今日は読みかけだった本『物質と精神』を読了しました。これは、立花隆が利根川進へ行ったインタビュー記事をまとめたもの。
利根川進氏は、1987年にノーベル生理学・医学賞を受賞されました。スイス・バーゼルにおいて、利根川さんは1970年代に当時の免疫学上の大問題である「抗体産生多様性」についての画期的な実験を行い、それが評価されたものであるという。
この本の中から、僕が気に入った、利根川さんの話したエピソードを一つ。
バーゼルでそろそろクビになりかけていた無名の実験科学者・利根川進が、生物化学研究の流れを変えるその実験結果をアメリカで発表すると、拍手喝采となり、壇上ですぐにワトソン(DNA2重らせん構造の発見者として超有名な男だ!)が近寄ってきて握手を求めてきた。(ワトソンは利根川さんにとっては雲の上の人だった。)
そしてその発表後、バーゼル免疫研究所の所長ヤーネはご機嫌になり、利根川さんに対しては、「いくらでも予算を使っていい、人も増やしていい」ということになった。そうした流れの中で、利根川進の下に、優秀な研究者が集まるようになる。
その中に、リタ・シュラーという女性もいた。 以下その女性研究者についての、利根川さんの話。
「これがまた実に優秀なテクニシャンでしたね。そして、何というのか、不思議な運をもっていて、彼女が手がけたプロジェクトは必ず成功する。前に彼女がいたところのボスが紹介してくれたんですけど、本当に、彼女が参加した実験はみんなうまくいった。
ところが本人はいたって欲がない人で、面白い人生哲学を持っている。自分はいつも自分の能力の80%しか発揮しないで生きていくことにしているというんです。全力を発揮して生きていくなんていうのは誤りだというんです。どんな危機に際しても、最後の5%は絶対に使わないで残しておく。100%全部出しきったら、絶対に失敗するという。
なかなかできる子だったんで、当時マスターだったんですが、ぜひドクターコースに進んで学者になれといったんだけど、彼女は自分の80%理論を実践して、そんなのはいやだといって結婚して家庭に入っちゃった。」
この“80%理論”、将棋でいえば、「最後まで持ち時間を5分残しておく」、みたいなことですかね。
僕はこういう生き方を貫いていることを「あっぱれ!」と思うと同時に、カニグスバーグ著『エリコの丘』のように、「出し惜しみする人は一流になれない」とする説にも、「なるほど!」と頷くのであります。
追記: うひゃー、しっぱい。 ほんのタイトルは『精神と物質』でした! 訂正します。