まだamazonでは取扱っていないようですが、「マイクロソフトを変革した知財戦略~BURNING THE SHIPS」という本が発売されています。2000年までIBMで知財戦略の礎を築いた後、2003年以降はマイクロソフトの知財戦略をリードしているマーシャル・フェルプス氏の著作(ジャーナリストのデビット・クライン氏との共著)で、IBMやマイクロソフトの知財に対する考え方の根底にあるものを知る上で、たいへん貴重な本です(翻訳の労を取られた皆様に深く敬意を表したいと思います)。
以前に「成長企業の知的財産戦略←一部修正」にも書いたとおり、ここ1年ほどの間で私自身の知財に対する考え方がかなり変化してきました。知財活動において、参入障壁として他者を排除するということに拘るのではなく、顧客との結びつきを強めるために最適の方法を探るべき、という考え方です。そして「知的財産とは何か」にも書いたとおり、知財そのものを企業理念の表れと捉えるならば、知財人のやるべきこととは、その企業理念の込められた知的財産を顧客に届けるルートを整えることにあるのではないか、と。それゆえに、知的財産について考えるときには、「ライセンス活用」とか「参入障壁」とかいった典型的な効果が見えるケースをはじめから念頭に置くのではなく、知財活動の本質的な機能から知的財産が本来もっているはたらきを捉え直し、その中からビジネスニーズに合ったはたらきを活かしていくのが望ましい。その本質的な機能とは、知財を切り出し、外にはたらきかける、という2つの工程に直結し、そこからは少なくとも7つのはたらきを知的財産に期待できるはずであると思います(詳しくは「
静的な知財権の効果ではなく、動的な知財活動の効果」のエントリに。)
9月の初め頃には世に出せそうな新著にも、そういったことを書いたのですが(さすがに書籍ではもっと丁寧にわかりやすいように書きましたが)、「マイクロソフトを変革した知財戦略~BURNING THE SHIPS」の第1章を読んだところで、私のレベルでこんなことを書くのもおこがましいですが(というか私のレベルだからこんなことを書いているのかもしれませんが)、フェルプス氏はとっくの昔に(IBM時代から)そんなことはお見通して、一貫したスタンスで知財に向き合ってきているということに少々驚かされました。以下、強く印象に残った部分の引用です。
「知的財産の最も大きな価値は、競争者に対する武器としてではなく、企業に首尾よく競争するために必要な技術と能力を獲得することを可能とする、他の企業とのコラボレーションの橋渡しに役立つということである。」
第1章には、これに類する思想が繰り返し述べられており、「IBM=特許権の積極活用でライセンス収入を拡大」「マイクロソフト=巨大化して特許訴訟の標的になりやすくなったので積極出願に転換」なんて話は、物事の表面しか見ていない薄っぺらな解説であることを改めて感じた次第です。
知財はビジネスを構成する要素の一つなので、ビジネスのルールが変化すれば知財の扱い方も当然に変化します。そうすると、本質的に変わらないのは、知財活動によって知財が切り出され、外にはたらく力を持つ、というところまでであって、その切り出す行為にどのような意義を見出し、外にはたらく力をどのように生かすのが有利かは、ビジネスのルールに従って当然に変化するものです。もちろん、ビジネスのルールに大きな変化がない業界では従来からの手法を変える必要はないのですが、変化の激しい業界ほど知財の意義についてもリセットが必要です。そして、業界でなく中小企業という規模から企業をみた場合にも、その規模ならではのビジネスのルールがある。自力で全てを賄うことが難しいほど「コラボレーション」は避け難いルールになり、どのように有効なコラボレーションを実現し、自社がその中でどのように優位な位置取りをとるかということは、必ず中小企業経営者の頭の中にあるはずです。その目的に対して、知的財産のはたらきをどのように活かしていけるか。
長くなってきたので、本日はとりあえずそんなところで。
以前に「成長企業の知的財産戦略←一部修正」にも書いたとおり、ここ1年ほどの間で私自身の知財に対する考え方がかなり変化してきました。知財活動において、参入障壁として他者を排除するということに拘るのではなく、顧客との結びつきを強めるために最適の方法を探るべき、という考え方です。そして「知的財産とは何か」にも書いたとおり、知財そのものを企業理念の表れと捉えるならば、知財人のやるべきこととは、その企業理念の込められた知的財産を顧客に届けるルートを整えることにあるのではないか、と。それゆえに、知的財産について考えるときには、「ライセンス活用」とか「参入障壁」とかいった典型的な効果が見えるケースをはじめから念頭に置くのではなく、知財活動の本質的な機能から知的財産が本来もっているはたらきを捉え直し、その中からビジネスニーズに合ったはたらきを活かしていくのが望ましい。その本質的な機能とは、知財を切り出し、外にはたらきかける、という2つの工程に直結し、そこからは少なくとも7つのはたらきを知的財産に期待できるはずであると思います(詳しくは「
静的な知財権の効果ではなく、動的な知財活動の効果」のエントリに。)
9月の初め頃には世に出せそうな新著にも、そういったことを書いたのですが(さすがに書籍ではもっと丁寧にわかりやすいように書きましたが)、「マイクロソフトを変革した知財戦略~BURNING THE SHIPS」の第1章を読んだところで、私のレベルでこんなことを書くのもおこがましいですが(というか私のレベルだからこんなことを書いているのかもしれませんが)、フェルプス氏はとっくの昔に(IBM時代から)そんなことはお見通して、一貫したスタンスで知財に向き合ってきているということに少々驚かされました。以下、強く印象に残った部分の引用です。
「知的財産の最も大きな価値は、競争者に対する武器としてではなく、企業に首尾よく競争するために必要な技術と能力を獲得することを可能とする、他の企業とのコラボレーションの橋渡しに役立つということである。」
第1章には、これに類する思想が繰り返し述べられており、「IBM=特許権の積極活用でライセンス収入を拡大」「マイクロソフト=巨大化して特許訴訟の標的になりやすくなったので積極出願に転換」なんて話は、物事の表面しか見ていない薄っぺらな解説であることを改めて感じた次第です。
知財はビジネスを構成する要素の一つなので、ビジネスのルールが変化すれば知財の扱い方も当然に変化します。そうすると、本質的に変わらないのは、知財活動によって知財が切り出され、外にはたらく力を持つ、というところまでであって、その切り出す行為にどのような意義を見出し、外にはたらく力をどのように生かすのが有利かは、ビジネスのルールに従って当然に変化するものです。もちろん、ビジネスのルールに大きな変化がない業界では従来からの手法を変える必要はないのですが、変化の激しい業界ほど知財の意義についてもリセットが必要です。そして、業界でなく中小企業という規模から企業をみた場合にも、その規模ならではのビジネスのルールがある。自力で全てを賄うことが難しいほど「コラボレーション」は避け難いルールになり、どのように有効なコラボレーションを実現し、自社がその中でどのように優位な位置取りをとるかということは、必ず中小企業経営者の頭の中にあるはずです。その目的に対して、知的財産のはたらきをどのように活かしていけるか。
長くなってきたので、本日はとりあえずそんなところで。
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