良いのか。
ここは後手の候補手が多い。(9五歩、6五角、6九角、6六銀など)
6五角、8八金(6六銀に対しても8八金と受ける)、9五歩、4三歩(次の図)
変化7五桂図15
4三同銀、5一竜、9六歩、同玉、2九角成(次の図)
変化7五桂図16
8四馬、同歩、7一飛、4一歩(次の図)
変化7五桂図17
4一同竜は7四馬がある。
7三歩成、9四歩、7四と(次の図)
変化7五桂図18
形勢は先手良し。
変化7五桂図14(再掲)
少し戻って、後手7五桂に9七玉の場面。最新ソフトの評価値は[-112 互角]を示している。
ここは“6五角”以外にも後手の有力手がある。
“6六銀”には、8八金と受ける。以下9五歩に、4三歩で先手が良さそうだ。
“9五歩”、4三歩、6九角、8八金、9六歩、9八玉という展開もある。以下9七歩成、同玉、9五金には、7五馬があって先手が良い。
この図は(先手が悪くなる順が見つからないので)「先手良し」としておく。
よって、(6)7七とも4三馬があって、先手良し、という結論になる。
変化7五桂図01(再掲5二角成図)
これでこの「5二角成図」は「先手良し」が確定した。
つまり、[E]7五桂 には、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成と攻めて先手良しである。
変化7六と図01
[F]7六と(図)
この手にも、同じように攻めていく。
4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成までは進む。
そこで7五桂では、上と同じになる。(それは先手良し) なので、他の手があるかどうか。
変化7六と図02
7五金(図)でどうか。
この手は8六金以下詰めろなので、先手は受けることになる。
変化7六と図03
8九香(図)と受けて、どうやら先手良し。
5二歩には、3一飛。そこで7九角には、9八玉と逃げておけばよい。
変化7六と図04
[G]7七と(図)
今度は、いままでの場合と事情が異なる。同じように攻めていくと先手失敗に終わる。すなわち、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛だと、7九角から詰まされてしまう。
だからといってここで8九香と受けても、7五桂と打たれると、同じように進んだ時、8七桂成、同香、7九角があるので、やはり攻めていけない。
そうすると、「別の攻め」があるかどうかだが―――。
見つかった!! 「4一角、3二歩」まで決めて、「3七飛」と打つ(次の図)
変化7六と図05
「3七飛」(図)は攻防の飛車打ちである。後手6六銀なら―――(次の図)
変化7六と図06
3三香(図)で先手優勢になる。
3三同桂に、そこで8四馬と金を取る。
8四同歩に3三歩成、同銀、3二角成、同玉、3一金(次の図)
後手玉が詰んだ。
このように、後手[G]7七と の手には、「4一角、3二歩、3七飛」が有効なのだが、この手順の発見はそう簡単ではなかった(最新ソフトも示していない手順である)
なお、最初の「4一角、3二歩」を入れずに“単に3七飛”では、6六銀で先手苦戦となる。そこで4一角は3一歩と変化して受けられる。
「4一角、3二歩、3七飛」の手順が大事なのである。
変化7六と図07
「3七飛」に、4四銀上のような受けだけの手では、7七飛と「と金」を払われて後手は希望がない。
そこで7五桂(図)が後手の工夫の手。
7七飛と「と金」を取る手に、6七歩(代えて6六銀では3七飛と戻って後手がまずい)
そこで7九飛(5九の金取り)なら、6六銀で後手が良い―――これが後手の狙いだが―――
しかし7六飛がある(次の図)
変化7六と図08
7六飛と飛車を一つ浮けば、いつでも3筋に飛車を戻せるし、2筋の攻めも狙える。
6八歩成に、2六飛、7八と、2五香と進めば、1一桂に、2三香成、同桂、2四金で、先手勝勢となる。
図で6六桂には、2六香と打っておき、次に7五飛と桂馬を取って1五桂と打つ手を狙いにする。
[G]7七と には、「4一角、3二歩、3七飛」で先手良し。
そうなれば先手が良いとわかったのだが、しかし、後手に途中で「変化」する手がある。
変化7七と図01
最初の4一角に、「3一歩」(図)とする手があるのだ。
これにも3七飛でよさそうに思えるが、以下6七歩、3六香、4四銀引となると、形勢不明である。
この図での正着は、「7三歩成」である。
変化7七と図02
「7三歩成」(図)の具体的なねらいは、7八歩、同と、6三とのような筋である。
「7三歩成」を、同銀 なら、2五飛、3二歩、5五飛で先手が良い。
ここで後手の有力手は、7五桂 と 7五銀。
7五桂、8九香に、「7六歩」。
ここで6三とは、8七と、同香、7七歩成で、後手の攻めが早く、先手が負ける。
「7八歩」が正着(次の図)
変化7七と図03
7八同とに、6三とではやはり7七歩成で後手の攻めが厚く、先手勝てない。
ここは8三とが正解手。
以下、7四金に、9五歩(次の図)
変化7七と図04
8九となら、9六玉。 9五同歩には、8五歩と突いて、次に8六玉~9五玉の“入玉”狙い。
この図は、先手優勢。
(入玉を阻止するため9五同歩、8五歩に、7三桂と打つのは、同と、同銀、2六飛、3二歩、1五桂で、先手勝ち)
「7八歩、同と、8三と」が好手順であった。
変化7七と図05
後手の工夫。「7五桂、8九香」に、「6五銀」(図)
ここで2五飛と打ちたくなる。しかしそれは3二歩、5五飛、7六銀で、後手が良い。これは先手が後手の“わな”に嵌まったパターン。
ここは「2六飛、3二歩、7八歩」が正解手順になる(次の図)
変化7七と図06
2六飛と打ったのは、7八とを同とと取らせた後、後手の7六銀を指させないという意味である。(“7六に銀を出させない”というのがここは急所なのだ)
「7八同と」なら、先ほどと同じように、8三と、7四金、9五歩の“入玉”狙いで先手良し。
ここは7八歩に、「7六と」を見ていこう。
「7六と」と引かせ、後手の銀は7六に出てこれないようになった。それが7八歩を打った効果である。
ここで6三とを決行する。
8七桂成、同香、7五桂、9八金(次の図)
変化7七と図07
こうなると先手には5二との攻めに加えて、3五桂もある。
なので、8七と、同金、同桂成、同玉、3五金のような展開になりそうだが、5二と、2六金、5三とは、先手優勢である。
変化7七と図08
「7三歩成」に、7五銀(図)
銀が出てきた場合は、ここでも2六飛と打っておくのがよい。以下、3二歩に、「8九香」(次の図)
変化7七と図09
ここで7六銀は7八歩で先手良し。
後手 8七桂 という手がある。同香なら、7六銀と出ようという意味で、そうなると後手の調子が良い。
8七桂は放置して、6三とと攻めあう。以下、9九桂成、5二と、9五歩(同歩なら9四歩から香車を打つ攻めを狙う)
そこで8四馬がある(次の図)
変化7七と図10
8四同銀に、3三金、同銀(同桂は2一金から詰み)、同歩成、同玉、3二角成(次の図)
変化7七と図11
後手玉は詰んでいる。3二同玉には、3六飛から。4四玉には、3四金(同玉には2三馬、5四玉には4三馬以下)で。
変化7七と図12
「8九香」のところまで戻って、6六銀左 もある。
この手は、次に7六ととして、7七銀成から銀を使うねらいである。
先手は6三と。
後手の7六とに、7八歩。銀の進出を防ぐ。
そこで7七歩なら、5二と、7八歩成、5三と(3三銀からの詰めろ)で、先手良しになるが―――(次の図)
変化7七と図13
7七桂(図)という手がある。
これを同歩と取って、同銀成に、9八桂と受ける手はあるが、6六桂が好手(次に8七と、同香、7六銀をねらう)で、後手が勝つ。
ここは8八香が最善の対応で、以下8九桂成に、5二と。
6三と~5二との攻めで認識しておきたいのは、このときに「金金」ではまだ駒が足らないが、これに「銀」が加わると、5二とのときに、後手玉は3二角成、同銀、4一銀以下の“詰めろ”になるということである。つまり今は「銀」が足らないが、その銀は6六にある。
8八香、8九桂成、5二との後、8八成桂、同玉、7七歩と進み、先手玉はほぼ“受けなし”の状況に追い込まれるが―――(次の図)
変化7七と図14
6六飛(図)と銀を取って、“詰めろ逃れの詰めろ”である。先手勝ち。
[G]7七と は4一角以下先手良し、が結論となる。
A9七玉図
[E]7五桂 → 先手良し
[F]7六と → 先手良し
[G]7七と → 先手良し
先手は、後手のこの3つの手にたいして、勝ち筋があることがわかった。
よって、【午】8七玉 に、6六と、9七玉 と進んだこの図は、先手良し。
B6六銀基本図
次に、先手の 【午】8七玉 に、 ≪B≫6六銀(図)を考えたい。
感覚的には、6六銀よりも6六とのほうが勝る手に思えるが、実際に調べると、6六銀のほうがよいケースもあるということがわかってくる。「たぶん勝てるだろう」という楽観の読みの隙間に、敵の妙手が潜んでいることだって、将棋にはよくあることなのだ。
6六銀にも、「9七玉」 と早逃げする(次の図)
B9七玉図
ここから考えられる候補手は、次の3つ。
〔U〕7五銀上
〔V〕7五桂
〔W〕7七銀成
まず、〔U〕7五銀上 を見ていく。
やはり4一角からの攻めで勝てるだろうか。
4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、同歩、3一飛、8六銀(次の図)
変化6六銀図01
8六同玉に、6八角。以下、9七玉に、7九角成、8七玉(次の図)
変化6六銀図02
対応を誤ると一気に負けになってしまいそうな形だが、正しく応じれば先手に詰みはなく、先手が勝てるようだ。
変化6六銀図03
先手の4一角に、3一歩と後手が受けた場合。それには、3七飛(図)と打つ。
この飛車打ちは、後手の7七銀成を簡単には指させないという意味がある(3六飛や3八飛では7七銀成~7六銀で後手良しになる)
7六銀(次に7七銀左成または7五桂の狙い)に、3六香と打つ。この手は、2三角成、同玉、3三歩成、同桂、3四金以下の“詰めろ”なので、後手は対応しなければいけない。
しかし、3二歩では、3三歩成、同桂、3四歩で、先手はっきり優勢。
なので4四銀と受ける。
そこで先手5二角成(次の図)
変化6六銀図04
5二同歩には、3三金から後手玉“詰み”。
しかしこの瞬間が甘く、後手は7七銀左成。“詰めろ”だ。
これを9八金と受けるようでは、5二歩で後手勝ちになる(金一枚では後手玉は詰まない)
だが、4三馬が―――(次の図)
変化6六銀図05
“詰めろ逃れの詰めろ”。 以下、8七成銀、同飛、4三銀、3七飛が予想される。
先手が良い形勢のようだ。
〔U〕7五銀上 は、4一角で先手良し。
B7五桂図
〔V〕7五桂(図)
「6六と」の場合と同じように攻めてみる(これで問題なく勝てそうな気がするが……)
4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成、7七銀成、4三馬(次の図)
変化6六銀図06
4二銀右、9八馬、8七桂成、同馬、同成銀、同玉、7五桂、9七玉(次の図)
変化6六銀図07
この図は、下の参考図の先手良しだった変化と比べると、先手の持駒に「銀」がプラスされている。だからこの図も先手が良いだろう―――と簡単に判断を下してしまいそうになるところである。
ところが、実は逆で、この図はどうやら「後手良し」なのである。それは手を進めてみれば明らかになる。
6七と、3四歩、9五歩、8八金、9六歩、同玉、6九角(手順中、後手9六歩に9八玉は7六角、8九玉、8七桂成で後手良し)
参考図(再掲 変化7五桂図14)
(6六と型から後手7五桂に4一角以下攻めた時の変化。と金は消えて5五銀が残っている→先手良し)
変化6六銀図08
6七の「と金」の存在が大きい。
9七玉は、9六歩、9八玉、7八と―――先手負け。
7八銀合(攻めに使うために桂を残した)も、9五歩、9七玉、7八と、3三歩成、同歩。以下後手玉は詰まないので、先手の負け。
つまり、〔V〕7五桂 に、4一角、3二歩、3三歩成、同銀、5二角成の攻めは、「後手良し」になった。
すると、先手は勝つためには「別の攻め」を探さなければならない。(それがなければ「後手良し」が今回の『8七玉の研究』の最終結論になる)
勝ちにつながる「別の攻め」は、あるのだろうか。
変化6六銀図09
あった!! 「4一角、3二歩」まで同じで、そこで「3三香」(図)と打つ。
この場合は3三歩成、同銀、5二角成ではなく、「3三香」で先手が勝てるのである。
この攻め筋は、「6六と型」の時には、うまくいかない。それは3一銀、5二角成と進んだ時に、7六とがあるからである。
ところが、今回の「6六銀型」の場合、銀なので「7六」には行けない。だから「3三香」の攻めで先手が良くなる、というリクツだ。
先を進めてみよう。
3一銀(受けはこれが最善)、5二角成(同歩なら3一飛で先手良し)、7七銀成、4三馬(次の図)
変化6六銀図10
「7六」ではなく、「7七」に後手の成銀が居るので、この4三馬の受けが利く。
そしてこの場合、「3三香」がすでに刺さっている状態なので、ここで後手に4二銀右という手がないのも大きい(4二銀右は3二香成、同銀、3三金から詰み)
図以下は、8七桂成、同馬、同成銀、同玉、7五桂、9七玉、6九角、9八金と進みそう(次の図)
変化6六銀図11
この図は、まだ予断を許さない場面だが、正しく指せば先手が勝てる。
6七と、5一竜(詰めろ、4二銀引でも3二香成で詰む)、1四歩、4三銀、7七と、3一竜、1三玉、8九飛(次の図)
変化6六銀図12
7九桂のような平凡な受けでは、9五歩で後手勝ちになっていたところだが、8九飛(図)があった。
9五歩には、6九飛から角を取って、3五へ打てば後手玉は詰み。7八角成は3六桂で後手“受けなし”
先手の勝ちがはっきりした。
〔V〕7五桂 は、4一角、3二歩、3三香以下、先手良し。
B7七銀成図
〔W〕7七銀成 には、角を渡す攻めはできない。
「6六と型」での7七とに学んだように、「4一角、3二歩、3七飛」がここでも正解手になる。
後の変化を確認しておこう。
変化6六銀図13
6七とでは3三香で先手良し。
ここは7五桂以下を見ておこう。7五桂、7七飛、6七と、7九飛、6五桂。
そこで3三香と放り込む(次の図)
変化6六銀図14
3三同桂、同歩成、同玉(同銀は5二角成)、5九飛、7七桂成、3四歩、2四玉、9八銀
(次の図)
変化6六銀図15
先手勝ち。
変化6六銀図16
さあ、これが本日の“最後の問題”である。
先手4一角に、3一歩(図)の場合。
ここは、2六飛、3二歩、7三歩成が有効な指し手。
変化6六銀図17(7三歩成図)
ここから後手には手がいろいろあるが、「7五銀~6六と」という攻めが最有力と見てそれを解説していく。
7五銀、8九香、6六と、7八歩(次の図)
変化6六銀図18
「7八歩」(図)が重要な手。これを同成銀とするか7六成銀とするかで、先手の指し方が変わる。
7六成銀 または7六歩なら、6三とからの攻めが間に合うと先手は見ている(7六成銀 は後で解説)
では、7八同成銀 にはどうするか。
それには3三歩成、同銀に、5二角成と攻める手が成立する。 5二同歩に、3一金(次の図)
変化6六銀図19
この5二角成の攻めは、角を渡す攻めなので、それでも自玉が大丈夫かの見極めが重要である。この場合は、7九角には9八玉で良いし、8六銀、同玉、7五角にも、8七玉で逃れている。
3四銀、4一飛成、3三玉、4五歩(次の図)
変化6六銀図20
4五歩を同銀は、2三飛成、4四玉、4三竜右以下“詰み”
先手勝勢になった。
変化6六銀図21
今の手順の途中5二角成に、4二銀右(図)とした場合。 先手は4一馬とする。
8九成銀では3四歩(詰めろ)で後手いけない。
なのでここは「3四桂」と3四に“先着”で飛車取りに打つ(飛車が逃げれば8九成銀→後手良し)
先手は飛車を逃げずに、5一竜(次の図)
変化6六銀図22
5一竜(図)で、先手優勢になっている。
5一同銀は3一金。2六桂も3一金だ。
だから図では3一桂とすることになるが、4二竜、同銀、同馬(次の図)
変化6六銀図23
次に2三飛成から簡単な詰みがあるが、それを2六桂で防いでもそれでも詰みがあるのだ。
これは気づきにくい詰みだが、これがわかっていないとこの順には踏み込めないところだった。3三銀と打ち、同桂に、3一馬と桂馬を取り、同玉に、2二銀。これを同玉は3四桂から簡単なので、4二玉と逃げるが、そこで5二金と打ち捨て、同玉、6三金、4一玉、4二歩以下の詰みである。
したがって、この図で6七飛などでは9八玉で先手が勝つ。
よってここは「5七飛」と打つ。これならいま示した詰み筋を防いでいる。
5七飛には、「8七金」と受けるのが正しい応手。
後手はそこで「2六桂」と飛車を取るが、先手「3三歩」が決め手となる(次の図)
変化6六銀図24
先手玉は詰まないので、後手は「3三歩」(図)に応接しなければいけないが、3三同桂に、4一銀で先手の勝ち。
変化6六銀図25
戻って、「7八歩」に 7六成銀(図)の場合。
これには6三と。そこで7七桂がある(次の図)
変化6六銀図26
よく似た形が上で出てきたが、その時とは後手の攻め駒の並びがわずかに違う。
この場合は8八香では、8九桂成、5二と、8八成桂、同玉、7七歩で、先手負け(銀の質駒がないから5二とが間に合わない)
ここでは、7七同歩が正解となる。同とに、9八桂と受ける(次の図)
変化6六銀図27(9八桂図)
ここで後手に色々な手があって、実戦的には「互角」にちかい勝負となる。しかし正確に対応すれば、後手のどの攻めも「先手勝ち」になるようだ。先手に「銀」が入ると5二とが後手玉の“詰めろ”になるので、後手が工夫して攻めても、なにかしら先手に勝ち筋が出てくるのだ。
この図で、先手は「5二と+4二と」の2手で後手玉に届く攻めになるが、後手はそれまでに先手玉を攻略したい(6三金、同角成は後手面白くない)
“6六銀”以下の攻防を、以下見ていく。
“6六銀”の狙いは、次に7五桂と打つこと(5二となら7五桂で後手良し)
だから先手は「敵の打ちたいところに打て」で、7五歩(=最善手)と打つ
それではと後手は6五桂とこちらに打つ(次の図)
変化6六銀図28
やはり5二とは8七と、同香、7七桂成で後手良しになる。
(単に6五桂だと先手に7八歩という手があったが、「6六銀、7五歩」の後では歩が使えない)
先手どうするか。
6六飛と飛車切りが最善手。同成銀で、後手の攻めを遅らせて、5二と。
銀が手に入ったので、5二とは3二角成、同玉、4一銀からの“詰めろ”になっている。
後手は1四歩で、詰めろを消す。4二と、同銀。
そこで8二馬(次の図)
変化6六銀図29
5五馬が狙い。
それを許せない後手は、5七飛と打つ。 先手玉への“詰めろ”になっている(8八と以下)
先手は4八金と打って、飛車を追う。5六飛成に、1一銀(次の図)
変化6六銀図30
1一同玉に、3二角成。
以下、2二銀に、3三銀打(代えて4二馬では先手負け)
後手は8七とで、最後の勝負(次の図)
変化6六銀図31
8七同香、3三銀右、同歩成、8八銀、同玉、7七桂成、8九玉(次の図)
変化6六銀図32
8九玉(図)で逃れている。3三銀には3一金と打って、後手玉は“必至”
先手勝ち。
変化6六銀図27(再掲9八桂図)
もう一度この図まで戻り、後手の攻めをもう一つ紹介しておこう。
ここから“8六銀”と捨て、同桂に、8五金と出る(次の図)
変化6六銀図33
ここで8七歩が常識的な手だが、それには8四桂と打たれて後手が優勢だ。
しかし6六馬という絶妙手があった(次の図)
変化6六銀図34
陰から突然現れたような6六馬(図)の“王手”で、先手良しになっている。
同成銀なら、先手玉の詰めろが消えて、逆に5二とで後手玉に“詰めろ”がかかって先手良い、という仕組みだ。
4四桂(4四歩でもだいたい同じ)以下が面白いのでそれを見ておくと、4四桂には、3三銀と打ちこむ。これを同銀は、同歩成、同玉、3四銀、同玉、3五歩、同玉、5七馬以下、“詰み”がある。
なので3三同桂だが、そこで7六馬(次の図)
変化6六銀図35
銀を補充した。これで後手玉に、2一金、同玉、2三飛成、1一玉、2二銀までの“詰み”があるというわけだ。
それを防いでも、8五馬や5三とで、これはもう先手勝ちで決まりである。
〔W〕7七銀成 は、4一角以下先手が勝てる。
(4一角に3二歩には3七飛、3一歩には2六飛、3二歩、7三歩成)
B9七玉図
〔U〕7五銀上 → 先手良し
〔V〕7五桂 → 先手良し
〔W〕7七銀成 → 先手良し
よって、≪B≫6六銀 には、「9七玉」で、先手良し。
以上の結果をまとめると
8七玉図
【午】8七玉 としたこの図は、≪A≫6六と、≪B≫6六銀、どちらの手に対しても、「9七玉」として、先手良し、が結論となる。
≪指始図≫5六とまで
その結果、こうなった。
【子】3三歩成 → 後手良し
【丑】2五香 → (互角に近いが)後手良し
【寅】2六香 → 後手良し
【卯】4一角 → 先手良し
【辰】5四歩 → 後手良し
【巳】6七歩 → 「互角」(持将棋の可能性あり)
【午】8七玉 → 先手良し
【未】7三歩成
【卯】4一角 と 【午】8七玉 とは、先手が手順を尽くせば、結局同じ図に合流することになるので、結果も連動して「先手良し」である。
「8七玉~9七玉」の手と、「4一角」を組み合わせる手で、先手に勝ち筋が存在していたということである。
つまり、最初の予定通り、▲8七玉 と指していれば、(正確に指して勝ち切れたかどうかはともかく)先手の勝ち筋のある道へと進めたはずなのである。
直感の通りに、そう進めていれば……。 9七玉と4一角の組み合わせは、見えていたのだ!!
ところが―――――
≪最終一番勝負 第25譜 指了図≫ 7三歩成まで
我々(終盤探検隊)は、指す予定ではなかった手、△7三歩成 を選んで指したのである。
理由は、説明できない。
“魔が差した”としか表現のしようがない。(▲8七玉なら先手良しだったのに……)
泉鏡花『註文帳』で剃刀研ぎ師の五助が、「19日は仕事をしない」と決めていたのに、なぜか註文帳を開いて一件の仕事を始めてしまった。それが“怪異な事件”をもたらした。
なぜ五助はその仕事(お若の剃刀を研ぐ)を始めてしまったのか。
それは、本人にも説明のしようのないことなのだ。
第26譜につづく
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