ふしぎなことです! わたしは、なにかに深く心を動かされているときには、まるで両手と舌が、わたしのからだにしばりつけられているような気持ちになるのです。そしてそういうときには、心の中にいきいきと感じていることでも、それをそのまま絵にかくこともできなければ、言い表すこともできないのです。しかし、それでもわたしは絵かきです。わたしの眼が、わたし自身にそう言い聞かせています。それにわたしのスケッチや絵を見てくれた人たちは、みんながみんな、そう認めてくれているのです。
わたしは貧しい若者で… (中略)
「さあ、わたしの話すことを、絵におかきなさい」と、月は、はじめてたずねてきた晩に、言いました。「そうすれば、きっと、とてもきれいな絵本ができますよ」
これはアンデルセン著『絵のない絵本』の冒頭である。「月」が、「絵かき」にいろいろな話を聞かせるという内容のこの本の文庫本を僕は若いときに買って、いまも持っている。(タイトル通りに挿絵はなし) だが、全部は読んでいない。アンデルセンの他の童話と違って、この話は、面白さがわかりにくい。それぞれの話に「オチ」がないのだ。
いわさきちひろは、この作品に絵をつけている。『絵のない絵本』で「月」の語る話は第一夜から第三十三夜まであって、それは、中国であったりグリーンランドであったり、時空を自在に駆けめぐっている。上の絵は、第二十夜のちひろの絵を模写してみた。「月」が見かけた、ローマの少女の話である。
第二十五夜ではドイツのフランクフルトの老婦人の話。それはユダヤ街の「みすぼらしい平民の家」に住むロスチャイルドの家なのである。
ロスチャイルド__。この家はその後、世界を動かすほどの大富豪になった。
ナポレオン戦争によって財産を築いたマイアー・アムシェル・ロスチャイルドの5人の息子たちは、ヨーロッパの各地に飛んだ。最も巨大になったのは、三男ネイサン・ロスチャイルドで、英国の金融王となった。フランスへ行った四男ジェイムズ・ロスチャイルドは鉄道王となり、オーストリアの最初の鉄道をつくったのもロスチャイルド家だ。そして、イギリスがエジプトのスエズ運河を手に入れるために株を買い占めたことは前に述べたが、そのときに英国にその資金を提供したのがロスチャイルドであった。彼らは、安全に、確実に、巨額の資金を運ぶ手段を持っていた。そうやって「信用」をつくっていったのだ。
どういう思いでアンデルセンがこの本の中にロスチャイルドを描いたのか、それはまったくわからない。
「月」は「わたしの話をかきなさい」と言ったけれど、「きっと、とてもきれいな絵本ができます」と保証してくれたけれど、そうは言っても、『絵のない絵本』を描くのは難しい。
ちひろがヨーロッパ旅行をしたのは1966年、47歳のとき。自分の仕事に自信をつけ、『絵のない絵本』を描きたくなったちひろは、どうしてもアンデルセンの故郷を見なければ、と思ったのだという。アンデルセンの故郷は、デンマークのオーデンセという町だ。
アンデルセンはこの物語のラスト第三十三夜を、ある四つの女の子の、次の言葉でむすんでいる。
「お母さん、怒らないでね」と、小さな女の子は言いました。「あたし、お祈りしたのよ。パンにバターもたくさんつけてくださいまし、ってね!」
わたしは貧しい若者で… (中略)
「さあ、わたしの話すことを、絵におかきなさい」と、月は、はじめてたずねてきた晩に、言いました。「そうすれば、きっと、とてもきれいな絵本ができますよ」
これはアンデルセン著『絵のない絵本』の冒頭である。「月」が、「絵かき」にいろいろな話を聞かせるという内容のこの本の文庫本を僕は若いときに買って、いまも持っている。(タイトル通りに挿絵はなし) だが、全部は読んでいない。アンデルセンの他の童話と違って、この話は、面白さがわかりにくい。それぞれの話に「オチ」がないのだ。
いわさきちひろは、この作品に絵をつけている。『絵のない絵本』で「月」の語る話は第一夜から第三十三夜まであって、それは、中国であったりグリーンランドであったり、時空を自在に駆けめぐっている。上の絵は、第二十夜のちひろの絵を模写してみた。「月」が見かけた、ローマの少女の話である。
第二十五夜ではドイツのフランクフルトの老婦人の話。それはユダヤ街の「みすぼらしい平民の家」に住むロスチャイルドの家なのである。
ロスチャイルド__。この家はその後、世界を動かすほどの大富豪になった。
ナポレオン戦争によって財産を築いたマイアー・アムシェル・ロスチャイルドの5人の息子たちは、ヨーロッパの各地に飛んだ。最も巨大になったのは、三男ネイサン・ロスチャイルドで、英国の金融王となった。フランスへ行った四男ジェイムズ・ロスチャイルドは鉄道王となり、オーストリアの最初の鉄道をつくったのもロスチャイルド家だ。そして、イギリスがエジプトのスエズ運河を手に入れるために株を買い占めたことは前に述べたが、そのときに英国にその資金を提供したのがロスチャイルドであった。彼らは、安全に、確実に、巨額の資金を運ぶ手段を持っていた。そうやって「信用」をつくっていったのだ。
どういう思いでアンデルセンがこの本の中にロスチャイルドを描いたのか、それはまったくわからない。
「月」は「わたしの話をかきなさい」と言ったけれど、「きっと、とてもきれいな絵本ができます」と保証してくれたけれど、そうは言っても、『絵のない絵本』を描くのは難しい。
ちひろがヨーロッパ旅行をしたのは1966年、47歳のとき。自分の仕事に自信をつけ、『絵のない絵本』を描きたくなったちひろは、どうしてもアンデルセンの故郷を見なければ、と思ったのだという。アンデルセンの故郷は、デンマークのオーデンセという町だ。
アンデルセンはこの物語のラスト第三十三夜を、ある四つの女の子の、次の言葉でむすんでいる。
「お母さん、怒らないでね」と、小さな女の子は言いました。「あたし、お祈りしたのよ。パンにバターもたくさんつけてくださいまし、ってね!」
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