今年の春は「青春18きっぷ」を買い求めたこともあって、
日帰り可能な、お花見を楽しむことができました。
でも、いい気になって、歩き回っていたせいか、ここに来て脚が痛むのです。
痛み止めを数回飲みましたが、ダメ。
近くの整形外科医で受診、レントゲン等の診察を受けましたが、
特段の所見は見当たらないということで、鎮痛薬を頂いてきました。
が、痛みがとれません。
快復力が弱いのは、高齢だからでしょう。
しばらくは、大事すぎない程度に我が身をいたわらなければならないようです。
動かないと、筋肉は、あっという間に落ちてしまいますから。
でも、動く時間が少なかったせいで、読書タイムが増えました。
悪いことばかりでもないのです。
高所恐怖とか閉所恐怖と同じく、〈空間恐怖〉というのがあるそうです。
『焼野まで』(村田喜代子著・朝日新聞出版)から少々。
《「空間恐怖ってご存じですか」
「閉ざされた狭い所が苦手な人もいるようですが、広すぎる場所も恐怖の対象になるんですよ。
わたしはどうもそっちの方なんです」
『たとえばどんなふうに怖ろしかとです?』
「ええ、砂漠だとか、広い海の真ん中とか。
それにとくに広い場所でなくても、ただコンクリートの床だけの何もない広場とか、
真夏の空の物凄く大きな入道雲とか」
『ははあ。自分と空間のサイズが、突然合わんごとなるんですな』
………………………………………………………………
………………………………………………………………
のっぺらぼうの溶岩原に風が吹いている。
死ぬというのはこの世から自分の居場所を失うことだ。
空間恐怖とはまだ生きているのに、死んだ人間の眼で見てしまうことではないだろうか。
世界はこんなに広々とひらけているが、必ずいつか閉じるときが来る。
それは自分が死ぬときだ。
………………………………………………………………》
このページの会話から、私は、70年前にタイムスリップしたのです。
当時、8歳だった私は、空襲を避けて田舎に避難していました。
食糧不足でした。
三つ上の兄と、食べられる野草を採るために、田んぼの畦や野っ原を、毎日探し回っていました。
ある日の夕刻、芹摘みに夢中になっていて、ふと兄の所在が気にかかって立ち上がったのです。
西の山並みに拡がる夕焼け、北の空には盛り上がる入道雲、田んぼの広がり。
自分が、ポツンと、一人立っていて…………。
突然、私は名状できない恐怖感に襲われ、叫び声と共に兄の元へ駈け参じたのです。
驚いた兄は、“ばーか、どうした”と言って、私を抱き留めてくれました。
そして、目をつぶったままの私の手を握って、家まで戻ったのです。
あれは、「空間恐怖」だったのでしょう、きっと。
〈ゴマメのばーば〉
日帰り可能な、お花見を楽しむことができました。
でも、いい気になって、歩き回っていたせいか、ここに来て脚が痛むのです。
痛み止めを数回飲みましたが、ダメ。
近くの整形外科医で受診、レントゲン等の診察を受けましたが、
特段の所見は見当たらないということで、鎮痛薬を頂いてきました。
が、痛みがとれません。
快復力が弱いのは、高齢だからでしょう。
しばらくは、大事すぎない程度に我が身をいたわらなければならないようです。
動かないと、筋肉は、あっという間に落ちてしまいますから。
でも、動く時間が少なかったせいで、読書タイムが増えました。
悪いことばかりでもないのです。
高所恐怖とか閉所恐怖と同じく、〈空間恐怖〉というのがあるそうです。
『焼野まで』(村田喜代子著・朝日新聞出版)から少々。
《「空間恐怖ってご存じですか」
「閉ざされた狭い所が苦手な人もいるようですが、広すぎる場所も恐怖の対象になるんですよ。
わたしはどうもそっちの方なんです」
『たとえばどんなふうに怖ろしかとです?』
「ええ、砂漠だとか、広い海の真ん中とか。
それにとくに広い場所でなくても、ただコンクリートの床だけの何もない広場とか、
真夏の空の物凄く大きな入道雲とか」
『ははあ。自分と空間のサイズが、突然合わんごとなるんですな』
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のっぺらぼうの溶岩原に風が吹いている。
死ぬというのはこの世から自分の居場所を失うことだ。
空間恐怖とはまだ生きているのに、死んだ人間の眼で見てしまうことではないだろうか。
世界はこんなに広々とひらけているが、必ずいつか閉じるときが来る。
それは自分が死ぬときだ。
………………………………………………………………》
このページの会話から、私は、70年前にタイムスリップしたのです。
当時、8歳だった私は、空襲を避けて田舎に避難していました。
食糧不足でした。
三つ上の兄と、食べられる野草を採るために、田んぼの畦や野っ原を、毎日探し回っていました。
ある日の夕刻、芹摘みに夢中になっていて、ふと兄の所在が気にかかって立ち上がったのです。
西の山並みに拡がる夕焼け、北の空には盛り上がる入道雲、田んぼの広がり。
自分が、ポツンと、一人立っていて…………。
突然、私は名状できない恐怖感に襲われ、叫び声と共に兄の元へ駈け参じたのです。
驚いた兄は、“ばーか、どうした”と言って、私を抱き留めてくれました。
そして、目をつぶったままの私の手を握って、家まで戻ったのです。
あれは、「空間恐怖」だったのでしょう、きっと。
〈ゴマメのばーば〉