はんどろやノート

ラクガキでもしますか。

アコちゃん

2006年01月25日 | はなし
   [いつも魔女がドアを開ける 1]

 アコちゃんは近所に住んでいた2コ下の幼なじみだ。アコちゃんのお父さんは長距離客船の船員で、だからほとんど家にいなかった。
 小学生のときのはなし。小学生の時は年上であろうと男の子はみんな「○○くん」と呼ばれていた。ところがその時期、アコちゃんは僕のことを「○○○さん」と呼ぶようになった。年上の男の人は「○○さん」と呼ぶものよ、とお母さんにいわれたとかで。そういえば『ドラえもん』のしずかちゃんはのび太を「のび太さん」と呼ぶなあ。
 ある日の午後、アコちゃんと僕はふたりであそんでいた。で、僕の父の例の暗室にふたりで入ってみた。そして、ドアを閉めた。真っ暗だ。どきどきする。そこまではよかった。
 問題はそのあとだった。ドアが開かない! 押しても、押しても、開くはずのドアが開かない! ぼくらはあせった。ずっとこの暗闇の中に置き去りにされてしまう…。子供の想像力はどんどんふくらみいつのまにか僕とアコちゃんは泣きながらドアをたたいていた。
 「泣かないで 、○○○さん。」
と、アコちゃんは言った。
 そしてアコちゃんが一人でドアを押すと、ドアはパッと開いたのだ。
 その勢いでアコちゃんはこけて脚をすりむいた。ドアの外は光がまぶしかった。「ああ助かった」と僕はおもった。
 くらやみから脱出したぼくらはそのあと、アコちゃんの家に行った。すりむいたキズに消毒液を塗るアコちゃんの脚をおぼえている。「泣かないで」の声とともに。

 どうしても僕には開けることのできなかったドアを魔女が開けてくれる----僕はそういう体験を何度かしている。 (きっと僕だけではないと思うが。) そういうドアがたしかにある。

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